こんにちは! 紅葉が始まり、秋の景色に変化しつつある最近ですが、11月頭の東京都内はインテリアに関する展示イベントが数多く開催されました。 自分は2つの会場でスタイリングを担当させてもらいましたので、まずはそのひとつ、デンマークの家具メーカー、カール・ハンセン&サンのイベント「HYGGEHJORNE by CARL HANSEN & SON Illustrations by Yu Nagaba」展に登場した、6脚のラウンジチェアを中心にご紹介させて頂こうと思います。

川合 将人

川合 将人

雑誌や広告、住宅メーカーのモデルルームなどで活躍中のインテリアスタイリスト。近年はコンサルティングや空間演出等も展開。

http://kawaimasato.com/

“HYGGEHJORNE”(ヒュッゲヤーネ)な空間

“HYGGEHJORNE”(ヒュッゲヤーネ)とは、デンマーク語のHYGGE(リラックスできる心地の良い雰囲気)と、HJORNE(個人的な、自分だけの)を合わせた単語で、”小さなパーソナル空間”を意味しています。

このテーマをもとに、外苑前にあるカール・ハンセン&サンのフラッグシップ・ストアを会場に、カール・ハンセン&サンの家具コレクションと、現在大活躍中のイラストレーター、長場雄さんのイラストで構成される2次元と3次元が混在する特設ステージが登場。

私は会場内に、ラウンジチェアを中心にした、暮らしている人の人物像が浮かび上がる様々な”HYGGEHJORNE”な空間を演出し、スタイリングさせて頂きました。

オールブラックの《CH22》

CH22

では、まずは2フロアあるフラッグシップ・ストアの入り口付近。ウィンドウ面に設置したシーンからピックアップしていきたいと思います。

メインとなるラウンジチェアは今年発表されたばかりの《CH22》。この《CH22》のオールブラックモデルをセレクトし、長場雄さんのアインシュタインのイラストをネオン管の照明にした作品や、ブラックのカウハイドラグ、ヴィンテージのヘルメットや、ワイルドな印象を与える植物などを組み合わせ、シティボーイ系雑誌を愛読するお洒落なバイカー男子の部屋として構成しました。

《CH22》は、カール・ハンセン&サンを代表する名作チェア、《CH24 Yチェア》と同時期にハンス・J・ウェグナーがデザインしたラウンジチェアの復刻品で、優美な曲線を描くアームの造形が特徴的です。ペーパーコードを編み込んだ座面、無垢材のフレームと各部材を繋ぐ美しいジョイント部の仕上げなど、同社の培ってきた高い木工技術を生かして作り上げられた完成度の高い一脚となっています。安定感のある座り心地に加え、ラウンジチェアとしては軽量ですので、簡単に移動ができるのも魅力です。

プライウッド製の座面が美しい《CH07》

CH07

続いてはストア1Fに作った2シーンをそれぞれ順に。最初は《CH07》を中心にした、アフリカのフォークアートや楽器のコレクターの部屋を想定した空間です。

ウィンドウの印象から一転して、シックに演出した2シーンのうちのひとつですが、ここは近年のトレンドでもある世界の民芸品、アフリカのフォークアートなどを設えに取り入れた大人メンズの部屋としてスタイリングしました。ヴィンテージのキリムをリサイクルしたパッチワークのラグや、スペインの照明メーカー、サンタ&コール社のフロアランプ、アフリカの仮面や楽器などのフォークアートを組み合わせています。

メインとなる《CH07》は、ハンス・J・ウェグナーが1963年に発表したチェアですが、当時製品化はされていなかったモデルで、カール・ハンセン&サンからは1998年に復刻されました。発表当時に多く見受けられたプライウッドの成形技術を採用したもので、大きな曲面の座面に3本の脚を組み合わせた、どこから見ても絵になるオブジェのような造形の一脚です。

