リビングからバスタブが(逆にバスタブからもリビングが)見える、大胆発想のリノベーションマンション。その家に施された遊び心いっぱいの収納アイディアを取材しました。
佐々木倫子さん
「.8 TENHACHI一級建築士事務所」
建築家夫妻が手がけた唯一無二の自邸リノベ
建築事務所をご夫婦で営む佐々木倫子さん。「.8 TENHACHI」というユニークな屋号は、「80%」の意味と、プライベートなラッキーナンバーから取ったもの。建物の完成そのものは80%であり、愛着を込めてメンテナンスをしながら暮らしていくことで、100%に近づく……そんな発想から名付けたそうです。
そんな佐々木さんが家族3人で暮らすお宅は、築37年の中古マンション(67㎡)。一般的な2LDKでしたが、スケルトンにして、全面的にリノベーションをしました。
この家でひときわ目を引くのは、存在感のあるバスルーム。扉のないボックス型のバスルームは、手前に白いバスタブが置かれ、リビングの風景の一部になっているのです。
オープンなバスルームには、工夫がいっぱい
「扉を付けて閉じてしまうことは簡単ですが、そうすることで空間が狭くなります。バスルームをオープンにしたら、全体に繋がっているイメージが共有されて、リビングもバスルームも、より豊かになりました。お風呂から眺めるリビングは、なかなか面白い風景です。テレビを見ながら入ることもありますよ(笑)」(佐々木さん、以下同)。
バスルームに扉がないと、室内に湯気や湿気が入らない?という素朴な疑問に対しては「湿気は部屋全体に拡散させるイメージ。扉がない分、一箇所に湿気が溜まることがないですよ」と佐々木さん。
家全体を使って空気を循環させるという発想も、とても柔軟な考え方です。
センスを活かして、見せる収納
デザインが美しい本や、調味料を入れる容器。
よく見える場所に置くものは吟味をする、と佐々木さん。モノ選びのセンスは、訪れる人の目を楽しませてくれます。
「キッチンも吊り棚にして、リビングのカーテンレールの上にも、ディスプレイができる収納棚を付けました。そうですね、“見せる収納”はわりと得意なほうだと思います」。
見せない収納は、つくる場所を考えて
「見せたくないものをしまえる収納は便利ですが、閉じた部分で居住空間を狭めるのはもったいない。だから、どの場所につくるかは、バランスを考えます」。
デッドスペースにならない場所には、ボリュームをとって見せない収納をつくり、部屋全体がすっきり見える工夫をしています。
一緒にいながら、個々を尊重できる家
佐々木さんの家で感じられるのは、家族が一緒に過ごせる連帯感。と同時に、一人で落ち着ける場所が家の中の各所にあるという、何とも不思議な安心感でした。
部屋を壁で区切ってしまうのではなく、それぞれの機能を持たせながら、ゆるやかに全体が繋がっている家。収納も、取り出しやすく、片付けやすい、自然な動線上に設置され、しっくりとなじんでいる印象です。
「どれくらいモノを持っていて、それらをどう収納するか。それは、家族のライフスタイルそのものだと思います。インテリアや間取りを考えるのと同時に、収納について家族で話し合うのは、過ごしやすい家づくりに役立つと思いますね」。
リビングからバスタブが見えるユニークな家で暮らす建築家は、家族との時間を大切に、暮らしの工夫を楽しむ達人でした。