今週は、ライターの増渕が暮らしとモノの向き合い方についてお届けします。
広告のコピーで、「愛着の湧くモノ」、「一生モノ」という表現を使うことがあります。時間を重ねて風合いを増すモノ、経年変化を楽しむモノには、天然木の家具やリネンのファブリック、葡萄のツルのカゴバッグなど、さまざまなものがありますが、ぐるりと見まわすとわが家にもありました。
10年ほど前、インテリアカタログの『職人の手仕事』の取材で東北に行き、さまざまなモノたちと出会いました。中でも盛岡の南部鉄器の取材で出会ったグリルパンは、いまでもキッチンの主役。魚や肉をジューシーにこんがりと焼き上げてくれます。(かなり年季が入っていますね~)
このグリルパンと一緒に連れて帰った、宮沢賢治の詩の一節が入った鍋敷きは、ちょっと錆びついています。これも味わいというところですが、南部鉄器は使用後にすぐ洗って、火を通して乾かさないと、あっという間に錆びてしまうんです。ちょっと面倒な気もしますが、この「ひと手間」が、モノへの愛着を育んでいるんですね。
手軽で「愛着」のわくモノ
さて、価格的にも材質的にも一生モノといえるか疑問はあるものの、毎日ひっぱりだこの道具が、韓国で購入した小ぶりのラーメン鍋です。韓国の袋麺(辛ラーメン)がピタッと入る大きさで、軽くて扱いやすいアルミ製、お手入れもササッと洗うだけで、超カンタン。味噌汁、鍋もの、煮物、カレーなど、ほぼ毎日わが家のコンロでコトコト湯気を立たせています。
日々キッチンで活躍中のラーメン鍋とは正反対に、使われることなく、ずーっとキッチン棚の片隅に存在しているモノもあります。それが、アルマイトの「三匹の子豚のお弁当箱」。わたしが幼稚園のころに使っていたもので、もはや想い出のオブジェと化していますが、これも愛着なのかな。
ちょこっと「ひと手間」のやさしさ
こちらは鎌倉の取材先で、ひとめぼれして購入した南部鉄器の急須。お店の方に「毎日のお手入れ次第で、沸かすお湯のおいしさが変わるんですよ」と教えていただいたのですが、毎日こまめに手入れをするぞ!という覚悟ができず未使用です(笑)。
使い手によって風合いが変わり、使う人の愛情がそのままおいしさになる。ずっと一緒に暮らしていける「モノ」たちは、毎日を心豊かにしてくれます。忙しい日も、きちんとひと手間を掛けられる大人になりたいな。あ…、すでにかなり前から大人でした(笑)。
ライター・増渕