愛犬と共に暮らす家族が建て替えた、モダンな注文住宅を取材しました。生活動線とペットのために考案された収納テクニックはお見事。もとは日本家屋だったという実家のパーツを活かしたデザインは、まるでアートでした。
山本浩三さん
「PANDA(株)山本浩三建築設計事務所」代表
3人家族+2匹の愛犬。ペットを第一に考えた収納計画
暮らす人の気持ちに寄り添い、最適な生活動線を美しいデザインで実現。狭小住宅から集合住宅まで、多彩な家づくりを手がける建築家の山本浩三さん。 そんな山本さんに「実家の建て替え」を依頼したのは、品川区の住宅街で、築40年以上の日本家屋に暮らしていたYさん一家です。職人だったという先代が建てた、純和風の家。家族三代に渡るたくさんの思い出が詰まっていましたが、間取りは細かく、動線・採光ともに悪かったために、思い切って建て替えを決意しました。
新しい家は、落ち着いたグレーを基調にした、アーバンモダンなシンプル住宅。細長い敷地のなかで効率的に採光を確保するため、建物は中庭を擁したコの字型に。1階にLDK、2階に家族それぞれの居室を集め、共用ゾーンとプライベートゾーンとを階層で分けた構造になっています。
「Yさんは、ご夫婦と社会人の娘さんという、大人の3人家族。各自のスペースを持ちながら、家族の共用ゾーンでは愛犬たちとの時間を楽しむというライフスタイルです。収納計画については、生活動線に加え、ペットとの暮らしを機能的にするという視点から考えていきました」(山本さん、以下同)。
床材は滑りにくく掃除のしやすいタイルを採用し、ペットもストレスなく過ごせる仕様。そして、ケージやトイレシートなど、煩雑になりがちなペット用品もすっきりと収められるように、収納のサイズ設定にはこだわったといいます。
衣類を「どんどん脱ぎ捨てていける」動線を考えた収納
山本さんの収納設計は、動線が命。外から帰ってきたら、玄関から家族のパブリックスペースであるリビングを通り、2階のプライベートスペースへ。その間に、どんどん服を脱いで、身軽になっていけるという動線を考えています。
「Y邸では、1階の玄関で上着と靴を脱ぎ、ダイニングで生活用品を整理する。2階では着替えたり、お風呂に入るなど、プライベート空間で完全に身軽になれるという動線をつくりました。玄関はもちろん、ダイニングにも大きめの収納を用意。立って行動するダイニングは、キッチンまわりのモノはもちろん、書類や小物、常備薬など日常使いするさまざまなモノが溢れる場所ですから。人は、立って行動する場所に収納が必要になるんです。その分、座ってくつろぐ場所であるリビングには、造りつけの収納はあまりつくりません。好きな家具を選んで、インテリアを楽しむ余白も設けたいと考えました」。
家事のしやすさを追求した収納テクニック
「新しい家では、モノの少ないシンプルな暮らしがしたい」と考えていたというYさん。建て替えにあたっては、かなりのモノを処分したそうです。おかげで、用意された収納空間にはまだ余裕があるほど、スッキリ。
「かなり頑張ってモノを減らしてくださいましたね。必要なモノが適した場所にあることで、いつでもクリーンな状態がキープできると思います。キッチンやサニタリー周りといった家事スペースは、清潔感のある白でまとめ、収納は自由にレイアウトできるように用意しましたが、Yさんはとても上手に使いこなしています」。
大切な家の記憶を留める、壁面デザインや面材の工夫
さまざまなパターンの格子を組み合わせた、現代アート風の意匠。Yさん邸のデザイン的なアイコンは、リビングの壁にあります。一見アイアンなどハードな素材のようですが、実はこれ、純和風だった元の実家で使われていた木の建具。山本さんは、襖や欄間などの格子を組み合わせて塗装を施し、モダンな家のインテリアへと生まれ変わらせたのです。
「長く暮らした実家への思い入れは、誰にでもあるものですよね。Yさんからの希望もあり、パーツの一部を再利用することで、先代が建てた家へのリスペクトを表現。モダンなリビングに違和感が出ないように経年的なものは消し、形状だけを活かしてデザインしました」。
ほかにも、古材を小上がりの面材に利用するなど、ところどころに昔の面影を留めた山本さん。Yさんにも、新築ながら安心して暮らすことができると喜ばれているそうです。
機能性の高い、シンプルモダンな注文住宅。家族の思い出を紡ぐ大切な家として、これからも新しい歴史が刻まれていくことでしょう。