第11回目となるおうち探訪は、キッチンにフィーチャー。料理研究家・市瀬悦子さん(@ichise_etsuko)のお宅を訪問し、リノベを行ったキッチンのこだわりポイントを教えていただきました。
ツレヅレハナコさんプロフィール

食と酒と旅を愛する文筆家・料理研究家。書籍、雑誌、WEBなどへの寄稿やレシピ提案だけでなく、調理器具のプロデュースなども手掛ける。『女ひとり、家を建てる』(河出書房新社)『まいにち酒ごはん日記』(幻冬舎)、『世界の現地ごはん帖』(光文社)、『47歳、ゆる晩酌はじめました。』(KADOKAWA)など著書も多数。
https://www.instagram.com/turehana1/
市瀬悦子さん宅のプロフィール

住まいの種別:分譲マンション
築年数:50年(居住年数15年)
地域:東京都
延床面積:非公開
施工会社:非公開
間取り:3LDK
家族:夫
リノベは2回目。間取りを変え、キッチンとリビングの一体感を高めました
ツレヅレハナコさん(以下ハナコ):市瀬先生、お久しぶりです! 料理雑誌の編集者時代にはお仕事をお願いする立場だったのですが、こうしてまたお会いできてうれしいです。
市瀬さん(以下市瀬):今日は楽しみにしていました!

ハナコ:以前のキッチンも素敵だったのですが、4年前にご自宅をフルリノベされてキッチンも大きく変わったんですよね?
市瀬:そう! 15年前このマンションに越してきたときもリノベしていて、今回が2回目。住んでいるうちに、「ああしたい、この不便を解消したい」というところが少しずつ出てきたんです。引っ越し・住み替えも考えたけれど、眺望や周辺環境はとても気に入っていたから結局はリノベを選びました。
ハナコ:2回目のリノベのテーマはなんだったんですか?

市瀬:仕事(料理撮影)のしやすさとプライベート空間の確保です。料理雑誌や書籍の撮影が多いから、私にとってキッチンは仕事場でもあります。以前もアイランドキッチンだったけれど、もっと小さくて。それに、コンロが奥まった場所にあったんです。出来上がった料理はダイニング側で撮影するから、撮影チームとの距離感を感じていました。もっと一体感が欲しいなと思い、今回はⅡ型のアイランドキッチンにすると決めていたんです。

ハナコ:なるほど! シンクとガスコンロは壁側にありますが、IHコンロはアイランドに設置されています。ガスコンロで調理していても、振り向けばダイニングテーブルがよく見える配置ですね。


市瀬:ダイニングテーブルは、壁掛けテレビとレコード棚の前に置いています。開放感があるから、調理しながらでも撮影チームと会話しやすいです。
ハナコ:プライベート空間の確保はどのように工夫されたんでしょうか。
市瀬:キッチンとリビングは一体感を重視して広くとり、家の中心に。でも、寝室や夫の部屋からもその他の水回り(洗面所や浴室)、玄関へアクセスできるように設計しました。以前はキッチンを通らないとトイレにすら行けない間取り。夫が家にいる日に私の撮影が入ってしまったら、夫にもスタッフさんたちにも気を遣わせてしまうことに。それが気になっていたんです。
ハナコ:キッチンとリビングだけのリノベかと思っていました! かなり大がかりだったんですね。
市瀬:はい、スケルトンにして間取りを大幅に変えました。
リノベデザイナーに依頼して正解。希望イメージの具現化をサポートしてもらいました
ハナコ:施工会社はどのように選んだのですか?
市瀬:私の兄が不動産関係の仕事をしているので、紹介してもらいました。今回は、リノベデザイナーにもお願いして、間に入ってもらったんです。これがとてもよかった!
ハナコ:初めて聞く職業です。どんなことをお願いしたんでしょうか?
市瀬:リノベデザイナーは、間取りや内装について、デザイン面から施主の要望を形にしてくれる専門家です。「こういう風にしたい」と希望を伝えることはできても、提案図面から完成形を想像することはすごく難しいですよね。そんなときに具体的にアドバイスしてくれて助かりました。
市瀬:天板やタイルなどの素材探しでも、「こんな質感、イメージで」とデザイナーさんにリクエストすると、「このメーカーにありそうだから一緒にショールームへ行きましょう」と選択肢を絞って提案してくれました。

ハナコ:それはいいですね! すべての素材を自分で探すのは時間的にも難しいですし。私も実際に家を建ててみて、ある程度プロに任せたほうが全体的にまとまるもんだなと感じました。施主としては、家づくりは生涯一度の一大イベント。希望は全部叶えたいと思ってしまいますが、いろいろ詰め込みすぎると「あれ、こんなはずじゃ?」という結果になってしまうこともあると思うんです。だから、施主の希望をきちんと聞きつつ、俯瞰して見てくれるプロの目は必要ですよね。
市瀬:そうなんです。でも、さじ加減は難しいですよね。実は他にもいいなと思っていた施工会社があったのですが、会社のカラーが強すぎて「あなたの希望よりこっちのほうがいいですよ」と押し切られそうな気がしてやめました。施主のリクエストに寄り添いつつ、軌道修正してくれるバランスのいい会社選びが、リノベ成功のコツかもしれません。

