収納のしかたは十人十色。
おうちの収納やお気に入りのものから見えてきた、「収納と暮らし」をめぐる短い物語をお届けします。

HOUSTO 編集部

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住人プロフィール

若山曜子さん

菓子・料理研究家
集合住宅3LDK(約90㎡)東京都目黒区
築28年・入居3年
夫婦2人暮らし+猫

「ガスオーブンが入れられること」を条件に選んだ明るいマンション

パリで製菓を学び、フランスの国家調理師資格(C.A.P)を取得して帰国した料理研究家の若山さん。お菓子から料理まで幅広いジャンルのレシピ本を出版、雑誌やテレビでも活躍されています。
おしゃれで美味しい、そして自宅でも簡単に作ることのできる再現性の高いレシピは、多くのファンの支持を集め、その視点は、最新作「レトロスイーツ」(文化出版局)、「天板だけでつくるケーキ」(世界文化社)でも生かされています。

彼女が愛猫のもんちゃんと暮らすのは、閑静な住宅街に佇む低層マンションの一階。案内されたリビングは、大きな窓から中庭が見渡せ、陽当たり良好。アンティークの雑貨や、さりげなく飾った花など、そこここにフランスの雰囲気が漂っていました。

「海外と日本を行き来する夫の仕事の都合で、賃貸マンションに移ることになり、3年前にここに引っ越しました。物件選びの時に一番に考えたのはオーブンのこと。私の場合、料理の仕事をしているので、ガスオーブンは絶対条件で。ここはガスオーブンOKだったのと、明るく大きな窓がポイントでした。料理の撮影をするときは自然光を使うことも多いですし。あと中庭が広いのも気に入っています。大きな桜の木があるので、春は桜を見ながらカウンターで試作ができる。ここに暮らし始めてから、栽培するハーブの種類も増えました。天気のいい午後は、窓辺で庭の景色を眺めながらお茶をすることが多いですね」(若山さん、以下同)。

さりげなく置かれた花瓶ところんと籠に入れた果物。どこかフランスを感じさせ、絵になります。

アンティークが好き、と若山さん。窓辺にはヨーロッパの蚤の市で集めてきた小物を飾って。

若山さんから次々と溢れ出るレシピブックのアイディア。その企画力は、いったいどこに原泉があるのでしょうか。

「飲食店を経営していた祖母と母の影響もあって、子どもの頃から、いつも、こんな料理の本があったらいいのにな…って考えていました。とにかく料理、特にお菓子が大好きでした。自分がおいしいと思うものを、なるべくシンプルに、楽しく作れること。また、海外に行った時に新しい味に出会うのもいい刺激になっていると思います。美味しいものに出会うと、ワクワクして。帰国してすぐに作ってみたくなるんです」。

とはいえ、自分のやってみたい!という気持ちだけでは本は作れない、と若山さん。
「料理本作りは、チームの力です。編集者、カメラマン、ライター スタイリスト、そしてアシスタント…味や作り方の感想から、ページ構成、見せ方、みんなで話し合って、作ります。全員の息が合ったときには、本当にいいものができるんですよ」。
そんな若山さんのレシピブック作りの舞台が、この家のキッチンと、特注のキッチンカウンターです。

「キッチンはごくごく普通のコンパクトなサイズのものです。ただ、調理器具や調味料などは、あまり表に出しすぎず、使いやすい位置に収まるように考えています。アシスタントさんは複数いるので、使いやすいようにみんなからアイディアをもらったりしていますね。そして、火を使わない作業や、撮影などに重宝しているのが、リビングに設置したキッチンカウンター。前の住居のとき、大工さんが造作してくれたオリジナルなんです」。

スケールやガラスボウル、計量カップなどが並ぶキッチン棚。細かな計量がポイントになるお菓子作りの調理器具は、手に取りやすいところに。

撮影にも生地をこねるのにも活躍するオリジナルのキッチンカウンターに、可動棚と組み合わせて。

キッチンカウンターの中には、食器や調理器具がジャンル別にまとめて収納されています。

「使いやすいもの」が残る、調理器具

「基本的には、古いフランスのお皿が好きですね。たまに自分のなかでいろんな食器のブームが起こって、国内外、さまざまなところで買い集めてしまいます。カトラリーも好きですね。同じようなものをついつい買ってしまうので、先日初めてのイベントで出品してみました。名残惜しいものもたくさんあったけど、買われた方が可愛く使ってくださっているのをインスタグラムなどで拝見して、ああよかったーと、とてもうれしく思っています」。

そんな若山さんは、意外にも、調理器具には特に「これが絶対」という強いこだわりはさほどない、と話します。

「キッチンエイド(調理用ミキサー)やガスオーブンなどは重宝していますが、そのほかのものは、いろいろ使ってみて使いやすいものが残っていく、という感じですかね。ただクラッシックなケーキ型は、フランス製がやはり造形が綺麗な気がします。でもアメリカ製も可愛いし、日本製はしっかりしている。なので、型はどんどん増えていってしまいます。日常の料理に使うもの、小回りがきくものは、日本製にいいものが多いと思います」。

「なぜかすぐになくなる(笑)」という小さなシリコンのゴムベラは、まとめ買いをしているそう。

新潟県燕市発の調理器具ブランド「コンテ」の「まかないシリーズ」。ボウル、平ザル、丸バットなど、安定感があって使いやすいと聞き、新たに購入、試しているという若山さん。

成田理俊さん作の鉄のフライパンも愛用中。どれもそのまま食卓に出せる美しさです。受注生産で3年待ちという人気商品。

仕事もプライベートも、家の中が心地いい

「撮影のときはドタバタになることもありますが、ふだんの生活は、朝起きたら午前中に家事をして、アシスタントさんが来たらレシピの試作。打ち合わせは、午後に行うことが多いです。もともと、家にいることが好き。このリビングも陽当たりが良く、冬でもぽかぽかして居心地がいいんですよね」。

華やかなキャリア、美貌とうらはらに、若山さんの醸し出す雰囲気は、気負わず、マイペース。愛猫もんちゃんとじゃれあう無邪気な姿は、何ともほっこりです。

「猫のもんは、2匹雨の中、捨てられているところを拾われ、その後、家にやってきました。最初は2匹引き取ったのですが、そのうち1匹は、料理家の坂田阿希子さんのところにお嫁入り。ビスコちゃんというのですが、坂田さんのところに伺ったり、インスタグラムなどを通じて、お互い元気な姿を見ることができて嬉しいです。顔が本当にそっくりなんですよ。うちの子は背中の模様が山みたいに見えるから、フランス語で山の意味のモンターニュ、もんちゃんと名付けました」。

仕事もプライベートも家派です、と笑う若山さん。彼女のレシピがどれも優しい味わいなのは、家を愛し、暮らしに寄り添う気持ちが込められているから。ファンの心を掴む理由が、ここにありました。