住宅リフォームを考える際、そこに住まう人々の年代と家族構成は大切な要素です。建築家は、クライアントからの要望をきちんと取り入れながら、使い続けた先を見越した家づくりを提案します。今回は、少し目線を変えて、シニア世代の収納リフォーム例を取材。すぐにでも取り入れたくなるアイディアをたくさん発見することができました。

HOUSTO 編集部

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伊東三惠子さん

「アリス・リフォーム・デザイン」代表

収納重視で2度目のリフォーム

横浜に事務所を構える建築士の伊東三惠子さん。彼女が手がけるのは、家事の動線を意識した使いやすい家づくり。どの施工例にも、女性ならではの細やかな視点が行き届いています。そんな伊東さんが案内してくれたのは、シニア世代ふたり暮らしのご実家。築約40年の住宅ですが、伊東さんによる2度のリフォームのおかげで、少しも古さを感じさせませんでした。

開閉式のモダンな仏壇

開閉式のモダンな仏壇にしたことで、部屋全体がスッキリ明るい雰囲気に。趣味の果実酢などもたっぷり置ける出窓下の棚も、大活躍しています。

「3年前に行った2度目のリフォームは、収納の整理を第一に考えました。家族もどんどん巣立って行って、シニア世代だけが暮らす家は、どうしてもモノが増えたままになりますよね。体力も弱ってくるなかで、整理のしづらい昔ながらの収納は、住む人の負担になりますから」(伊東さん、以下同)。

仏壇のあった古い和室は、明るいフローリングに変更。床の間の位置も変えて、目線の中心に。左右に振り分けた収納力抜群の棚には、仏壇も組み入れました。出窓は、季節のお花などを美しくディスプレイできるコーナーです。さらに、北側の壁も、全面収納にしました。白で統一されており、圧迫感がありません。
あまり使うことのなかった和室も、こうして明るくよみがえることで、用途が広がりました。

「部屋が明るくて、収納スペースが機能的であれば、整理をしようという前向きな気持ちになりますよね」と伊東さん。

三連引き戸

三連引き戸にして、出し入れのスペースを広げてあります。右側の観音扉も、収納スペース。もともとは部屋への出入口でした。

楽に取り出せるスライド収納

「高いところや、奥まったところにある収納って、体力のない人にとってはとても厳しいんですよね。まず、モノをしまったままになりがちですし、無理をして取り出すときに、けがをするのも心配です。今はまだ元気でも、後々のことを考えたら、スムーズに出し入れできるのに越したことはありません」
伊東さんの言葉通り、一般的に使いづらい奥行きの長い階段下収納にも、工夫がありました。スライドレールが敷かれ、両面引き出し式の棚になっているのです。

  • スライド式の収納棚

    ひとつずつ取り出せるスライド式の収納棚。奥までしっかり収納、取り出すのも楽々です。

  • スライド式収納棚を逆から見たところです。段ボールに入った重いものも取り出しやすく、便利です。

小さな工夫が、生活にゆとりを生む

リフォームは、ほんの小さな工夫だけでも、暮らしに彩りを添えてくれるもの。
それまで引き戸だったキッチンの扉を取払い、生まれた壁のスペースには、ニッチを取り付けてました。

「ちょっとしたディスプレイコーナーになりますし、鍵など、小物を置く場所としても使えます」。

  • 壁のニッチ

    壁のニッチ。季節の絵や花を飾るスペースとして活躍しています。

  • 室内物干

    取り外しができる室内物干。さまざまな用途に使えて、とても便利です。

また、あえてリビングに室内物干をひとつ取り付けたのも、伊東さんのアイディアでした。 「冬の乾燥する時期、加湿として洗濯物を掛けたり、お客様のコート、また、ハンギング植物などにも使えて便利なんですよ」。

思い出と向き合うために、収納を考える

高齢者中心の社会に向かう日本。自身はもちろん、実家や親類の家など、誰にもシニア世代の家の収納について、考えさせられるタイミングが訪れます。想像すると、つい、ため息をついてしまいそうですが……。

「実家には、モノだけではなく、思い出もたくさん蓄積されていますよね。実家の整理って、この思い出とどう向き合うか、だと思うんです。この先、快適に生活をしていくために、必要なもの、そうでないものを選択することが、上手な収納につながります。ため込んでいると、ちょっと大変かもしれませんが(笑)、こんなことあったなぁ、なんて考えながら、少しずつ整理をするのも、楽しいですよ。はじめるなら、元気で動ける若いうちに、ぜひ(笑)」。

収納重視のリフォーム例には、若い世代でも応用できる家づくりのヒントがたくさんちりばめられていました。

暮らす人を思いやる収納リフォーム

出窓の下も、収納スペースにリフォーム。3列ある棚は、あえて扉を2つにして厚みを減らし、広さを確保しました。こうした伊東さんのアイディアで、ご家族も楽しんで整理を続けているそうです。