車通りの多い街道と、高さのある小道に挟まれている土地に建てられた、新築の注文住宅。難しい条件を逆手に取った設計プランで、収納に工夫を凝らしたアイデア住宅を取材しました。
玉上貴人さん
「一級建築士事務所タカトタマガミデザイン」代表
住宅に向かない土地だからこそ生まれた、ユニークな建築デザイン
商業施設、住宅などの建築設計から、インテリアや家具のデザインまで幅広く手がける、建築家の玉上貴人さん。ムダを削ぎ落としたシンプルで機能的なデザインを得意とし、その独自の世界観は多くのファンを惹きつけています。
今回ご紹介するのは、今年3月末に竣工したばかりの個人住宅。玉上さんの建築作品に惚れ込んで依頼をしたという若い夫婦が、福島県郡山市に建てた一戸建てです。郡山駅から車で10分ほどの市街地に佇み、敷地面積は26坪・建坪24坪というコンパクトな造り。高低レベル差のある2つの道路に挟まれた車通りの多い立地で、本来は住宅に向かない場所だったといいます。
「土地選びから関わった案件です。駅から歩けて、公園も近い。でも、立地が変わっていて、一般的なハウスメーカーなら敬遠するような変わった土地。だからこそ、僕はかえって面白い建物ができるんじゃないかな、と思いました」(玉上さん、以下同)。
採用したのは、都会の狭小地で住宅をつくるセオリー。外側からの視線を遮ってプライバシーを守り、内側は明るく開放感のある設計プランです。機能的で容量のある収納を設えて、インテリアもモノトーンで統一。全体的に生活感を消して、まるでギャラリーのように美しい住宅を完成させました。
床のレベル差を活かした収納アイデア
高さの異なる道路に挟まれているので、玄関も2方向から出入りできるユニークな構造。低い玄関口から入って小階段を上り、高い玄関口の踊り場へ。リビング・ダイニングキッチンには、そこから階段を上がるアプローチです。サニタリーは、2階に設けられた小階段の上に。こうして床にレベル差をつけることで生まれた隙間に、それぞれ収納が割り当てられています。
「一般的には、南側にリビングを据えるところですが、このお宅は南側がレベルの高い道路に面していました。そこで、水回りと収納を南側に集め、段差を逆手に取って、生まれた余剰空間を収納にしていくという方法をとりました。リビング・ダイニングは、北側にインナーテラスを設けることで採光を確保しています。白い壁が光を反射させますから、明るさも十分です」。
まるでリゾートホテル! 「生活感を消す達人」の綿密な収納計画
シャープで美しい建築美を展開する玉上さんは、いわば「生活感を消す達人」。暮らす人の持ち物の量から生活動線までをしっかり見極め、収納アイデアを駆使した設計を施すことで、整然とした美的空間を生み出します。
「なるべく生活感を消してリゾートホテルのような雰囲気で暮らしたいという要望があったので、視覚的なノイズを生み出す家電は全部しまえるようにしました。キッチンに造った天井まで届く収納扉は、空間の広さを演出する効果も狙っています」。
収納扉の内側にある美しさ
玉上さんが目指すのは、「収納然としない収納づくり」。スペースを造って扉をつけるだけでは、モノをすべて押し込めた「開かずの間」になってしまう危険がある。表面だけ隠すのではなく、収納の内側にも整然とした美しさを求めれば、より生活は整うはず、と指摘します。
「何をどう収納するかという事前の計画はもちろん、収納された状態の美しさを愛でることが大切なのかな、と。使いやすい場所にきちんと置けば、見た目も良くなる。また片付けたいというモチーベーションにもつながると思います」。
ギャラリーのように白く美しい家。それは表面だけを整えたデザイン住宅ではなく、収納の内側にも美意識を張り巡らせた、パーフェクトな収納住宅でもありました。