市瀬:私は希望に合う写真や雑誌の切り抜きをたくさん集めてファイリングすることで、施工会社やデザイナーとイメージ共有できるようにしました。それもよかったと思います。
メインはステンレス。温かみも欲しいから、飲み物コーナーは木のオープン棚に
ハナコ:このステンレスキッチンは、業務用厨房機器メーカー・タニコーの「MEISDEL」なんですよね? うちと同じです。
市瀬:前のキッチンもタニコーさんで、今回も迷わず選びました。分厚いステンレスでつくってくれるところは、ここだけじゃないかと思います。1ミリ単位でオーダーできるのもすごい。
ハナコ:私は取材で工場を見学したこともあるのですが、ステンレス加工技術がとにかく高い! 打ち合わせでは「できないことはほぼないから、なんでも言ってください」と言われてビックリしました。
市瀬:引き出しの数や幅も自由に決められました。壁付キッチンは傷が目立ちにくく、反射の少ないオールバイブレーション仕上げですが、アイランドと食器棚側のキッチン天板は少し白っぽく見せたくてグレーのクオーツストーンを選択。これはアイカのものです。あとは、ゴミ箱をどうしても隠したくて、扉をつけてもらいました。

ハナコ:こんなところにゴミ箱が! ガスコンロとシンクのちょうど間にあって、シンクのゴミも捨てやすいですね。扉で隠せばすっきりするし、匂いも気にならなくていい!
市瀬:ゴミ箱収納は一番こだわったポイントかも? メインのキッチンはこんな感じで、ステンレスでまとめていますが、コーヒー・紅茶をまとめたコーナーは温かみのある木製の棚をつくってもらいました。キッチンから見て右側の壁に設置しています。

ハナコ:こちらも素敵〜。オールステンレスはカッコいいけれど、ご自宅でもあるし、リラックスできる雰囲気だって必要ですもんね。
市瀬:ここは見せる収納。お気に入りのコーヒー道具やアンティークの器などを飾っています。

パントリーはなし。アイランドに食品ストックコーナーをつくり、その分リビングを広く
ハナコ:アイランドキッチン、引き出しを開けてみてもいいですか?

市瀬:どうぞ、どうぞ! 壁側とアイランドのコンロ側は動線を考えて、調理中に使う道具や盛りつけ用の道具を入れています。リビング側の上段はカトラリーで、下段には調味料や食品ストックを入れました。

市瀬:ここがパントリー代わりなんです。パントリーをつくるかどうか、かなり迷ったのですが、それよりもキッチンとリビングが広いほうがいいと思ってやめました。使う場所に近いほうがいいし、料理撮影の時はアシスタントさんに在庫を確認してもらうことも多いので、結果的にこれでよかったなと。
ハナコ:なるほど、こんなに必要か!?と思うほど収納がたくさんあるなと思っていたんですが、そういうことなんですね。今はパントリーをつくるのが主流だし、ないと不便!と思ってしまいそうですが、確かにこのほうが便利かも。それに、引き出しの深さと奥行が絶妙ですね。中身が埋もれないから、一目で分かります。
市瀬:深さは15cm、奥行は25cmくらいですかね。アイランドの3段引き出しは以前のキッチンでも採用していて、使いやすかったのでそのまま踏襲しました。
ハナコ:いいところはそのままで、不便を感じていたところはアップデートできる…。さすが2回目のリノベという感じ!
市瀬さん流 キッチンで快適に過ごすためのアイデア
ここからは、市瀬さんこだわりの収納アイデアやインテリアの工夫をいくつかご紹介します。
鍋やフライパンの本体とフタを別々に収納。フタは寝かせれば省スペース
「重い鍋類や土鍋は下段にまとめて、その上の浅い引き出しにフタを寝かせて収納しています。以前は立てていたんですが、このほうが重ねて収納しやすいです」(市瀬さん)

キッチンに向かって音が出るよう、スピーカーを設置。配線は壁の中に隠してすっきり

「1日のうちのほとんどをキッチンで過ごすので、スピーカーもキッチンに向けて設置しました。好きな音楽を流しながら料理しています。配線を壁の中に隠してもらったので見た目が整いました。反対側のスピーカーの近くには、植物を吊るすためのフックも設置しています」

ハナコの取材後記
さすが、料理のプロが考え抜いたキッチン。2回目のリノベということもあり、改良のクオリティが高すぎます……! 料理人のご主人をはじめ、撮影チームやアシスタントさんなど、使う人みんなが使いやすいことを考慮されているなと感じますね。それでいて、今まで見たことがないようなアイデアもいっぱい。ゴミ箱を隠すドアをつけたり、キッチンにパントリー機能を持たせてアイランドに収納したりするのは、料理家じゃなくても真似できそうです!