小さな家で広々と暮らすには、収納空間の取り方が鍵になります。暮らす人の目線に立って快適な狭小住宅を実現する、話題の女性建築家にお話をうかがいました。
大塚泰子さん
「ノアノア空間工房」代表
一人暮らしのための9坪の家
著書「小さな家のつくり方」(草思社)で、バラエティに富んだ空間アイディアと建築に対する柔軟な考えを発表し、現在マスコミにも注目される女性建築家、大塚泰子さん。
「いつか大塚さんと家を建てたい!」主婦層を中心に女性からの支持は厚く、憧れの建築家として知られています。
目黒区に暮らすKさん(50代)も、大塚さんに自宅の建築を依頼した一人。今回は、Kさんが一人で暮らすために建てられた明るい一軒家に、大塚さんと共にお邪魔しました。
敷地面積は16坪。建坪は10坪に満たない、いわゆる狭小住宅。もともとは台形をした角地に建つ、建て売り住宅でした。
「難易度の高い敷地でした。でも、だからこそ、いい家をつくろうって、やる気が湧くんですよね(笑)。」(大塚さん、以下同)。
面積も小さいので、居住空間をキープするために収納スペースとの割合はしっかり考えたという大塚さん。土地のかたちが難しいので、模型をつくって確認作業を何度も重ねたそうです。
リビングに大きく取った収納棚
Kさんの大塚さんへのオーダーは、「生活感のある収納を見せないようにしたい」というもの。そこで大塚さんは、リビングダイニングの壁の一面を、キッチンまわりから日用品まで、すべてが納められる引き戸の収納棚にしました。
変形スペースに施したオリジナル収納
台形の土地に建つKさんの住宅には、どうしても鋭角なスペースなど、変形な空間が生まれます。大塚さんは、そうした部分をあえて活かせるような収納づくりを考えました。
1階の小さな客間は、ふつうのクローゼットをつくると、どうしても居住空間が圧迫されます。そこで下部を床として生かし、収納は浮かべたような状態で、広く見える工夫を施しています。
また、2階のお風呂&トイレにも、デッドスペースを無駄にしないよう、オリジナルの収納を取り付けました。
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2Fのトイレは、天井の角を生かして棚を設置。ディスプレイスペースも設け、見た目も美しい収納です。
先々を見据えた家事動線
2Fへの階段を上がると、お風呂&トイレ。続く廊下には、扉付きの洗濯機置き場が。その先に、ウォークインクロゼット(WIC)。WICは寝室と回遊できるようになっています。
「多忙に働く女性の一人暮らし。かつ、今後高齢に向かうことも考えて、動線はかなり意識しましたね。洗濯物を持って階段を上り下りしなくてもいいように。衣料は一カ所にまとめて、整理からコーディネートもしやすい空間を……。女性が朝起きて寝るまでの一連の動きを想定し、毎日を楽しく過ごせる家づくりを心がけました」。
小さい家だからできること
「住宅は、買うものではなく、創るもの」という大塚さん。施主としっかり話し合い、共につくり上げていくのが大塚さんのスタイルです。
「小さな住宅こそ、しっかりと収納をつくり、モノが溢れないようにしてあげることが大切。建坪は狭くても、すっきりとモノが整理されていて、空間に抜け感があれば、広々と感じられるものなんです。隅々まで目が行き届くから、掃除もしやすい。整理をしようという意欲をかきたててくれます。使わない部屋が納戸になる、ということもありません」。
小さな家だからこそ得られる、豊かな暮らし。大塚さんに家づくりをお願いして良かった、と施主のKさんも大満足の笑顔を見せてくれました。