今週は、編集部の栗谷川が「ものと暮らしの関係」を考えるためのお気に入りの一冊を紹介します。

編集部・栗谷川

編集部・栗谷川

読書、映画、料理などインドアな趣味が大好き。夫・娘・猫2匹と東京都内で暮らしています。整理収納アドバイザー。

言わずと知れた銀幕の大スター、高峰秀子。
映画での活躍はもちろん、暮らしや料理、自身の人生のことを気取らない口調で語るエッセイの名手でもありました。

『いいもの見つけた』著書:高峰秀子 中公文庫

数ある高峰作品の中でも、お気に入りの一冊がこちら。
高峰秀子が暮らしの中で愛用したものを集めて、使い心地や、ものとの出会いを短めのエッセイとともに紹介した一冊です。

幼い頃から芸能界で活躍し続けた彼女だから、さぞかし高級で手が届かないものばかりが載っているのかと思いきや、そんなことはありません。
近所の古道具屋で買ったものや金物屋で出会ったもの、譲り受けたものやお手伝いさんの手作りの品……。
使い手の温度がそのまま伝わるような、庶民的なものたちが賑やかに掲載されています。(ミンクの1点もののコートなど、よだれの出るような美しいものももちろん掲載されていますが……)

この本が出版されたのは、1979年。今から41年前です。
一昔前のお話なのに、彼女が愛用していたものは、驚くほど今よく使われているものと近くて、今読んでも違和感が少ないのです。

たとえばこちらは、「ハンドバッグの中仕切り」として紹介されているポーチ。
今で言うところの「バッグインバッグ」ですよね。
忙しい彼女は、バッグの中身を入れ替える手間を省くため、ぽん!とこのポーチごとバッグの中身を入れ替えていたそう。

こちらは「物干しバサミ」として紹介されているもの。洗面所に自分の下着を干すときに愛用していたものだそう。
洗濯バサミでありながら、フックがついたこの形。
あれ、この形、どこかで見たことがあるような……と思ったら、ここ数年「無印良品」などで大ヒットしている「ひっかけるワイヤークリップ」ではありませんか!
当時はアメリカ製、香港製のものしか販売されていなかったそうです。

さすが、高峰秀子です。
約40年後に読んでも、色褪せない憧れを感じさせるものや、便利なものを見つける先見の明が光る品揃えに、唸らされるものばかりです。
彼女が暮らしの中でそれらのアイテムを使いながら、楽しんでいることが伝わってくる語り口調にも、ほっこり嬉しい気持ちになるのです。

私は仕事柄、収納について調べることが多いため、スマホやパソコンの広告欄にはいつも収納アイテムがチラチラと存在しています。
ついつい覗くと、みんなのレコメンドアイテムや便利そうなアイテムがずらりと並び、気をぬくとポチッとしてしまいそうに。

SNSの「あ!これ欲しい!」にちょっと待った! それは本当に必要?この記事のようにSNSの沼にハマってしまうことも多々あります。

ネットでいつでもものが手に入る環境、全国展開のお店に行けば全国のレコメンダーがオススメする商品が手に入る環境。とても便利な環境ではあるのですが、この本を読むと、ひとつ気づかされることがあります。

それは、「買える/買えない」ではなく、「私の暮らしに活躍する/しない」という判断を一つひとつのものに対して行っていくことが大切なのでは?ということ。
活躍する、というのは便利ということだけではなく、見ているだけで癒されたり、嬉しくなったりするものも活躍していると言えるでしょう。

流行っていなくても、すぐに手に入るものではなくても。
一緒に暮らして楽しそう?そうではなさそう?と常に想像する気持ちを大切にしていきたいな、と思うのです。

当たり前のことでありながら、それが自分にできている?と問いかけると、ググッと答えに困ってしまういまの私。
いつの日か、自然と「ものと暮らしのいい関係」を築けるようになれたら……と思うものの、誘惑の多いこの時代、かなりの訓練が必要かも。

そんなことを思い出させてくれた、この本自体が、わたしにとっても「いいもの見つけた」なのでした。