独立した部屋がないのにプライベートが保たれた、そのリノベーションマンションのニックネームは、「閉じない部屋」。見せる収納・隠す収納をうまく組み合わせた実例を取材しました。
佐々木高之さん
「アラキ+ササキアーキテクツ」代表取締役
閉じずに隠せる、新感覚のワンルーム
都内北部にある、築10年、75㎡のマンションです。もともとは4人家族が暮らしていた3LDKの間取りでしたが、新オーナーとなった若い夫婦の要望で、フルリノベーション。間取りの達人によって、とてもユニークな造りのワンルームへと生まれ変わりました。
玄関を開けると、ベランダから光が降り注ぐリビング・ダイニングまでが一望できます。その手前には、何やら不思議なコンクリートの壁が……。
「若いご夫婦には、細々と分かれた部屋は不要です。でも、オープンなワンルームでは、来客時や生活の変化への対応が難しい。そこで、プライベート空間(寝室)だけは不用意に見えない場所に、最小限の壁を立てて、ゆるやかに仕切りました」。
そう話すのは、リノベーションの設計を担当した佐々木高之さん。
「将来、家族が増えた場合などに、この壁をよりどころにして、最大2つの寝室を確保できるように、動線と電気配線まで計画してあるんですよ」(佐々木さん、以下同)。
天井のハンガーパイプが見せる収納のキーに
角部屋という好条件を活かして、窓際に当たる2辺には、天井に黒いハンガーパイプが設置してあります。これが、閉じない部屋だからこそできる収納テクニック。玄関から入ったすぐの場所では、洗濯ものの室内干しや、お客様用のコート掛けに。ベッド周辺の収納空間ではワードローブとして大活躍。さらにリビングでは、ディスプレイのポイントになるなど、とにかく便利なのです。
リビングは見せる収納、キッチン・ダイニングは隠す収納。メリハリの効いた収納計画
入口からリビングには、腰高のオープン収納棚が繋がっています。これは、「無印良品」の収納用品が隙間なくぴったり収まるように造作したもの。先に紹介したハンガーパイプなど、見せる収納が印象的なお宅ですが、ダイニング・キッチン周りは、隠す収納をご希望されたそう。
「ライフスタイルが確立されているご夫婦なので、事前の収納計画もバッチリでした。見せて整理するもの、目に触れたくないものはきっちり分けて考えられていましたね」。
収納を活かしてグリーンを飾るテク
オーナー夫人は、「植物」と「暮らし」の情報発信をしている編集者。リノベーションの物件選びも、「植物がよく育つかどうか」を基準に、日当りと風通しの良さを重視したそうです。
リビングの収納棚の上と、モルタル部分の床には、バラエティ豊かな鉢を並べ、ハンガーパイプにもグリーンとドライフラワーをハンギング。佐々木さん考案の収納設計をフルに活用し、上手にディスプレイされていました。
お互いの気配を適度に感じる快適キッチン
ダイニングを見渡せるアイランドキッチンは、リノベーション時に造作をしたもの。調理をする風景はオープンでも、調理器具や食器、食材などは、すべてキッチン周りの収納に収められるように設計されています。
「アイランドキッチンは、プライベート空間の内窓に面しています。この家には完全に閉じられている場所はなく、2人はどこにいても、お互いの気配を感じていられるという間取りです。収納に関して言えば、全体的に隠しきらないところが、整理が進むポイントですね。必要なもの、不必要なものを見直す機会も多くなると思います」。
センスのいい夫妻が暮らす「閉じない部屋」は、日々の暮らしのなかで自然に整理収納ができてしまう、ハイテク収納住宅でもありました。