収納のしかたは十人十色。
おうちの収納やお気に入りのものから見えてきた、「収納と暮らし」をめぐる短い物語をお届けします。

HOUSTO 編集部

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住人プロフィール

大塚亨さん 木彫作家
歩さん 陶芸家

賃貸の一軒家・4DK・神奈川県大和市
入居6年・築約30年

「基本的に別行動」な二人の暮らしは アンティーク家具の間にサプライズが潜む

自宅兼仕事場だという2階建ての一軒家。1階にある亨さんの工房に足を踏み入れると、ハッカのような爽やかな香りが漂っている。
「クスノキです。作品の材料なんですよ」と、亨さんが教えてくれた。亨さんは木彫作家。ネックレスや洋服など、木彫としては変わったモチーフを作品として発表するほか、仏師としての仕事もしている。自宅兼工房での作業は、自力で運べる大きさのものだけ。大きな作品は素材の木材が100キロ、200キロにもなるため、別の場所にある大きな工房に通う。

パズルのようにきっちりと並べられたアンティークの引き出し

自宅の工房にあるのは仕事に必要な道具だけで、装飾品はほとんどない。仕事道具を収納するのは、パズルのようにきっちりと並べられたアンティークの引き出し。実は亨さんの趣味は、昔の木製家具を探しての骨董市巡り。市の立つ日は朝5時から懐中電灯を持ってでかけ、良い市があれば県外へも足を伸ばす。

アンティークの家具の魅力は、造りの良さだという。シンプルに見えて、実は考え抜かれたデザインであることも多く、竹や木の釘で組まれた家具は、修理すれば長く使える。仏像の修復も手がける亨さんにかかれば、リペアはお手の物。この家では、たくさんの古い棚や引き出しが再び命を吹き込まれ、現役の家具として居場所を確保している。

古い彫刻刀やノミなどの仕事道具

骨董市では、古い彫刻刀やノミなどの仕事道具も、出物があればつい買ってしまうという。引き出しの中には、江戸時代や明治時代の道具もあり、持ち手を直して現役として使っている。収納道具が好きな亨さんはやはり片付け上手で、手に入れたものはスッキリと収納。家の中には、余計なものは出しておかない主義だ。

実利主義の収納術

隣の部屋は、陶芸家の妻・歩さんの仕事場だ。土や水を使うため収納用具はプラスチック中心で、手入れのしやすさにこだわる。見える面にラベルを表示し、素材や資料などが一見して把握できる、実利主義の収納術だ。

フクモ陶器

収納こそ実利的だが、作風は独特で遊び心にあふれている。作品を見せてほしいとお願いすると、一風変わった土瓶が登場した。古代の記号のような模様に加えて、つまみが女性の形をしている。モチーフは何なのか尋ねると、「虚舟(うつろぶね)です」という答えが帰ってきた。
虚舟とは、江戸時代に日本の浜辺に漂着したといわれる舟で、日本各地の民族伝承に登場する。不思議な美女が乗っており、一説には“未確認飛行物体”ではないかとも言われている。そう、歩さんは、民話や伝承などの“ちょっと不思議な話”が大好きなのだ。
歩さんが手がける陶器ブランド「フクモ陶器」には、食器、置物、アクセサリーなどさまざな陶器作品がある。シリーズ名は「珍しい物体」「フューチャー茶道具」「ネオ盆栽」など、ユーモアを感じさせるものばかり。「九谷村の隣にある幻の“十谷村”で作られるのが『十谷焼』です」など、作品のコンセプトを聴いていると、その発想の奇抜さにぐいぐいと引き込まれる。なるほど、熱狂的なファンがいるのも頷ける。

自宅で作品を作る歩さんは、アイデアを練るのも自宅。一度考え始めたら、何をするにも四六時中そのことばかり考えるという。「いいアイデアであればあるほど、前から知っていたような気がするんです」と歩さん。この家に装飾品が少ないのは、作品のひらめきを妨げないためなのかもしれない。

さて、この自宅兼仕事場で、二人の暮らしはどう営まれているのだろうか。
 「基本的に別行動なんですよ」と歩さん。木彫作家として忙しく働く亨さんと、作家活動のほか、週に2回ほど陶芸教室で教える歩さんは、生活時間帯もバラバラ。起きる時間も作品に取り掛かる時間も違う二人は、それぞれの作品のクオリティを上げるためにも、お互いのペースを尊重しながら暮らしている。

とは言え、疎遠なわけでは決してない。取材に伺った日は、歩さんは間近に迫った作品展の準備で大忙し。そんな時は、食事を作るのは亨さんの役目だ。料理は嫌いではないそうで、必要な時は弁当も作ってくれるのだという。「ごはんと焼きそばとか、炭水化物と炭水化物っていうこともありますけど」と歩さんは笑ったが、二人の“別行動”な暮らしは、思いのほか快適な協力体制ができているようだ。結婚して6年目だが、大学の同級生だった二人の付き合いは長い。お互いを知り尽くしているからこそ、自然と別行動が成り立つのかもしれない。

マグカップ

片付いた台所でこたつを囲み、歩さんの作ったマグカップでコーヒーをいただく。「おかわりは?」「このクッキーもどうぞ」と、温かいもてなしに加え、二人で行った珍奇な旅や不思議な博物館のこと、歩さんが亨さんにプレゼントした変わった逸品など、話題もサプライズに満ちた面白いエピソードばかり。極めつけには、コーヒーを飲み終わったマグカップの底を見ると、髭を生やした人の顔が現れるという、思わず笑顔になるサプライズ。髭の形にコーヒーが残るように溝が作られたこのカップは、二人のコラボプロジェクトの作品だという。

驚かせて、喜ばせる。作家としても一個人としても、面白いことを探して人に伝えるのが、二人の暮らし方なのかもしれない。整理整頓された部屋には、まだまだサプライズな何かが出番を待っていそうで、つい長居してしまった。