収納のしかたは十人十色。
おうちの収納やお気に入りのものから見えてきた、「収納と暮らし」をめぐる短い物語をお届けします。
住人プロフィール
土屋由美さん 料理家
注文住宅一戸建て4LDK 神奈川県葉山町
築・入居10年
家族4人暮らし
カフェオーナーから、料理家への転身
葉山の森戸近くにあった「café manimani」。
オーナーの土屋由美さんがつくるおいしいメニューと、ハートウォーミングな雰囲気が評判で、都内から通う常連客が後を絶たなかった伝説のカフェだ。
惜しまれつつも、賃貸だった建物の都合で閉店したのが5年前。現在土屋さんは、カフェのあった場所から小高い山を上った場所に、眺めのいい一軒家を構え、2階のアトリエで料理教室を開催。不定期でカフェ営業もしている。
「お店をやめないで、という声が多くて、私もすごく悩んだんです。それでも、料理教室&自宅カフェという形態に切り替えたことで、仕事をしながら子育ても家の中で両立できるようになりましたし、結果的に良かったと思っているんですよ。心にゆとりができて、家族との時間も楽しめるようになりました。ワークライフバランスのハンドルを、自分で握ることができるようになった……という感じですね」(土屋さん、以下同)。
それもこれも、料理に専念し、カフェとしても登録できるようにと考えて建てたこの家のおかげ、と笑顔で話す土屋さん。
その家には、料理家ならではの工夫があちこちに施されていた。
「料理がわかる人」に家を建ててもらうこと
土屋さんの家を設計したのは、数々の名建築を手がけてきたARTECの阿部勤氏。
「建築家が自邸をテーマにした絵本シリーズがあって、編集者の方が、カフェの常連さんだったんです。家を建てたいと考えていたときに、たまたまピンと来たのが、阿部先生の絵本でした。それまでは失礼ながら、そんなに有名な建築家だなんて知らなかったんですよ(笑)。快く引き受けてくださった阿部先生は当時、料理に凝っていたこともあって、料理人としての私のオーダーをしっかり聞いてくださいました。細かいポイントまで理解していただけて、嬉しかったですね」。
業務用の炊飯器や籠、網、鍋をはじめ、食器類など、持っている料理関係のものをすべてリストアップして、収納を考案してもらったという。
「住めば住むほど、居心地のよくなる家です。アトリエも使いやすくて、料理に専念できる。宝物のような空間になりました」。
古い家具をミックスして、自分らしい空間に
「家は新築、家具も新品……というのは、私の好みには合わなくて。愛着のある古い家具を組み合わせて、気分が落ち着く空間づくりを心がけています」。
アンティークの和家具、ご主人がバリ島から運んで来たという椅子など、テイストは異なりながらも、それらはすべて阿部建築にしっくりとなじんで、オリジナリティのあるインテリアに。土屋さんの懐の深さを感じる空間は、誰をもほっこりと和ませてくれる優しさに満ちている。
整理収納と食事、カラダは繋がっている
「陰陽五行」。
紀元前1000年前後の中国からはじまったと言われる思想だ。宇宙の万物は陰陽2つのエネルギーで構成されているという考え方から派生したこの理念は、東洋医学や伝統医学の基礎となっている。アロマテラピーや食事療法とも密接に関わるというこの理論の勉強をし、料理はもちろん、毎日の生活に取り入れている土屋さん。
「海辺を散歩して海藻を拾ったり、庭で季節の緑と触れ合ったりする時間を大切にしています。料理は、旬と地産地消で食材を選ぶことが基本。心も体も、いらないものはきちんと出して、いいものを入れることを心がける生活です。家の中を整えることは、健康にも密接に結びついていると感じますね。どこに何があるか分からない状態とは、どこが悪いかわからないけど、カラダに不調を感じるのと同じ。家の中と、暮らしのリズムを整えることが、家族みんなの健康を守ることなんじゃないかな」。
海で浄化され、山に癒される。土屋さんの愛する葉山の暮らしには、毎日を心地よく過ごす工夫に満ちあふれていた。