周囲の環境が気に入って購入した10坪の変形角地。建築面積7坪という条件にもかかわらず、ゆったり暮らせる快適住宅のための巧みな設計プランとは…?家事、仕事と子育て、さらに仕事と、すべてを家の中でスムーズにこなすための工夫が凝らされた一軒を取材しました。

HOUSTO 編集部

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島村香子さん

「一級建築士事務所 島村香子建築設計室」代表

「ここなら住みたい!」10坪の土地に建てた7坪の狭小住宅

東京都葛飾区。のんびりとした下町風情が残るエリアで、建築家・島村香子さんが見つけたのは、お寺の隣の小さな角地でした。面積は約10坪。一般の人ならば、そこに家を建てるという発想は浮かばないかもしれません。しかし、島村さんは、この土地を見たとたん、「(小さくても)ここなら住みたい!」とピンときたといいます。

「それまでは、賃貸マンション暮らしだったのですが、家族が増えることを踏まえ、マイホームを考えはじめました。とにかくお寺の隣という静かな環境が気に入って、土地を即決。狭さは、逆に長所になるんじゃないかなと。小ささにあえて挑戦してみたいという気持ちもありましたし、無理をして広い土地を買うよりも、身の丈に合ったものを建てたいと考えました。コスパよく、使い勝手もよい家をつくってみよう、と」(島村さん、以下同)。

1階は、車庫と島村さんの事務所。2階はダイニングと多目的スペース。3階に水回りと寝室、収納のためのロフトという構造で、延床面積は64㎡。車庫を除くと、57㎡。そこから事務所を除くと、生活空間は42㎡ほど。

「限られたスペースなので、全体的に回遊性を持たせて、各階ごとに目的を集約し、家事動線をスムーズにするというのが基本コンセプトです。また、子ども部屋は設けず、家族の状況の変化に合わせてフレキシブルに対応できる空間をつくっておくことにしました」。

1階から3階まで行き止まりなく、ぐるぐると巡れるように建てられた島村さんの家。下から順に紹介していきましょう。

1階は便利な土間玄関と壁面収納を活かした事務所

玄関扉を開けると、足下には土間スペースが広がり、目の前には、造作のオープンシェルフが。上部は奥側から雑誌類をきっちりと納め、その下には玄関側から靴を収納しています。箱の上にもう一つ靴をのせることでスペースを活用しつつ、事務所へのゆるやかな目隠しにもなっています。

シェルフから奥が、フローリングの事務所スペース。ワーキングカウンターとミーティングテーブルをうまく組み合わせ、コンパクトながら広々とした空間を実現させています。書類や模型など、収めるものを考えて造った壁面収納は、エアコンもきちんと入って見た目もスッキリ。階段下にも扉のない収納スペースを設けて、プリンタや掃除機などを整理しています。

シェルフで間仕切りを、足下は土間とフローリングでゾーニング。自転車も置ける土間玄関は便利です。

大容量収納ながら、天井に少し空間を設けて、圧迫感を感じさせない工夫も。

2階は小回りのよいダイニングキッチンと多目的スペース

各階にはトイレ以外扉をつくらず、建物の中央に位置する階段のまわりをぐるぐると巡れるように設計された島村邸。2階は、家族が集うダイニングキッチンと多目的スペースです。窓も多く抜け感があり、窮屈さはまったく感じられません。また、ほとんどの窓が周囲から視線を感じない位置に配してあるため、カーテンも必要ないとのこと。

このフロアの主役は、シンクを組み込み、作業台としても使える大きな造作のダイニングテーブル。家族だけでなく、友人たちを招いてわいわいと食事を楽しむことができます。

キッチン機能は、角の一カ所に集約しました。目指したのは、「ピボット状態で料理ができるレイアウト」。あちこち歩き回らなくても、ほしいものをさっと取り出したり、動かしたりできる配置が徹底されています。

目立ちやすい冷蔵庫とエアコンは同じ場所に配して、コーナーのキッチンと収納はシンプルにデザイン。市販の収納用品を活用して棚を整理しています。

お寺の借景が素晴らしいので、窓には抜けのある収納スペースを。よく使う調理器具やお気に入りの食器を選抜してディスプレイしています。

ダイニングから回遊できる多目的スペースは、将来的には子ども部屋として仕切ることも可能。現在は、リビング兼キッズスペースとして使用されています。

「子どもも、キッズスペースとダイニングを自由に行ったり来たり。扉がないので、同じフロアにいればいつもお互いの気配を感じていられます」

リビング、来客用の寝室、子どもの遊び場など、状況に合わせて使える多目的スペース。

階段横の造作キャビネットの中は右側にカップ・小皿類を収め、左側にはダイニングに散らかりがちな書類がいずれ収まるようにと、A4サイズがぎりぎり入る奥行きで設計されています。

3階は階段状収納でロフトへ上れる寝室と、真っ白なサニタリー

最上階は、寝室とロフト、サニタリー。ベッドサイドには季節の洋服が整理できるオープンなワードローブが。階段状のシェルフはロフトへ続いています。ロフトは奥行きがあり、手前に趣味のグッズを置き、その奥に衣替えの洋服などが整理されています。

「ワードローブは、スペースに限りもあるので、その季節に使うものだけを絞り込んで置くことを心がけています。階段状のシェルフは、階段+間仕切り+収納と、複数の用途を兼ねています」

可動棚を活用して造ったワードローブには、家族全員の洋服を整理。その上にはキャットウォークが設けられ、めったに使わない季節ものなどがソフトケースで収納されています。

お風呂・洗面・トイレを集約したホテルライクなサニタリーは、清潔感のある白で統一。洗濯機もここに収めています。洗濯物を干すのも3階。お風呂に入って洗濯機を回し、干したものを取り込んで同じ階に収める。働く主婦目線ならではの家事動線を盛り込み、こだわって造ったのがこのフロアです。

スペースを圧迫させないよう、収納は造りこみすぎず、可動式の収納ボックスを活用。

洗面の鏡を開けると現われるガラス壁面収納棚。採光と収納を両立させた好例。

「収納ベンチなど家具を組み合わせる・ディスプレイ・間仕切りや採光窓を兼ねる…など、複数の用途を持たせることで、スモールスペースでも収納力のある空間が生まれます。それらの収納を、生活の動線と合わせて配置することがポイントですね。さらに狭小住宅では、モノ選びも吟味する習慣がつきます。屋外に駐車スペースを設けたのですが、土地を購入する時点で検討を重ね、賃貸マンションのときに乗っていたものよりも小さな車に買い換えました。スペースに対してモノのサイズを合わせていくことも必要なこと。収まるかどうか、本当に必要かどうかを考えてから買い物をする。だからあまりモノが増えないんですよ」。

狭いからこそ、動きやすく整理する。小さいからこそ、ムダにモノは増やさない。狭小住宅でも広々と過ごせる秘訣は、暮らしに合った収納デザインと、住宅がもたらすシンプルな生活習慣にある…。島村さんは、そう教えてくれました。