建物を作ることだけが建築家の仕事ではありません。環境に優しく、人々が健康的で安全に暮らせる空間作りも、現代では欠かせないテーマです。そんなエコロジーの観点を持つ建築家は、収納についてどんなアイディアを持っているのでしょうか。
柳澤達也さん
一級建築士事務所(株)ecomo設計室長
エコロジーモールも運営する建築事務所
一級建築士の柳澤達也さんが勤務するのは、神奈川県藤沢市にあるecomo。事務所の隣にはエコロジーモール「ecomo湘南」があり、地元では有名な人気スポットです。古い倉庫を自然素材でリノベーションした建物には、家作りのショールームをはじめ、有機食材や雑貨を扱うショップ、オーガニックレストラン、ベーカリーなどが併設されています。
「もともと当社はリフォーム会社としてスタートしたのですが、代表が病気で体を壊したことがありました。彼はその体験から、体にいい食事、環境について興味を持ち、このようなセレクトショップを有するモールを立ち上げたのです。扱っている商品もオーガニックで、トレーサビリティのしっかりしたものばかり。すべて無添加をコンセプトに、衣食住をトータルでご提案しています」(柳澤さん、以下同)。
自然素材にこだわり、人々の体と地球環境に優しい家作りを提案しているecomoのモール。工夫のあるキッズスペースや、セレクトショップのディスプレイなど、収納のヒントをあちこちで見つけることができました。
-
家にあれば、コーナーのデッドスペースに活躍しそうなラックです。丸みのあるデザインで、ディスプレイも映えます。
「自然素材、オーガニックはもちろん、環境に配慮すれば、自然と無駄を省く発想になります。エコロジーについて意識的になると、自然と収納も機能的でシンプルになってくると思います」と柳澤さんは言います。
ヒアリングを重ねて作るオリジナル家具
ecomo湘南から、南へ。海を近くに感じる気持ちのいい場所建つ、柳澤さんが手がけた新築の家に案内していただきました。ここは、二人暮らしのご夫婦が暮らす、24坪のコンパクトな住宅。階段を上ると、明るいリビング&ダイニングが広がっていました。
足のないテレビ台も、建築工事の一環として作ったオリジナル。掃除のしやすさはもちろん、壁に直接取り付けてあるので、見た目に浮遊感があります。あえて不安定に見せて、建築の面白さを演出しているそうです。
「収納したいものがあらかじめ決まっていれば、建築工事に家具造作を取り入れることができます。クライアントとは、収納計画についてもヒアリングするようにしています」。
生活動線を考えて作ったストックルーム
「ここは、二階が1フロアのリビングということもあって、『スムーズな生活動線』をキーワードに設計しました。スペースを最大限に生かし、収納も使いやすく、かつ、インテリアとしてしっくり溶け込むことを重視しています」。
階段上は、キッチンまで繋がるウォークスルーのストックルームになっています。買い物からの帰宅後の動線を考え、階段を上ったすぐ先に扉が取り付けてあります。
インテリアを兼ねた収納のアイディア例
機能的なウォークスルーストックルームのほかにも、この家には建築的な収納のアイディアがいくつか施されています。
「ecomo で提案するのは、機能とデザインを兼ねた収納です。インテリアとして美しくあることは、モノを整理するモチベーションに繋がります」と柳澤さん。自然素材を生かしたインテリアは、気持ちのいい暮らしを後押ししてくれるようです。
-
「ライフスタイルの変化についても長い目で見ることが大切です」と柳澤さん。将来的なプランについて話し合うことで、前もって収納の整理ができることもある、と教えてくれました。
「住宅は、一生ものの買い物。健康的に、長くその家で暮らし続けるためには、今やオーガニックやエコロジーの考え方は欠かせないと考えています。生活動線を重視した、無駄のない収納も、その一環。建築を通して、少しでもヘルシーな生活のお手伝いができたら嬉しいですね」。