横浜の盆地を見下ろす崖地に建てられた、広大な邸宅。家中を周遊できるユニークなその家で、暮らしをより快適にする収納設計のセオリーについて伺いました。
相坂研介さん
「(株)相坂研介設計アトリエ」代表
屋外も室内も、行き止まりのない回遊型住宅
横浜本牧。眺めがいい崖の突端に、昨年末完成したばかりのN邸。真っ白な外壁を銀色の鋼板が取り巻く、シンプルかつエレガントな豪邸です。
敷地面積はなんと266.59㎡。建物の延床面積も206.44㎡と、かなりの広さがあります。この家の特徴は、「回遊型」の眺望住宅であること。外階段を設置し、中庭と二階のテラスを通って周遊できる屋外。そして室内も、スロープやWICを利用して、行き止まりのない動線を実現しています。
「ロケーションを活かして眺望を最大に取り込むこと。行き止まりのない動線をつくり、家の外でも中でも、子どもが安全に走り回れるようにすること。このふたつを最優先に考えてつくった、立体回遊型の眺望住宅です」(相坂さん、以下同)。
造を活かした屋外の収納スペース
ユニークな立体回遊型の住宅には、その構造を活かして、屋外にも収納スペースがあります。 「収納は、設計のなかで、さまざまな条件をクリアしながら、同時に考えることにしています。そうすることで、場所に応じて、視覚的にも、使い勝手もいい収納スペースが生まれます」。
WICを挟み長く住める「下宿型」の子ども部屋
N邸は、2人の娘さんを含めた4人の暮らし。施主のNさんには、「2人の娘たちには、できるだけ長く家にいてほしい」という希望があったそうです。そこで相坂さんは、二つの子ども部屋の間に専用トイレと共用WICを挿み、リビングを通らずに玄関や浴室へ行き来できるプライバシーの高い「下宿型」の構成を提案しました。
個室は大切にしながら、共有スペースを挟むことで、つながっているという安心感も得られる設計。動線の良さはもちろん、家族一人ひとりを思いやった収納の配置が実現されています。
人の居場所とモノの置き場は同時進行で考える
建築・収納・家具。家を構成するこれらのモノが、人の暮らしを妨げる要因になってはならない、と相坂さんは言います。
「一番大切なのは、人の居場所ですよね。人がいかに生活しやすく、快適に過ごせるかという視点に立って、モノの置き場所を決めることが大切だと思います」。
「人が動ける場所をつくった上で、残った場所に、モノの居場所を適切に配置していく。それが、収納だと思っています。また、見せるもの、見せないもの。見せたいけど埃をかぶせたくないもの…など、それぞれに適したしまい方、飾り方、配置や動線をきちんと考えることが大切です」。
敷地の環境と人の動線から、配置・形状・仕様を決めていくこと。そこに、最適な収納が生まれる、と相坂さんは言います。
「家は、人が中心でなければならない」という言葉が如実に再現されたN邸。そこは、自由に回遊しながら、自然とモノを整理することができる、最先端の収納住宅でした。