第1回 家族それぞれが大切な場所を持つ家具職人と人形作家が暮らす部屋

収納のしかたは十人十色。
おうちの収納やお気に入りのものから見えてきた、「収納と暮らし」をめぐる短い物語をお届けします。

<住人プロフィール>
寺本義昌さん 家具職人
あゆ子さん 洋裁家・人形作家
たまきちゃん

賃貸マンション・3LDK・横浜市青葉区
入居3年・築約30年

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梅雨の合間のカラッとした日差しの中、生け垣は青々と生い茂り、畑には艶やかなトマトがその実を陽の光に輝かせている。まるでジブリの映画に出てきそうな小径を抜けると、年季の入った、しかししっかりした造りのマンションがあった。ここに住むのは、家具職人の寺本義昌さん、その妻で人形作家のあゆ子さん、そして愛娘のたまきちゃんだ。

ドアが開き、招き入れられてまず感じたのは、なにやら面白そうなモノたちが待っていそうな気配。はやる気持ちをおさえ、いそいそと靴を脱ぐ。ちゃぶ台が置かれた居間の隅には、文鳥の鳥かご。美しい毛並みの3羽は人懐こいようで、突然の来客にも興味津々。軽やかな鳴き声をBGMに、丁寧に淹れた冷たいほうじ茶をいただく。

まず気になったのは、居間で静かに存在感を放つ桐の着物箪笥。聞けば、知人が家の整理をする際に譲り受けたものだという。一段目には義昌さんがお正月に着る着物、二段目にはあゆ子さんがお祖母様より譲り受けた着物、そして三段目には「雑多でこまごましたもの」が入っている。家具そのものが湛える重厚な雰囲気のおかげか、すっきりとした印象の部屋だ。

キッチンにある大きな本棚には、あゆ子さんが子どもの頃に愛した絵本、海外の画集から日常の実用書まで、さまざま本がぎっしりと詰め込まれている。見入っていると、「実はこの本棚、母が父に結婚記念に贈ったものなんです。両親が結婚したとき、父はまだ学生で」とあゆ子さん。今ではさすがに棚板がたわんできたそうだが、両親の愛情ごと譲り受けた古い本棚は、まるで愛の揺るぎなさを証明するように、まだまだ健在だ。

家のあちこちには、大小さまざまな形の籠が置かれている。形や大きさの揃わないものは、ざっくりと籠に収納するスタイル。籠の持つ温かみのある風合いは、不思議なほどこの家と調和する。中にはあゆ子さん手作りの竹籠も。「近所のおじいちゃんに教えてもらうんです」というあゆ子さん、昔話がてら、人生の先輩の知恵と技を受け継いでいるのだ。

人形作家でもあるあゆ子さんの仕事部屋を見せていただく。壁には色とりどりのミシン糸に加え、旅先で手に入れた絵画やオブジェが並ぶ。

壁沿いに腰掛けるあゆ子さんの作る人形は、長い手足にちょっとアンニュイな表情を浮かべ、少し昔の外国の少女を思わせる佇まい。繊細な作りで、日本ではあまりお目にかからないタイプだが、アメリカにはたくさんあるスタイルだという。ひと目で気に入り、専門書を読み漁って研究した。これまで何百体と作ってきた人形はほとんどが売れてしまい、いま手元にあるのはごくわずかだ。

よく見ると、カゴに収められた人形たちはずいぶんと柔らかい印象のものばかり。聞くとそれらは最近の作品で、2歳になる娘のたまきちゃんが生まれてからは、自然と「ぎゅっと抱きしめられるもの」に作風が変わってきたそう。

人形たちが纏うのは、一点ずつ手作りする洋服。色・柄ともに印象的でどこか懐かしく、どれひとつとして同じものはない。素材には、外国のアンティークの端切れや古着などを使っており、自身でも集めるほか、知人たちが「あなたなら活用してくれると思って」と持ってきてくれることもしばしば。押し入れには、そんな美しいファブリックたちが、ふたたび役目を与えられる日を待っている。

「よかったら夫の工房も見に行きませんか?」とあゆ子さんに案内された工房は、豊かな自然の山間にあった。打合せ用のショウルームを兼ねており、義昌さんの作った家具、あゆ子さんの人形が並ぶ。実は以前は夫婦の住居でもあったというこの工房。その時の暮らしを義昌さんは「本当に楽しかったですね」と懐かしむ。

自然に囲まれたこの工房の窓の外では、秋は木々が赤く色づき、冬は雪が舞い、そして春には満開の桜がひろがる。そんな自然の借景が味わえるぜいたくな工房には、“打合せ”と称し、夜な夜な仲間が集ったという。桜吹雪の夜に酌み交わす酒は、さぞ心を通わせるものだろう。

スッキリと片付いた工房に、義昌さんはあまり物を持たないのかと訊ねると、妻のあゆ子さんが「いえいえ、この裏にまた部屋があって、誰がこんなに座るのかっていうぐらい椅子があるんです」と笑う。義昌さんが「あくまで研究用ですよ(笑)」と教えてくれた、その愛するコレクションは、北欧モダンの名作あり、アメリカの有名作家のものありと、椅子好きなら垂涎の品ばかり。

家族の大切なコレクションには口を挟まない。ふたりの間の穏やかな空気は、それぞれのテリトリーへの寛容さが作り出すものなのかもしれない。

さて、忘れてはいけないのは、おふたりの愛娘・たまきちゃんの“大事な物”。それは自宅の居間にあるおままごとのキッチンセット。子供のおもちゃらしい明るいピンクは、あゆ子さんの好みには少々そぐわないのだが……。

「塗り直そうかとも思ったのですが、本人は気に入っているし、次に使う子もそうかもしれないから」というあゆ子さんのことばからは、役割を終えた物は大切に譲っていく気持ちが伺われる。

家族ひとりひとりが、それぞれ大切な物と場所を持つ寺本家。あゆ子さんの“おうち観”を訊ねると「楽しくて、ご飯がおいしく食べられるところ」。癒やしの空気に満ちたこの部屋は、今日も家族の帰りを待っている。

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