東京都内を中心に、新築・リノベーションでキッチンつきのアパートメントホテルを続々とオープン。設計から運営までを手がける注目の建築家に聞いた、ホテルにおける収納活用術とは……。

HOUSTO 編集部

HOUSTO 編集部

HOUSTO公式アカウントです。当サイト独自の目線で、毎日の暮らしがちょっと豊かになる情報を定期的にお届け中です!

https://www.instagram.com/ouchinoshunou/

進藤強さん

「BE-FUN DESIGN」代表

賃貸集合住宅のノウハウを活かして生まれたホテルブランド

代々木公園そばにある、線路沿いのユニークな建物。建築家進藤強さんはここを住居としてリノベーションした後、しばらくオフィスとして使用していましたが、現在は1階の一部にミーティングスペースとコーヒースタンドとを、上階はアパートメントホテルとしてリノベーションしました。

賃貸集合住宅の設計を多く手がけてきた進藤さんは、そのノウハウを活かして2016年からホテル事業をスタートさせました。ホテルのブランドネームは、「SMI:RE STAY HOTELS(スマイル・ステイ・ホテルズ)」。“住まうように旅する”をテーマに、長期滞在に向いたキッチンつきのアパートメントホテルです。シンプルで美しいデザインと多彩な部屋構成に加え、リーズナブルな料金設定が評判で、海外ゲストにも大人気。東京・京都・沖縄に10つのホテルがあり(計画中含む)、そのうち都内で3つ新規ホテルのオープン準備が進められています。

最大6人まで泊まれる部屋タイプ。窓からの採光も良く、居心地のいい雰囲気です。ベッドやソファ下にはリネン類が収納されています。「SMI:RE STAY YOYOGIPARK」

白とステンレスを基調とした壁づけキッチンには洗濯機も組み込まれ、スッキリとしたレイアウトです。「SMI:RE STAY YOYOGIPARK」

駅から遠くても選ばれるホテルの魅力

進藤さんがホテル事業として初めに手がけたのが、板橋区常盤台にある「HOTEL SMI:LE STAY TOKYO」。ホテルの立地としては珍しいエリアで、かつ駅から徒歩10分以上かかります。「立地八割・駅3分」といわれるホテル業界、あえてこの場所につくった理由とは…?

「土地を買って、設計をして、ホテルサービスの内容も、全部自分で考えたかったんです。これを東京都内で叶えようと思ったら、この場所になったという感じなのですが、“デザインとサービスが優秀で、コスパも良かったら、どんなに立地条件の悪いホテルでも流行る”という確信がありました」(進藤さん、以下同)。

今は多くのユーザーがホテルのブッキングサイトを使って、写真と料金メインに部屋選びする時代。狙い通り、海外ゲストからの予約数はどんどん伸びていきました。

「これは後から気づいたことなんですが、板橋だからこそ、リアルな日本の暮らしが楽しめるんですよね。観光地じゃないから、周辺では英語もほとんど通じない。ドキドキしながら店に入ってみる。地元のスーパーで食材を買ってきて料理をする。そんな異国情緒がウケるんだと思います。ホテルのフロントは英語OKで、コンシェルジュも兼ねているので、安心して頼れるステーションにもなっています」。

スーペリアスタジオは玄関をあけるとサニタリー、階段を上るとリビングという造り。ロフトの上は広々としたダブルベッドになっています。「HOTEL SMI:RE STAY TOKYO」

スーペリアスタジオのロフトベッド。手前に設けたスペースは、ちょっとした荷物置きとして利用できます。「HOTEL SMI:RE STAY TOKYO」

「暮らしやすさ」を考えたホテルの収納づくり

常盤台のホテルは、エコノミーからデラックスまで、4タイプの部屋が用意されていますが、どの部屋も2人以上のグループ宿泊に向けて設計されています。エコノミータイプでも、3人まで宿泊が可能。その秘密は、縦を利用した空間構造でした。ロフトや梯子を使って、スペースを有効活用し、ベッド数を増やしながらリビングスペースを確保しているのです。

「東京の賃貸物件は多くがスモールスペース。いかにその限られたスペースを活かすか……これも大きな意味で収納術ですよね。集合住宅の設計で培った空間の活かし方を、このホテルでも応用しています。ロフトのベッドや、コンパクトなキッチンなど、ミニマルな収納スタイルが、海外のゲストには『日本らしい』と受け入れられる。特に梯子を上ったり、小さな入口から出入りする寝室は、隠れ家みたいでワクワクするようです」。

エコノミータイプの客室。19㎡とコンパクトですが、天井が高いので圧迫感はありません。「HOTEL SMI:RE STAY TOKYO」

梯子を上ると、そこには隠れ家のような寝室が。「HOTEL SMI:RE STAY TOKYO」

使い勝手が一目でわかるようにシンプルな「見せる収納」で造作された簡易キッチン。調理器具や食器なども一通り揃っています。「HOTEL SMI:RE STAY TOKYO」

ゲストの声をフィードバックして、設計&リノベーション

常盤台のホテルを訪れるゲストは、フロントにある大型の壁面収納に目を奪われます。大小のグリッドを配したシェルフは、全国のカップ酒をディスプレイしようと考案されました。

「以前はフロントと客室だけだったんですが、最近客室を1つ潰して、飲食スペースへとリノベーションしました。クラフトビールが楽しめる、宿泊者専用のバーコーナーです。壁面収納にディスプレイしているお酒も、購入することができます。このリノベーションは、客室を減らしてでもサービスを向上させたいという思いから。こうしたホテル事業は、ユーザーの声を直接聞けるいい機会でもあるんです。泊まり心地はどうだったか、率直なコメントが毎日ネットに上がります。こうした意見は、設計にすべてフィードバックしています。今後も、より使いやすく快適なホテルをつくっていきたいですね」。

2020年の東京オリンピックを目前に控え、ますます人気が集まりそうなスマイル・ステイ・ホテルズ。収納テクニックを駆使したホテルづくりの達人から、今後も目が離せません。

フロントの壁は、吹き抜けの天井まで続く壁面収納。カップ酒やワインボトルなどをディスプレイし、宿泊者に販売もしています。「HOTEL SMI:RE STAY TOKYO」

代々木公園のミーティングスペースは、夜は日替わりのバーに変身。進藤さんから生まれるユニークなアイディアは、街を生き生きと輝かせるようです。

HOTEL SMI:RE STAY TOKYO
住所:東京都板橋区東山町36-4
電話:03-6206-4206
料金:1泊10,000円〜
https://stay.smi-re.jp/tokyo/jp/

SMI:RE STAY YOYOGI PARK
住所:東京都渋谷区代々木5-65-4
電話:なし
料金:1泊30,000円〜
http://hotels.smi-re.jp/yoyogipark.html