後から収納家具を買い足すのではなく、あらかじめその家庭にマッチする収納を組み込んだ家を建てる。空間を最大限に生かした収納づくりについて、お話を伺いました。
大藪元宏さん
「大藪元宏建築研究所」代表
アトリエ+ベーカリーカフェ+自宅
ホテルやマンション、行政の施設など、大型の建築物から、一戸建て、リノベーションまで、広く手がける大藪元宏さん。東京都市大学をはじめ、いくつかの大学で教鞭もふるわれています。
大藪さんのご自宅は、多摩川にほど近い静かな住宅街に佇む、コンクリート3階建ての個性的な建物でした。
地下は、建築事務所のアトリエ。1階は、週末だけオープンするベーカリーカフェ「KOaAコア」。料理上手な奥様が経営されている、地元でも評判の店です。
1階、隠し扉のような引き戸を開けると、船のように黒い鉄板で造られた玄関スペースが出現。住居のある2・3階へつながる螺旋階段が上に伸びていました。
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靴箱にもひと工夫。一番下段は、スライド式になっていて、手前に引き出して取り出すことができます。
ただの壁面は、いらない!?
2階は、広くL字型にとられた、明るいリビングダイニング。壁側は、窓以外がほぼ収納になっています。そして、中央の螺旋階段をぐるりとめぐらすように、収納が取り付けられていました。
「たんなる壁は、極力なくす方向でいつも考えています。収納なのか、窓なのか、どちらかです。収納と開口部が大切なのです」(大藪さん、以下同)。
光と風を通す窓の配置を基準に、その他の壁はほぼ収納スペースにするのが大藪さんのアイディアです。
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靴箱にもひと工夫。一番下段は、スライド式になっていて、手前に引き出して取り出すことができます。
機能的で美しいオリジナルのキッチン
収納は爽やかな白木で統一した一方、床と家具は温かみのあるウォールナットにしたのが大藪さんのこだわりです。美しいキッチン台と、同素材のダイニングテーブルも、大藪さんのオリジナル。
「素材を揃えることで、インテリアのまとまりが出ます。動線も、デザインも、流れるように、よどみなく……というのが、私の家作りの基本ですね」。
まるで忍者屋敷? 遊び心たっぷりの収納
機能性を考えた見事な壁面収納のほかに、大藪さんのお宅には、遊び心のあるユニークな収納もありました。
一見、収納扉のひとつのような壁ですが、プッシュ式で出てくる取っ手を引くと、トイレが出現! 「これも、ひとつの収納ですよね。トイレを収納する、という(笑)」。
ほかにも、壁紙に工夫をこらした和室や、事務所に置いたからくり収納家具など、見ごたえのある収納がいっぱい。まさに現代の忍者屋敷のようで、訪れる外国人のお客様にも大いに喜ばれているそうです。
家を建てる前に、収納について考える
一戸建てから集合住宅まで、さまざまな住宅の設計をする大藪さん。すべての建物に共通した考え方があるといいます。
「ライフスタイルはそれぞれ違いますが、私がまずクライアントにお願いすることは、不要な物の洗い出しです。家には、必ずいらないものがたくさんあるはずなんですね。選りすぐった持ち物の量に対して、プラス20%程度で収納を考えていきます」。
「実際の設計においては、部屋のつながりはシーンが流れるように、線を整理していきます。余計なデコボコを作りたくないんです。そのなかで、収納のラインを揃えて行きます」。
美しくラインの揃った収納がある家。もちろん理想的ですが、すでに家を建ててしまっている一般家庭へのアドバイスをするとしたら……?
「まずは、不要なものを整理すること。そして、収納や家具の素材・色を揃えて、デコボコしないように配置するということですね。出来合いのものであっても、床や天井などの色を見て、すっきりと流れるように見えるにはどうしたらいいか、を考えてみると、わかりやすいと思います」。
「よっぽどの大豪邸でもないかぎり、ウォークインクローゼットは必要ないですよ。デッドスペースの塊ですから」と大藪さん。収納建築のプロから見た鋭い意見に、脱帽でした。