ここで使用させてもらっているのは、シートがカウハイドの仕様で、プリミティブなアフリカの木製の仮面や器などとも相性抜群。植栽にもエアプランツなど形状が特徴的な造形力のあるものをオーダーし、アレンジさせて頂きました。今回の展示では、南青山にお店を構える、ル・ベスベさんに一括して植栽を担当して頂いています。

1700年代の英国の雰囲気を感じる《OW149 コロニアルチェア》

OW149 コロニアルチェア

そしてもうひとつ、1Fでスタイリングさせてもらったのが、オーレ・ヴァンシャーのデザインした《OW149 コロニアルチェア》を中心にした、シューズ・コレクターの男性を想定した部屋です。

艶やかなレザーシートに彫刻品のような木製アームの形状。クラシカルな装いに気品を感じさせる、オーレ・ヴァンシャーのチェア《OW149 コロニアルチェア》に座りながら、自慢のシューズ・コレクションの手入れをして至福の時間を過ごす男性。そんなイメージで、恵比寿にあるシューズのリペアや販売を行うショップ、リファーレの代表の方から、貴重な革靴のコレクションなどもお借りしてスタイリングさせて頂きました。

同シリーズのオットマン《OW149F コロニアルフットレスト 》と、モーエンス・コッホのデザインしたフォールディングテーブル《MK98860》をアレンジ。さらに、サンタ&コール社のフロアランプ《Diana》、アングルポイズ社のテーブルランプ《Original 1227 Mini》を組み合わせ、品のあるシューズ・コレクターの男性の部屋を演出しました。

《OW149 コロニアルチェア》は、オーレ・ヴァンシャーが1949年にデザインしたチェアで、1700年代の英国の家具とコロニアル様式に影響を受けたものとして知られています。ここでは、そんな背景を汲み取り、サイドに置いたテーブルの上に英国のクラシカルなスタイルの照明として人気の高い、アングルポイズ社のテーブルライトや英国製のヴィンテージ・レザーシューズなどをスタイリングさせてもらったのですが、とてもマッチしていました。

快適性も兼ね備えたコーア・クリントの名作

サファリチェア

お次はストア2Fのスタイリングゾーンへ。各チェアを展示するステージ什器もデザインさせて頂いた3つの空間をご紹介させて頂きます。

2Fは、来場者の動線の確保に加え、個々のスタイリングゾーンを効果的に見せるため、どのようにゾーニングするかがキーポイントでした。ここでは各スタイリングゾーンで演出する、仮想の住まい手のパーソナルスペースを身近に感じてもらうため、あえて床のレベルを変えたステージ什器を造作し、加えてパーテーションを設置して空間を仕切るという提案からさせて頂きました。

ひとつめは、個人的にも好きな一脚、コーア・クリントの名作《サファリチェア》を使用した、写真好きの男性の寛ぎの空間を想定したシーンをご紹介します。

本体にスモークドオーク材を使用した《サファリチェア》を使用したこの空間では、什器の床、そしてパーテーションにアレンジしたペーパーコードも黒で統一し、より男性的なイメージを引き立てています。サイドテーブル代わりに置いたペリカンケースの上には、プロのカメラマンさんからお借りした貴重なカメラやブロアー、レンズなどを設置。お気に入りのアートフォトに囲まれながら、《サファリチェア》に座ってカメラの手入れをしている。そんなシーンを演出させて頂きました。

スタイリングは、旅やランドスケープ、動物を対象にしたイエローコーナーのアートフォトからモノクロのイメージをセレクトし壁面に設置。さらにプロのカメラマンが使用する機材運搬用のペリカンケースやマンフロットの三脚、ブルックリンのデザインスタジオ、ワークステッドのフロアランプなどを組み合わせています。

《サファリチェア》に関しては、ここで語る必要もないくらいに有名かつ快適性に優れたチェアであるとは思います。デザインの源流としてコーア・クリントが着想を得たのは、アメリカの映画カメラマン、マーチン・ジョンソンのサファリを旅した紀行文「A Saga of the African Blue」に登場する、英国製のキャンプ用の折りたたみ椅子でした。

