家族3人暮らしに向けて、2DKだった古い賃貸物件を、仕切りのないワンルームへ。空間をフレキシブルに変化させられる、アイディアいっぱいのリノベーション事例を取材しました。
佐屋香織さん
「PEAK STUDIO」共同代表
使い方いろいろ! 1mグリッドのフレーム天井
一級建築士事務所の共同代表として第一線で活躍する一方、大学で非常勤講師も務めるパワフルな女性建築家の佐屋香織さん。子育て世代の友人のためにリノベーションを手がけた、都内近郊の賃貸マンションへ案内してくれました。
マンションは築26年(2016年当時)。当時は一般的だった2DK・45㎡の賃貸物件を、スケルトンリノベーション(一度骨組みの状態に戻して行うリフォーム)で大胆なワンルームに変更しました。住人のFさんは、2歳になるお子さんを含む3人家族。「なるべくリーズナブルに、子育てが広々と楽しめる空間にしたい」という要望を受け、水回りにはほとんど手をつけず、視界の開けたLDKに生活のすべてを凝縮。プライベートと収納の問題は、天井に1mグリッドのフレームを張り巡らせるという斬新なプランで解決することにしました。
「お子さんの成長に伴って、家族の生活スタイルも変化していきます。そのため、暮らす人自身が手軽にレイアウトを変えていけるような工夫を考えました。天井から吊るし、柱でも支えることで強度を高めたフレームはアルミ製。どこにでも何かを引っかけたり吊るしたりすることができるので、間仕切り・照明・ディスプレイ・収納など、使い道も多彩。結果的に、想定していた以上に“使える”構造になりました」(佐屋さん、以下同)。
まるで室内キャンプ! フレームにテント生地を吊るしてプライベート空間を確保
夜にはワンルームの中心スペースで眠っているというFさん家族。カーテンをフレームに沿って閉めれば、あっという間にコンパクトな寝室のできあがりです。
「小さいお子さんが落ち着いて眠れるよう、しっかり籠れる空間を用意したいと思いました。カーテンは特注で、アウトドア用のテント生地でできています。保温性も高く、居心地がいいですよ。Fさんは、白いカーテンにミニプラネタリウムを照らして、お子さんを楽しませているそうです。カーテンはプロジェクターのスクリーンとしても活用できます」。
造作の収納ボックスを、ゆるやかな間仕切りに
仕切りの壁構造がないワンルームのなかで、唯一の間仕切りが、造作の収納ボックス。土間玄関とLDKとをゆるやかに仕切るこの家具は、光と風が上部を通り抜ける、ちょうど良い高さに設定されています。玄関側はシューズボックス。リビング側は押し入れと、両面使える奥行きのある仕様です。
「おもしろいのは、子どもが押し入れを開け閉めして指を挟まないように、Fさんが仕掛けたドアストッパーのアイディア。天井のフレームに紐で固定してあるんです。見た目もかわいいし、なるほど!とつい膝を叩きました」。
暮らす人が使いこなせる、収納の土台づくり
ダイニングキッチンは、もともとFさんが持っていた「無印良品」のシェルフをカウンター代わりにし、小さな造作テーブルが置かれています。 ムダなものはなく、状況に合わせてレイアウトが自在に変えられる、フレキシブルな空間です。
「このリノベーションをするにあたって、施主のFさんとは何度も話し合った上で、かなり断捨離をしてもらいました。オープンのワンルームなので、最小限の収納は天井のフレームを駆使して、足下はとにかくスッキリと。Fさん夫妻も、モノを増やしすぎない意識をするようになったそうです。ここで私がつくったのは、しっかりとした収納スペースではなく、暮らす人がその都度使いこなしていける収納の土台。新しいアイディアで暮らしを楽しんでいただけている様子を見ると、とても嬉しいですね」。
設えすぎず、可変性のある収納プランのおかげで、リノベーション総工費は、なんと200万円。収納の土台をつくる達人×暮らす人の工夫から生まれた、遊び心いっぱいのユニークな住まいでした。