注目の詩人、ウチダゴウさんのアトリエ兼住居を取材しました。スコットランドでの暮らしにヒントを得たその家は、高機能な収納住宅でもありました。
住人プロフィール
ウチダゴウさん
詩人 グラフィックデザイナー 「してきなしごと」主宰
一戸建て注文住宅 3LDK+ギャラリー(122㎡)
長野県安曇野市
築・入居半年
夫婦2人暮らし
吹く風に身を委ねて、長野・安曇野で家づくり
アトリエとギャラリーを兼ねた自宅を新築したばかり。詩人ウチダゴウさんを訪ねて、長野県安曇野市へ向かいました。地元では「山麓線」の愛称で知られるのどかな県道から、少し森へ入ったところに、小さな煙突をたたえたその家はありました。
信州での生活は、2010年から。東京から地縁のない長野県松本市に夫婦で引っ越し、数年間は、築45年の土間がある家に賃貸暮らしをしていたそうです。
「松本市内で、リノベーションをしたいと思っていましたが、なかなかピンとくる物件に巡り合いませんでした。少し範囲を広げて、安曇野に来てみたら、ああ、ここだな、と。風が吹いて、そこに身を委ねたら、この土地に導かれたような気がしています。その後は資金繰りも含め、すべてがトントン拍子に進みました。縁があったんですね」(ウチダゴウさん、以下同)。
建築や設計の経験はなかったそうですが、家の間取りやデザインは、ゴウさん自ら行ったそう。
「僕のラフデザインを、設計士の友人が仕上げてくれました。彼の『生活は物語。帰って玄関を開けたらどんな風景が広がっているか。それが描けたら、デザインはできる』というアドバイスは、とても参考になりましたね」。
スコットランドにヒントを得た「暗さが肝心の家」
冬季は日が落ちるのがとても早い、山国安曇野。黄昏時を迎えると、限られた照明と暖炉のやさしい炎がリビングを照らします。ゴウさんが暮らしのなかで大切にしているのが、この「暗さ」です。
「詩の活動をするなかでスコットランドを頻繁に訪れるようになり、いまでは第2の故郷です。最初のホームステイ先で僕が過ごしたのは、屋根裏部屋だったんですよ。天窓がひとつだけあって、その下に机。必要以上の灯りはなく、その暗い感じが、とても心地よかった。それをモデルにしてこの『暗さが肝心の家』をつくりました」。
家事動線にもこだわった高機能な収納住宅
木の温もりと、アクセントに選んだ落ち着いたグレーの壁。ゴウさんが国内外で選び抜いた家具やオブジェ、グリーンなどが美しくレイアウトされた空間。ゴウさんがこだわったのは、単にインテリアだけではありません。安曇野の厳しい自然環境のなかでも快適に過ごせる、高気密・高断熱な構造。さらに、スムーズな家事動線を支える収納の工夫が、あちこちに散りばめられています。
特徴的なのが、リビングから見えるワードローブ。バスルームの前から階段の裏までハンガーパイプを渡し、夫婦の衣類を収納しています。
「洋服を畳みたくないんですよ(笑)。バスルームの前ですぐに洋服も選べますし、しまうのも楽。階段の上は一直線にゲストルームにつながっていて、その動線も考えています」。
生活そのものに、「詩」を感じる住まい
「スコットランドへ行くようになったのは、詩を書くためでした。そのうちに、展示の機会を得たり、英語で朗読会をするようになって、世界がどんどん広がって。そうして創った詩を日本で朗読し、日本で創った詩をスコットランドに持ち帰って…という、詩の循環が生まれたんです。詩のおもしろさ、醍醐味を実感しました。もっと詩を書くための場所を自分で創りたい、という気持ちが高まったことが、この安曇野の家に繋がっています。どこにどんな家を造るか、はじめは具体的なイメージはありませんでしたが、流れに任せてみたら、この場所に、こんな家を建てていた。意図していないけれども、抱いていた感情は、やがてフィットした結果になるんだな…と、そんなことを感じる家づくりになりました」。
家族と愛犬を慈しみながら、信州ならではの暮らしを楽しむゴウさん。
仕事、散歩、そして薪割り…安曇野の森で過ごす毎日は、すべてが詩に繋がっていくと話してくれました。
「暗さが肝心の家」のリビングでは、定期的に朗読会が開催されています。ゴウさんの詩の世界に触れてみたいという方は、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか。素敵な家づくりのヒントにも出合えるかもしれません。
「してきなしごと」
https://shitekinashigoto.com/