60平米の中古マンションをフルリノベーション。ほぼすべての収納を造作することで、開放感と動線の良さが実現されていました。
藤木俊大さん
「PEAK STUDIO」共同代表
リフォーム工事中の中古マンションに「待った!」
横浜の築40年の中古マンションをフルリノベーション。Kさん夫婦が3歳の息子さんと3人で暮らす新居は、昨年5月に竣工したばかりです。
美容師であるKさんの家を手がけたのが、建築家の藤木俊大さん。藤木さんは、長年ヘアカットをKさんにお願いしているという旧知の間柄です。 「家をつくるなら、藤木さんに中古マンションをリノベーションしてもらおうと決めていました」とKさん。数年前から物件を探しはじめ、この中古マンションに出合いました。
この部屋はもともと「リフォーム済み物件」として販売予定だったため、すでに工事が進められていましたが、Kさんはそこに「待った!」をかけたのです。リノベーションをしたいのでこのまま売って欲しいと交渉し、購入に至りました。
「60平米、間取りは3DKの物件でした。Kさんからのオーダーは、余計なものを置きたくないので、造作の収納を多めにということ。陽当たりと風通しを妨げない開放感。そして、先々に子ども部屋として仕切れる構造を、というものでした。そこで、間取りを1LDKに変更し、動線を考えながら造作の棚を設置。リビングは一部を引き戸で仕切れるようにして、フレキシブルに使える空間を目指しました」(藤木さん、以下同)。
キッチンとリビング・ダイニングをゆるやかに仕切る収納カウンター
この家のアイコンは、キッチンからサニタリー前に設えられた長い収納カウンター。ボリュームのある収納であるとともに、家事や事務仕事ができるテーブルとしても活躍します。天井側にも吊り収納棚が巡らされ、2つのオープンシェルフがアクセントに。
「収納棚で壁をつくったという感じですね。収納自体は腰高までで、オープンシェルフも開放感があるので、完全に遮ることはありません。この構造がワンクッションとなり、リビングからの視界においては、水回りの存在感も和らげます」。
一つの空間でありながら、完全にオープンではない安心感。開口部からの風景もユニークで、何とも居心地のいいリビングに仕上がっています。
「無印良品」のモジュールに合わせた収納in収納
造作の収納シリーズは、すべてシナ材を使い、デザインが揃えられていました。また、棚の内側は、すべて「無印良品」の収納用品が収まるサイズに設定。
「無印良品の収納用品は、どんなタイプも自由に組み合わせることができて、いつでも買い直せるモジュール設定が魅力です。Kさんはとても収納上手。造作の棚の中も、きれいに整理されていて、感心しますね」。
ハンガーパイプを活用した収納テクニック
Kさんのお宅には、シナ材の造作収納だけでなく、ハンガーパイプを活用した収納術があちこちに生かされていました。
「Kさんの奥様のご要望もあって、キッチンや洗面所などに、コンパクトなサイズのハンガーパイプを採用しました。ちょっとした小物をかけるのにも重宝します。また、便利なのは寝室のハンガーパイプ。布団が掛けられるんです」。
空間の雰囲気をつくる、新しい収納スタイル
キッチンカウンターも、もちろん作業台を兼ねた収納棚。とても使いやすいです、と話しながら、施主のKさんがお茶を淹れてくれました。
「収納は、ただモノを隠す場所というだけではなくて、それ自体が空間の雰囲気をつくったり、領域を切り替えたりする装置になると思うんです。特に、こちらの施主のKさんは、モノ選びにもセンスがあって、収納そのものを楽しめる人。だからこそ今回の、収納を空間に生かしていくリノベーションは、とても有意義なものになりました」。
藤木さんの収納セオリーと、Kさんのセンスがマッチして完成したリノベーション。それは、空間づくりの達人と、暮らしを整える達人との見事なコラボレーションでした。