「部屋にはそれぞれクローゼットが必要」という既成概念を取り払い、クローゼットは独立させて家族で共用する。斬新なアイディアでリノベーションされたマンションから、新しい収納のかたちが見えてきました。
蘆田暢人さん
「蘆田暢人建築設計事務所」代表
家の半分はバックヤード!?
1年程前に、築42年のマンションをフルリノベーションした蘆田暢人さんの住まいは、間取りがとても個性的です。
「もともとは3LDKだったんですが、今は何LDKとも言えないですね。既製のかたちには当てはまらないので」(蘆田さん、以下同)。
玄関の扉を開けると、広い土間と、引き続きの土間収納。お風呂と洗面台、洗濯室、クローゼットがそれぞれ独立してあり、夫婦の寝室、広々としたリビングダイニング。そのリビングダイニングの一部に子供部屋を組み込んだという……なかなか言葉では説明の難しい間取りなのです。
「家族が過ごすスペースは、このリビングダイニング。あとはひとつ寝室があって、それ以外は、風呂やトイレ、洗濯室といった機能空間と、収納。だからなんと言うか、家の半分は、ほぼバックヤードなんですよね」
ふだんは住宅設計をメインに、公共建築から家具デザインまでを手がける蘆田さん。自身の住居は、ひとつの実験台としてつくったと話します。
「間取りというと、どうしてもLDKのほかに6畳、8畳の部屋を設けて……というのが現在のスタンダードではありますが、間取りって、もっと自由でいいんですよね。機能さえきちんと働けば、部屋はもっと狭くてもいい。たとえばこの家の子供部屋と寝室は、それぞれ3畳ずつくらいしかないんです。収納はバックヤードにまとめて、部屋には無駄なものを置かない。だから、狭さを感じることはありません」。
収納空間は家族みんなで管理する
一般的な間取りでは一つの部屋にそれぞれクローゼットを配置されることが多いところ、蘆田さんのお宅では、個々のクローゼットはありません。
「各部屋に個人のクローゼットを持つと、その中の収納は、個人の管理に任されることになります。そうすると、どうしてもモノを捨てられなかったりして、洋服でも本でも、何でもたまる一方ではありませんか? わが家では、クローゼットは思い切って家族の共有スペースにして、そこに収まるものだけを持つことにしました。『これはもう着ないから、処分してもいいんじゃない?』なんて話すこともあります。お互いの目があるから、モノが整理できるんですよね」。
限られたスペースを共有することで、自然とモノが減り、自分にとって今何が大切なのかがわかってくると蘆田さんは言います。
収納もインテリアも家族で意見を出し合って
蘆田さん一家は、みんなが収納とインテリアの名人。
おもに奥様が管理されているというキッチンとパントリーは、見た目も美しく整理され、それ自体が素敵なインテリアになっています。
「娘が勉強に使っているアンティークのライティングビューローは、彼女が自分で選んだものです。わが家の場合は、まずそれぞれが好みのものを見つけて、それが家のインテリアに合うかどうかを家族で話し合って決めるというルールがあります。好みはみんなけっこう似ていると思いますね」。
収納を共有し、インテリアについても話し合うことで、家族みんなが住まいづくりの意識を高めることができる、と蘆田さん。
蘆田さんの美しい住まいには、家族がストレスなく快適に暮らす知恵がたくさん詰まっていました。