住人プロフィール
大黒谷寿恵さん
料理家 料理教室「寿家」主宰
神奈川県鎌倉市
注文住宅 3LD+K(述床面積 約97㎡)
築・入居10年
家族3人暮らし
「この竹林を眺めるために」。北西側にリビングを据え、陰影礼賛を思わせる和風住宅
大黒谷寿恵さんは、神奈川県川崎生まれ、石川県金沢育ち。大阪の大学を卒業後、料理の道に進み、金沢・東京の飲食店で料理長を務めました。現在は鎌倉市で料理教室を主宰し、メディアのレシピ監修、ケータリングなど幅広く活躍しています。
「以前は、都内の賃貸マンションで夫婦2人暮らし。便利だったんですが、主人も滋賀県彦根市出身なので、お互いに“都会での子育て”が想像できなかった。子どもができる前に、と都内に通勤できる距離の田舎を探して、鎌倉で土地を見つけました。この場所は山に面した坂の上で、竹林を擁する森が目の前に広がっていました。それを見てピンと来て、ここに決めたんです。家のイメージは、はじめから和風と決めていました」(大黒谷さん、以下同)。
建築家の友人にアドバイスをもらいながら、夫婦で図面をつくり、和風の家が得意な工務店に依頼。竹林の借景を生かすため、あえて北西側にリビングを設定しました。ふだんは畳で食事をしているそうです。
畳の隣は、ソファがある板敷きのリビング。突き当たりが書斎で、さらにその奥は子ども部屋。主寝室だけ2階に設けられています。
「リビングが北西側ですからあまり明るくないんですが、この暗さが外の風景を引き立てて、落ち着くんです。畳の部屋の外にはウッドデッキを張り出し、気候のいい日は、そこで食事をすることもあります。野鳥の声が間近に聞こえて、気持ちがいいですよ」。
ダイナミックに料理ができる、玄関から土間続きになった台所
大黒谷さんの家の玄関は、懐かしい雰囲気の土間仕様。そのまま、土間の台所に続いています。
「料理人なので、靴を履いて仕事をすることに抵抗はありません。以前は都内のマンションで料理教室をしていたんですが、壁への油はねなど、一般住宅の室内キッチンは掃除が大変だなと痛感していて。土間の台所の良さは、とにかく大胆な料理ができること。掃除も楽なんですよ。また、買い物をして帰ってきたら、すぐに台所に食材を運び込めるのも便利です」。
業務用のコンロは5つ口。昔から使っている冷蔵庫に加え、乾物をストックするための冷凍庫も持っています。「出汁」を大切にする料理人ならではのこだわりです。
アイランド型の作業台は、料理教室で生徒さんが囲んでも動きやすいサイズで、東京合羽橋で探してきたそう。
「調理道具は、基本的に和食のプロ仕様。出番が多いもの、大きいものは、オープン収納にしています。海と山に囲まれた鎌倉は、どうしてもカビやすいので、ざるなど自然素材のものは風が通るように、という意味もあります。地形や環境がもたらす湿度の変化を考えながら収納を工夫する必要性を、都心から鎌倉に引っ越して実感しました」。
和食、器、古道具、着物、日本舞踊。和のエッセンスで描くインテリアと、便利な造作収納
ディスプレイも美しい玄関の前には幅広い廊下が設けられ、壁面収納が造られています。そこには、料理本を中心に、さまざまなカルチャー本がぎっしり。合間に保存食が置いてあるところが、料理家らしいインテリアを演出しています。
「玄関から入ってすぐに部屋、という感じにしたくなくて、ワンクッションほしかったので、この空間を設けました。収納は、家を建てている間に、大工さんに『ここにこんな棚が造れませんか?』と提案して、随時造ってもらったんです。端材を利用して小さなディスプレイスペースを造ってくれたり、細かいことに対応してくれて、嬉しかったですね」。
若い頃から和食器に惹かれてきたという大黒谷さん。和食の修業をしたことで、日本の文化をよりいっそう大切なものに感じられるようになったと話します。趣味は日本舞踊で、着物で普段の外出をすることも。家のインテリアにも和風が基本ですが、洋やアジアのエッセンスを組み合わせることで、独自のキュートな雰囲気を創り上げています。
車を使わないからこそメリハリよく満喫できる「鎌倉時間」
つい最近まで、調理の専門学校講師として都内へ通っていたという大黒谷さん。6年ほど続けたこの仕事を辞して、今は鎌倉に腰を落ち着けて料理をすることに専念しています。
「都内への通勤をやめたことで鎌倉での時間が増えて、ようやく理想的な生活に近づいていると思います。自宅は駅から徒歩25分と、少し離れていますが、ほとんど車を使わず、自転車や徒歩で移動をしているんですよ。時間があればランニングに出て、その帰りに買い出しをしたり。走って海でリフレッシュしたら、森の中の台所にこもって料理に専念。メリハリのある毎日を今は楽しんでいます」。
自家製の発酵調味料、自分でひいた出汁、季節の食材。和食には、日本人の体を整える良さがたくさんある、と大黒谷さん。「これからも、和食の素晴らしさをたくさんの人たちに伝えていきたい」と意気込みを語ってくれました。