第12回目となる住まい探訪記も、キッチンに特化してお届け。榎本美沙さん(@misa_enomoto)のお宅に伺いました。榎本さんは料理家、発酵マイスターとして活動し、登録者数39万人のYouTubeチャンネル「榎本美沙の季節料理」を運営しています。今回はリノベを行ったキッチンのこだわりポイントを教えていただきました。
ツレヅレハナコさんプロフィール
食と酒と旅を愛する文筆家・料理研究家。書籍、雑誌、WEBなどへの寄稿やレシピ提案だけでなく、調理器具のプロデュースなども手掛ける。『女ひとり、家を建てる』(河出書房新社)『まいにち酒ごはん日記』(幻冬舎)、『世界の現地ごはん帖』(光文社)、『47歳、ゆる晩酌はじめました。』(KADOKAWA)など著書も多数。
https://www.instagram.com/turehana1/
榎本美沙さん宅のプロフィール
住まいの種別:分譲マンション
築年数:25年(居住年数10年)
地域:東京都
延床面積:非公開
施工会社:デン・プラスエッグ
間取り:2LDK
家族:夫、息子(3歳)
コロナ禍に2回目のリノベ。吊り戸棚や10cmの腰壁を撤去して広がりのある空間に
ツレヅレハナコさん(以下ハナコ):初めましてですが、ご活躍はいろいろなメディアで拝見しています!お会いできてうれしいです。こちらのお住まいはもう長いんですか?
榎本美沙さん(以下榎本):約10年ですね。キッチンのリノベは入居時と、5年ほど前の2回。リノベ前のキッチンは壁に囲まれていてドアもあり、完全に独立していた状態でした。入居したとき、ちょうど料理の仕事を始めた頃だったので、壁を取り払ってオープンにするリノベをしたんです。でも油はねの心配はあったので、10cmの腰壁だけは残しました。
ハナコ:ずいぶん使いやすくなったでしょうね。コロナ禍の再リノベは、どこをどう変えたのでしょう?
榎本:料理撮影の仕事が多くなるにつれて、その10cmの腰壁が撮影チームと私を隔てているような気がしたんです。作業台がフラットになっている方が、やっぱり広く感じられますし。2回目はキッチン設備も丸ごと変えて、平らにしました。
ハナコ:そこは料理家さんでそれぞれこだわりが違う部分ですよね。私は撮影のとき黙々と、ひとりで料理に集中したいタイプ。だから壁付キッチンにしたのですが、キッチンとダイニングテーブルが離れすぎているので逆にみんなキッチンに集まっちゃう(笑)。
古材を取り入れて、心地よさを感じながら料理できる空間をつくりたかった
ハナコ:施工会社はどうやって決めたんですか?
榎本:思い描いていたキッチンをつくってくれそうな会社を探しました。私は和の雰囲気を大事にしたくて、古材を取り入れることは早々に決めていたんです。詳しい知人に聞いてみても、個人宅でそういった希望を聞いてくれるところは多くなさそうでしたね。打ち合わせでは「ちょっと違うな」と思ったら、「こういう感じにしたい」と細かくお伝えしました。
ハナコ:古材! キッチン背面の棚部分ですね。味があって素敵〜。
榎本:ありがとうございます! 以前はここに、冷蔵庫と、システムキッチンの吊り戸棚がついていたんです。よくある間取りですよね。この場所はキッチンの中心部分で、ほとんどの時間この辺りに立って料理することになります。だからこそ、心地よくて眺めのいい空間にしたくて。私は古材が好きなので、一番見える位置に配置して楽しく料理したいなと思っていたんです。以前は冷蔵庫が壁から少しはみ出ていたし、吊り戸棚もあったから、それらがなくなったぶん今は空間にゆとりが生まれたと思います。
ハナコ:木材の手配はご自身で?
榎本:いえ、好きな風合いや色みを伝えたら、施工会社さんがいろいろ候補を集めてきてくれました。コロナ禍は多くの飲食店さんがリフォームしていたそうで、資材集めや配送も大変だったみたいです。わが家も、工事がほぼ終わっているのに古材の棚だけ来ない、という状況でした。
仕込み中の瓶は、棚の一等地に。目につくからお手入れしやすい
ハナコ:棚には発酵調味料らしきものがたくさん並んでいますね。榎本さんらしい!