コーア・クリントはその折りたたみ椅子の構造を足掛かりにして、1933年に《サファリチェア》を発表しています。このシーンでは、そんな背景も考え、写真を趣味とする男性の空間を作らせて頂きましたが、なかなかよい感じに設えることができたと思います。

天然素材の質感が空間と時間を彩る《CH25》

CH25

引き続きましては、ガラッと雰囲気を変えて、《CH25》をメインにした女性のヒーリング空間をイメージしたスタイリングを。

無垢のオーク材のフレームと、ペーパーコードを編み込んだシートで構成される《CH25》は、ナチュラルな天然素材の質感を味わえる一脚です。

ここでは、住まい手として、アロマと植物に癒される女性の部屋を想定してみました。秋ということでシートにフカフカのシープスキンをアレンジしていますが、什器の床やペーパーコードのパーテーションに至るまで、生成りの天然素材そのままの色で統一し、植物のグリーンが映えるナチュラルな空間にスタイリングさせて頂きました。

横に置いたのは、オーレ・バンシャーのデザインしたコーヒーテーブル《OW449》のオーク材仕様。上には、ホルムガードのガラス製プランターに入れたハーブ系の植物のほか、ラボラトワール・アルト社のアロマディフューザーやアロマオイル、ルームスプレーなどを設置。細かなアロマグッズなどは、デンマークの新進ブランド、ムーベが製造する木製の箱型ケースに収納しています。フロアランプはサンタ&コール社の《TMM》になります。

会場となったストアの壁面には、元々壁付けの収納が設置されていたのですが、造作したステージ什器をあえて壁面に沿って設置したことで、うまくパーソナル空間を作れました。棚にもアロマやハーブ系の専門書籍や、ハーブティーのセットなどを置き、よりリアルな雰囲気を感じてもらえるようにしました。

優れた木工技術と抜け感のある表情を組み合わせた一脚

E015

では、最後に6つめのシーンのご紹介です。エレキギターの演奏を趣味とする男性の部屋、オーストリアのデザインスタジオEOOSによってデザインされた新作ラウンジチェア《E015》を使用した空間です。

《E015》は、ハンス・J・ウェグナーなど、北欧の巨匠デザイナーのプロダクトの印象が強い、カール・ハンセン&サンにしては、これまでにないスタイル、見た目の一脚と言えます。使用しているのはシートクッションが布張りのモデルですが、洗練されていながらもカジュアル。どこか抜け感のある表情を持っていて、堅苦しさを感じさせません。

座って手や指があたるアーム先端の木部などには、滑らかな表面の加工がなされていて、同社の優れた木工技術をうまく取り入れながら、新しい世代、感性に響くような、親しみやすいデザインの椅子へと昇華させています。

軽快でいて適度な柔らかさを味わえる座り心地も良く、身体に馴染み、ゆったりとした時間を過ごせます。

スタイリングは、楽器メーカーのギブソンさんにお貸し出しのご協力を頂きまして、エレキギターの名作《フライングV》と、アンプなどを設置させて頂きました。また空間のカラーのアクセントとリアリティを兼ねて、ブロックチェックのネルシャツやハットなどもアレンジしています。

今回初めてスタイリングさせてもらって、個人的には、良い意味で昔からのカール・ハンセン&サンのイメージを裏切ってくれたというか、新しい風を感じられた気がして、非常に好きになった一脚でした。同シリーズのオットマンと合わせて、是非みなさんに座って試して頂きたい一脚ですね。

以上、今回はスタイリングを担当させて頂いた、カール・ハンセン&サンの展示イベントから、6脚のラウンジチェアをピックアップしてご紹介させて頂きました。

実物を見たい、試したい人は外苑前にある、フラッグシップ・ストアに行ってみてください!

次回はスウェーデンの壁付け収納のブランド、ストリングの展示イベントをご紹介させて頂きます。

では、また!