空間全体をプロデュースするために、調度品や演出備品にいたるまで、精選の目を行き届かせる建築家。磨き抜かれたセンスを発揮する建築家は、自身の住まいと収納に、どんなこだわりを持っているのでしょうか。今回は、建物全体がアートのようなお宅にお邪魔しました。
佐竹永太郎さん
STAR inc.代表
美しさを実現する建築家の暮らし
ホテル、百貨店をはじめ、飲食店からオフィスまで、国内外で幅広く空間プロデュースを手がけるデザインチーム、STAR。そのコンセプトはずばり、「美しさ」。どの作品も、徹底した美意識に貫かれています。
代表の佐竹永太郎さんが暮らしているのは、STARのオフィスが入るビルの上階フロア。1Fはラウンジになっており、ビル全体がSTARの世界観で構成されています。
-
旧家のものだった3メートルの上り框は、ダイニングのベンチに。ベンチ下は、すべて収納になっています。
「ここは17年前に、クライアントの依頼で、僕が設計した住宅です。縁があって自身が暮らすことになったので、家族3人で生活するために少し手を入れて、いまのかたちになっています」(佐竹さん、以下同)。
リビングの床は、長さ5mの欅の一枚板が並んでいます。注文家具をつくるために30年以上ねかしていた材料を家具店から譲り受け、東京の新木場で製材をしたものだとか。欄間の桟や柱には深いグリーンの漆がアクセントとして塗られ、いたるところに和のモチーフが効果的に使われています。とはいえ、純和風建築という印象はありません。ヨーロッパやアジアのアンティーク家具ともうまくミックスされて、独特の雰囲気が漂っています。
収納をアートピースの一つとして捉える
「収納には見せる収納と隠す収納があると思うんですが、僕の場合は、内容に合わせて両方使い分けています。さらに、入れ物それ自体がアートピースになれば、収納もひとつの絵のように見えると思うんです」。
年代を経て美しい家具に惹かれる、という佐竹さん。選び抜いた家具には、それぞれに思い入れがあるそうです。
「たとえば、妻の部屋に置いている楠のトランク。海外生活が長い友人から譲り受けたものですが、置いておくだけで、何かストーリーを感じるインテリアになる。中には洗濯道具などを入れてあり、きちんと収納の役目も果たしています」。
トランクと、インドの古い本棚、インドネシアの麻雀テーブル。そして、作家ものの椅子。絞り込んだ家具が、この家ならではの空気感を演出しています。
美しい空間を維持するためのルール
「間に合わせの収納グッズは置かない。ここは徹底しています」と佐竹さん。
美しい空間を保つためには、一定のルールを決めることが大切だと教えてくれました。
「たとえば、いつか買い替えるつもりで、何か空間にそぐわない収納グッズを置いたとします。だけど、一度置いてしまうことで、便利だし、まあいいや、となる。そこから空間はずるずると崩れていってしまうんですね。僕は、お客様に対して美しい空間提案を発信する立場なので、自分がそれをしてはいけないだろうと(笑)。だから、生活感の出てしまう間に合わせのアイテムは一切持っていません。ちょっとストイックかもしれませんけど、何か統一した空間を作るためには、自分なりのルールが必要だと思います」。
-
エレベーターから直結した玄関。靴は、1800年代につくられたベルギー製のチェストに収納しています。
「正しく古いものは、いつも新しい」と佐竹さん。伝統的な様式美やアンティークにインスパイアされ、どこにもない空間を作り続けています。