「階段」をセンターに据えて、家事動線と収納を考える造作テク。暮らしやすくてコストパフォーマンスにも優れた、ユニークな注文住宅を取材しました。
森元気さん
「森元気建築設計事務所」代表
外と内のデザインをつなぐアイディアテク
その家は、外構の階段をのぼって、玄関の扉を開けると、目の前にはまた階段。さらに階段はY字を描くように左右に分かれて、2階へと続いています。この何ともユニークな住宅を設計したのが、建築家の森元気さん。中央に階段があるリビングダイニング・キッチンは、とても珍しいものですが、どんな意図で間取りをデザインしたのでしょうか。
「ここはもともと擁壁や階段が宅地造成されている土地でした。ならば、外構自体も敷地の一部なので、これを取り込むようなかたちで全体のデザインができないかと考えたんです。一般的には、家の外と内のデザインは途切れていることが多いですが、造成と家を関係づけ、デザインを連動させることで、街の一部として新しい環境をつくる、という狙いもありました」(森さん、以下同)。
階段を中心にした回遊型のリビングダイニング・キッチン
階段を見て、向かって右側がダイニングキッチン、左側がリビング。階段の裏側には4本の柱があり、この構造を活かして収納が造られています。階段と柱部分の周辺は、ぐるぐると回遊できるようになっていて、リビングダイニング・キッチンの真ん中に大きな構造物があるわりには、狭さを感じさせません。
「キッチン周りの家具や、テレビ台などはすべて造作です。柱や手すりは、木をむき出しにして、そのまま画鋲や釘を刺して使えるようにしました。これはコストカットにもなりますし、フックをつけて収納にもできる工夫です」。
奥行きを出さず、コンパクトに階段を造る裏ワザ
施主からのオーダーは、「明るいこと」「広い子ども部屋」「使いやすいワードローブ」の3点だけだったという森さん。
「敷地はそんなに広くないので、廊下をいっぱい取るとムダになってしまいます。そこで、階段を途中でふたつに割ってY字にし、2階のスペースを広めに確保しました。そこにプライベート空間をすべて詰め込むようにして、子ども部屋・寝室・納戸・洗面所と浴室を造りました」。
隠す収納と見せる収納の絶妙なバランスを目指して
「施主の方は、とても収納上手。ワードローブ以外の収納スペースは、適材適所に、コンパクトでいいとおっしゃいました。しまう場所が多ければ、ものが増えるから、と」。
そんな施主とのやり取りから、森さんが目指したのは、隠しすぎず、目立ちすぎない収納。ワードローブ以外の収納は、見せる収納と、扉付きの収納とのバランスを考えたといいます。
「キッチン関係の収納には衛生を考えて扉をつけ、それ以外は、コストも考えて、ほとんどを見せる収納にしました。ふだんよく手に取るものは、見やすい場所で管理するほうが楽ですし、日常的なものがある程度あふれていることは、家族の暮らしの彩りでもあると考えているんです」。
すべてを隠して整理を怠るよりも、使うものとしまうものを吟味して管理し、日常的なものもインテリアの一部として活かす。そんな肩の凝らない家づくりがいい、と森さんは話します。
森さんが手がけた階段が中心にある家は、明るく、動線よく、しまいやすい。そして、暮らす人の日常がちょうど良く見えるようにレイアウトされた、とても快適な住まいでした。