榎本:仕込んでいる途中は、発酵具合をチェックしたり中身をかき混ぜたりしないといけないんです。忘れると大変なので、目につくところに置いた方がいいかなと思って。
ハナコ:榎本さんみたいに手をかけられる方は本当にすごいなと思っています。私は忘れて「やばい、もう瓶ごと捨てるしかない」みたいな状況になっちゃう(笑)。見えるところに置くのは大事ですね。
榎本:私も忘れちゃうから、あえて目立つところに置いているんです。特に味噌なんかは結構長い間寝かせるんですが、カビが生えていないか定期的にチェックしないといけない。定期的に、といってもタイミングが難しいですよね。だからいつも目につく場所に置くのがいいかなと思って。味噌は冷蔵庫横の作業テーブルとコンロの向かいにある棚に分けて置いています。ちなみにこの棚はかなり長い間使っていて、もう捨てられないですね。奥行きもちょうどぴったりなんですよ。
ハナコ:私も、高校生のときに渋谷の「大中」で買った丸椅子が捨てられないです。むしろ、ほぼ毎日使ってる(笑)。何回引っ越してもついてくるんです。そういうもの、ありますよね。
カトラリーはダイニング側からも取れる位置に。コンセントはとにかく多めに設置
ハナコ:ちなみにキッチンのサイズは変更したんですか?
榎本:少しだけ作業台の横幅を広げました。本格的に料理の仕事を増やしていくにあたって、調理場を少しでも広くしたいという思いはありましたね。シンクの横に水切りカゴを置いて、あわよくばその奥に薬味を切れるくらいのスペースがあれば、というような。10cm長いだけでも、ずいぶん違います。シンクやコンロ、換気扇の位置はそのままですが、シンクのサイズは大きくしました。
榎本:ここ、実はカトラリーを収納している引き出しがあるんです。
ハナコ:え、この向きで?
榎本:夫たっての希望です。私がキッチンにいて夫がダイニング側にいるとき、わざわざカトラリーを取りに中に入るのが嫌だからと。どうかな?と思ったのですが、やってみたらすごく便利。
ハナコ:確かに、回り込まなくていいからラクですね!
榎本:私は実際に使ってみて、動いてみて初めて使い勝手を実感できるタイプ。図面を見ただけだとイメージしづらい部分がありました。むしろ夫のほうが緻密で、コンセントの位置にもいろいろこだわりがあったようです。
ハナコ:コンロ前の壁にもコンセントがありますね。ここにあると便利そうです!
榎本:そうなんです。ミキサーなど、作業台で活躍する家電って結構多いですし。
ハナコ:コンセント問題、なかなか奥が深いです。自分がどこでどんな動きをするのか、どんな家電を使うのか。動線としっかり向き合わないと、コンセントの位置は決められないんですよね。
榎本:電気ケトル用のコンセントは壁の側面に。正面だと撮影するときに目立つからと夫が提案してくれました。炊飯器用のコンセントを、作業台の下につけようと言ったのも夫です。
ハナコ:私も家を建てるとき、「そんなに絶対使わないと思うくらい、コンセントはつけたほうがいい」と建築家さんに言われたんですけど、実際その通りでした。キッチンだけじゃなくて、家全体でそう感じましたね。「掃除機に延長コードを使わなくていい」とか(笑)。
榎本:わが家もコンセントは多いかもしれません。でもこの炊飯器用コンセントは、もう少し上につけておけばよかったと思っています。ロボット掃除機に干渉してしまうんですよ。
ハナコ:分かります! 住みながらでないと分からない部分は、やっぱり出てきますよね。
一度も使わなかった食洗機を撤去し、オーブンレンジ専用スペースに
ハナコ:キッチン収納の真ん中に、オーブンレンジを設置したのですね。ここは一般的に食洗機が設置されているスペース?
榎本:そうなんです。入居時は食洗機が入っていたのですが、一度も使わなかったんですよ。食洗機に入れられない、作家ものの食器を使うことが多くて。「もったいないけど、うちには合わなかった」と諦めて、新品のまま撤去しました。
ハナコ:食洗機が食器棚みたいになっているお宅も多いから、使わないなら思いきってなくしてしまうのもいいかもしれませんね。リノベのタイミングでこの場所にオーブンレンジを置く、と決めておけば、きちんとサイズを測ってぴったりの収納にできます。
榎本:家電はどうしても生活感が出てしまうので、見えない部分に隠したいと思っていたんです。これも古材と同じで、心地いい空間にしたくて考えていたアイデアのひとつですね。
ハナコの取材後記
前回に続き、榎本さんも2回目のリノベ。そこで暮らしていたからこそ分かる細かい修正の積み重ねがあって、納得のいくキッチンが出来上がるものなんだなと実感しました。編集者時代も含めていろいろな料理家さんのキッチンにお邪魔していますが、こだわりは本当に人それぞれです。古材の棚や発酵の瓶、榎本さんらしさが随所に見られてとても楽しかった!