長野県へU&Iターン移住した家族が暮らす、新築一軒家を取材しました。雪深いエリアにマッチした北欧スタイルと、その快適さを支える収納の工夫とは。
山下和希さん
「アトリエ・アースワーク」代表
北欧スタイルの暮らしを愛し、長野へIターンした建築家
和歌山県出身の建築家、山下和希さんは、7年前に長野県安曇野市へ移住。現在は、和歌山県と長野県の2拠点で設計活動を行っています。
「ずっと北欧スタイルの暮らしに惹かれてきました。美しい森林に映えるデザイン、自然と向き合い暮らしを楽しくする工夫が、建築や家具・照明に顕われています。旅行でよく訪れていた長野は、風土が北欧によく似ていて、理想の暮らしができると感じ、思いきって、家族でIターンしました」(山下さん、以下同)。
毎日北アルプスを眺める安曇野の暮らしは、想像以上に素晴らしいものだと山下さん。長野の自然にしっくりと馴染む、素敵な住宅を次々と生み出しています。
今回、山下さんが案内してくれたのは、今年の秋に竣工したばかりの新築物件。関東から長野県松川村にU&Iターン移住した若い夫婦のために設計した、北欧スタイルの家です。
長野県松川村で建てた、北欧スタイルの注文住宅
施主のSさんは、奥様が松川村出身。関東出身のご主人と話し合い、長く暮らした神奈川県から、U&Iターン移住を決めました。北欧スタイルが大好きな奥様は、山下さんの建築に一目惚れ。お子さん2人を含む家族4人でのびのびと暮らせる家を、とオーダーしました。
「Sさんご夫妻は、デザインが好きな、とても目が肥えたお客様です。収納も、ご自身で工夫しながら、徐々につくり上げていくことのできる人だと思いました。ですから、なるべくがっちりとつくり込まず、収納スペースは十分用意しておくというプランを考えました」。
キノコのような屋根の中には、収納スペースがたっぷり
Sさんの注文住宅は、愛称が「kinoko no outi(キノコのお家)」。まさにキノコような外観は、一見平屋のようですが、実際は屋根のなかにも居住空間があり、内部は二階建てになっています。山下さんはこの構造を生かし、居住空間を取り巻く勾配下のデッドスペースを、ほとんど収納に充てることにしました。
「奥様はモノを増やしたくないタイプ、ご主人は捨てられないタイプ。念のため、収納スペースはたくさん取っておきましたが、整理上手な奥様のおかげで、まだまだ余裕があります。収納部分は、体が自由に出入りできる程度の余裕があると使いやすい。必要以上に詰め込まないことが大切ですね」。
視線を集めてすっきり見せる、北欧風キッチンの壁面飾り棚
家族が集まるキッチン。当初は大型の壁面収納も考えていたそうですが、あまり造り込みたくないという奥様の意向で、キッチン家電を置く造作棚と、シンプルな飾り棚の組み合せになりました。
「ここは、最後までSさんと話し合って造った部分でした。別の場所に使用したマリメッコのクロスが余ったので、飾り棚に使ってみたところ、パッと映えて、すごくしっくりときた。視線がそこに集まって、キッチン全体が整って見える効果があるのですね」。
長野の気候を楽しむための達人による工夫
夏は涼しく、快適な長野の暮らし。一方、長く厳しい冬は気温も低く、たくさんの雪が降り、家の中に閉じこもりがちになります。だからこそ、家の中は快適に過ごせる工夫が必要、と山下さん。
「この家は、積雪を考えて、地面から60㎝ほど床を上げているのですが、あえてリビングの部分だけ床高さを下げてあります。ダイニングキッチンに続く階段上は、ちょっとしたステージのようになっていて目線も変化しますから、家の中でも動きがある。長い冬も、家族で楽しんでもらえると思いますね」。
松川村ではそろそろ、雪が降りはじめる頃。山下さんが設計をした暖かな家で、子どもたちがはしゃぎまわっている様子が目に浮かびます。
豊かな自然に寄り添う北欧スタイルの家。それは、地方移住を考えていなかった人でも、移住をしてみたくなるほど、魅力に満ちた家でした。