住宅ビルのワンフロアを3人家族のためにリノベーションした、女性建築家のご自宅を取材しました。そこには、子育て世代が効率的に家事と育児をこなせる収納の工夫がたくさんありました。
寺川奈穂子さん
「隅研吾建築都市設計事務所」
壁と天井を取り払い、ゆったりしたワンルームへ
勤務する建築事務所では、主に商業建築や公共建築の設計を手がけているという寺川さん。もうすぐ2歳になる男の子を育てる、ワーキングマザーです。子どもが生まれたのを機に、実家の住宅ビルのワンフロアに引っ越すにあたって、フルリノベーションをしました。
「もともとは、祖母が住んでいた54㎡の1LDKでした。個室を作ると狭いので、ワンルームのような造りにしたいと考えて、プラン検討を進めました。壁は取り払い、天井をはがすことで高さを出して、光と風が循環するように考えました」(寺川さん、以下同)。
デザインを統一した造作の収納家具
商業系の建築を手がけることが多いので、「見せる収納」を考えることが多い、と寺川さん。カフェやショップのデザインをする際も、建築の一部として収納をつくっていくそうです。
「コストを押さえるため、キッチンなど水回りの位置は変更しませんでした。また、家具は自分でデザインしたオリジナル造作です。大工さんに組み立ててもらえるシンプルな構造で、家具屋さんに依頼するよりもはるかにローコストでした」。
造作家具は、有孔合板を活用したデザイン。リビングの収納家具は、レールを入れて、障子のように左右に移動させられる扉を付けました。
「入れるものはすべて把握していたので、サイズもきっちりと決めてつくりました。なるべく家具の高さを低く抑え、部屋全体を広く見せる工夫をしています」。
家事と育児の動線を考えて収納をつくる
共働きの忙しいワーキングマザーとして、こだわったのはやはり「家事と育児の動線」。
玄関とキッチンをつなぐカウンターテーブルは、買い物をして帰ったら荷物を置いて、ささっと冷蔵庫にしまうことができます。キッチンから寝室までの間に位置するバスルームにも、機能的な造作収納の付いた洗面台を配し、その先には寝室とクローゼットを設えました。
「生活の流れがよどまない間取りを考えました。場所に適したモノがコンパクトに整理してあり、出しやすく、しまいやすい収納。業務用のようなイメージで、どこに何があるか、家族にパッとわかることがポイントです」。
収納も、建築と同時にデザインしていく
「建築は、平面図からデザインをつくっていきます。生活する場所と、機能的にモノを収めるところを共有させるために、いくつもスタディを重ねました。壁面全体を収納にする案も考えたのですが、はやりやはりこのスペースには圧迫感があります。高さを揃え、余白を残しながら収納を組み込んでいったら、スッキリした空間が実現しました」。
建築と収納の機能性だけでなく、子どものオムツは買って来たらすぐにパッケージから出し、リビング・洗面台・寝室などに仕分けておくなど、子育て収納テクニックも素晴らしかった寺川さんのご自宅。仕切りのない広々空間で、お子さんがのびのびと過ごしている姿が目に浮かぶ、素敵なお家でした。