男の子3人を含む5人家族の生活動線を徹底研究し、完璧な収納プランを整えた一戸建てを取材しました。そこは、まるでリゾートホテルのようにラグジュアリーで快適な空間でした。
萱沼宏記さん
「プラスデザイン1級建築士事務所」代表
主婦の「一日のスケジュール」を考えた収納計画
埼玉県北部ののどかな街、深谷市。ネギやブロッコリーの畑が広がる田園風景のなかに、2年前に建てられたH邸。1、2階を合わせた延床面積はなんと236.61㎡という何とも贅沢な邸宅です。ガレージも建物に取り込んだ1階には、広々としたリビング・ダイニングキッチンが。吹き抜けの大開口から周辺の景色が眺められる2階は、家族のプライベートスペースが配されています。明るく開放的な空間は、リラックスムード満点。まるで海外のリゾートホテルのようです。
育ち盛りの男の子3人を育てるオーナーのHさん夫妻と、設計者の萱沼さんとは年齢が近かったこともあり、すぐに意気投合。ヒアリングを重ねるうちに信頼関係も強くなり、「家のことすべてを丸裸になるくらいお話して、収納については完全に萱沼さんにお任せしました」とHさんは笑います。
「私自身も2児の父親です。下の娘が生まれる前に、悪阻が重かった妻が長期帰省したことがあり、幼かった上の息子と2人暮らしをしたんですよ。一時ではありましたが、“主夫体験”をしたことで、子育てと家事を1人で引き受けている世の中のお母さんたちの大変さが身に染みました。この体験も手伝って、設計には生活動線をさらに重視するようになったのです。皆さんには一日のスケジュールをヒアリングして、どう動くことが効率がいいのか、どこに何をしまえばラクになるのかを考えます。このH邸は、3人男子の子育てを頑張る奥様の目線に立って、収納計画はかなり練り上げました」(萱沼さん、以下同)。
1階に収納と家事スペースを集約するアイディア
玄関の隣にはバスルームが。その向かいに8.4畳のファミリークローゼットがあります。両壁面に扉つきのワードローブを設え、中央には引き出し収納ボックスを配置して、デッドスペースを排除。ここは、奥様と子どもたち専用で、それぞれスペースが割り当てられ、畳んだ洗濯物は各自でしまうのがH家のルールだそう。
「泥だらけの子どもたちが帰宅したら、すぐにお風呂に入れたいですよね。玄関近くにお風呂を配置したのは、そのためです。脱いだ洋服はすぐに洗濯ができて、その場で干せるハンガーパイプも天井につけました。乾いたらすぐに畳んで、目の前のファミリークローゼットへしまえるという動線です」。
1階で畳んだ洗濯物を、毎日2階にあるそれぞれの子ども部屋へと運ぶのは大変。1階にあるファミリークローゼットなら、2階へ行く手間も省け、整理整頓もムダなく行えます。また、両手で荷物を運ぶことを想定して、周辺はすべて人感センサーに。主婦のストレスを軽減させるテクニックが随所に盛り込まれているのです。
リビング学習も見据えた、ワザありキッチン収納
この家の主役は、家族みんなが集まる食卓。キッチン3m 、ダイニングテーブル3m で造作されたダイニングキッチンは圧巻です。壁づけの収納棚とカウンターは、見せる収納・見せない収納のバランスがとられ、モデルルームのように美しく整えられています。
「お料理好きで、来客も多いお家です。家族の明るいキャラクターに合わせて、ダインニングキッチンをデザインしました。また、リビング学習のための収納スペースが欲しいという要望もあったので、収納棚の一部を本棚として使えるようにしてあります」。
居心地のいいダイニングに、子どもたちも大満足。リビング学習計画も功を奏し、毎日ダイニングで宿題をする習慣がついたそう。就寝時以外は家族全員がほとんど1階で過ごしているといいます。
仲良し家族が、より絆を深めた新しい家
家族それぞれの生活動線を見極めて、適した場所に収納をつくり、個々のプライベートスペースもきちんと確保する。こうした萱沼さんの収納プランは、家族間のコミュニケーションをよりスムーズにしてくれます。
「私に依頼してくださるお客様は、生活感を感じさせない、すっきりとしたインテリアを好まれる方が多いですね。シンプルなデザイン設計には、やはり収納計画が重要です。ご家族それぞれのスケジュールから、生活スタイル・趣味・どれくらいモノを持っているか。そして、新しい家ではどんな暮らしを実現したいと考えているか…。ヒアリングを重ねるうちに、ご家族に適した収納の量とカタチが見えてきます。竣工後、点検も含めて何度か訪問することがあるのですが、Hさんのように収納を使いこなし、生活を楽しまれている様子を見せていただくのは、とても嬉しいですね」。
生活スタイルをとことんリサーチし、動線のよさを追求する萱沼さんの建築スタイル。シンプルモダンな美しいデザインを支えているのは、しっかりと暮らしに寄り添った収納計画でした。