東京都内を中心に、新築・リノベーションでキッチンつきのアパートメントホテルを続々とオープン。設計から運営までを手がける注目の建築家に聞いた、ホテルにおける収納活用術とは……。
進藤強さん
「BE-FUN DESIGN」代表
賃貸集合住宅のノウハウを活かして生まれたホテルブランド
代々木公園そばにある、線路沿いのユニークな建物。建築家進藤強さんはここを住居としてリノベーションした後、しばらくオフィスとして使用していましたが、現在は1階の一部にミーティングスペースとコーヒースタンドとを、上階はアパートメントホテルとしてリノベーションしました。
賃貸集合住宅の設計を多く手がけてきた進藤さんは、そのノウハウを活かして2016年からホテル事業をスタートさせました。ホテルのブランドネームは、「SMI:RE STAY HOTELS(スマイル・ステイ・ホテルズ)」。“住まうように旅する”をテーマに、長期滞在に向いたキッチンつきのアパートメントホテルです。シンプルで美しいデザインと多彩な部屋構成に加え、リーズナブルな料金設定が評判で、海外ゲストにも大人気。東京・京都・沖縄に10つのホテルがあり(計画中含む)、そのうち都内で3つ新規ホテルのオープン準備が進められています。
駅から遠くても選ばれるホテルの魅力
進藤さんがホテル事業として初めに手がけたのが、板橋区常盤台にある「HOTEL SMI:LE STAY TOKYO」。ホテルの立地としては珍しいエリアで、かつ駅から徒歩10分以上かかります。「立地八割・駅3分」といわれるホテル業界、あえてこの場所につくった理由とは…?
「土地を買って、設計をして、ホテルサービスの内容も、全部自分で考えたかったんです。これを東京都内で叶えようと思ったら、この場所になったという感じなのですが、“デザインとサービスが優秀で、コスパも良かったら、どんなに立地条件の悪いホテルでも流行る”という確信がありました」(進藤さん、以下同)。
今は多くのユーザーがホテルのブッキングサイトを使って、写真と料金メインに部屋選びする時代。狙い通り、海外ゲストからの予約数はどんどん伸びていきました。
「これは後から気づいたことなんですが、板橋だからこそ、リアルな日本の暮らしが楽しめるんですよね。観光地じゃないから、周辺では英語もほとんど通じない。ドキドキしながら店に入ってみる。地元のスーパーで食材を買ってきて料理をする。そんな異国情緒がウケるんだと思います。ホテルのフロントは英語OKで、コンシェルジュも兼ねているので、安心して頼れるステーションにもなっています」。
「暮らしやすさ」を考えたホテルの収納づくり
常盤台のホテルは、エコノミーからデラックスまで、4タイプの部屋が用意されていますが、どの部屋も2人以上のグループ宿泊に向けて設計されています。エコノミータイプでも、3人まで宿泊が可能。その秘密は、縦を利用した空間構造でした。ロフトや梯子を使って、スペースを有効活用し、ベッド数を増やしながらリビングスペースを確保しているのです。
「東京の賃貸物件は多くがスモールスペース。いかにその限られたスペースを活かすか……これも大きな意味で収納術ですよね。集合住宅の設計で培った空間の活かし方を、このホテルでも応用しています。ロフトのベッドや、コンパクトなキッチンなど、ミニマルな収納スタイルが、海外のゲストには『日本らしい』と受け入れられる。特に梯子を上ったり、小さな入口から出入りする寝室は、隠れ家みたいでワクワクするようです」。
ゲストの声をフィードバックして、設計&リノベーション
常盤台のホテルを訪れるゲストは、フロントにある大型の壁面収納に目を奪われます。大小のグリッドを配したシェルフは、全国のカップ酒をディスプレイしようと考案されました。
「以前はフロントと客室だけだったんですが、最近客室を1つ潰して、飲食スペースへとリノベーションしました。クラフトビールが楽しめる、宿泊者専用のバーコーナーです。壁面収納にディスプレイしているお酒も、購入することができます。このリノベーションは、客室を減らしてでもサービスを向上させたいという思いから。こうしたホテル事業は、ユーザーの声を直接聞けるいい機会でもあるんです。泊まり心地はどうだったか、率直なコメントが毎日ネットに上がります。こうした意見は、設計にすべてフィードバックしています。今後も、より使いやすく快適なホテルをつくっていきたいですね」。
2020年の東京オリンピックを目前に控え、ますます人気が集まりそうなスマイル・ステイ・ホテルズ。収納テクニックを駆使したホテルづくりの達人から、今後も目が離せません。
代々木公園のミーティングスペースは、夜は日替わりのバーに変身。進藤さんから生まれるユニークなアイディアは、街を生き生きと輝かせるようです。
HOTEL SMI:RE STAY TOKYO
住所:東京都板橋区東山町36-4
電話:03-6206-4206
料金:1泊10,000円〜
https://stay.smi-re.jp/tokyo/jp/
SMI:RE STAY YOYOGI PARK
住所:東京都渋谷区代々木5-65-4
電話:なし
料金:1泊30,000円〜
http://hotels.smi-re.jp/yoyogipark.html