“折り紙でおにぎりを握る”という奇抜なコンセプトから生まれたデザイン折り紙「オリニギリ」。発明したのは、ワールドワイドに活躍する建築家でした。拠点とする設計事務所には、ユニークな収納テクニックがいっぱい! 何ともアーティスティックな空間で、収納についての考え方を伺いました。
新田知生さん
「(株)向日葵設計 Himawari Design.,Ltd.」代表
セルフリノベーションしたアトリエは、まるで現代アートのギャラリーのよう
建築家・映像作家であり、グッドデザイン賞を受賞したデザイン折り紙「オリニギリ」の発案者としても知られる新田知生さんのアトリエを訪れました。そこは、世田谷線沿線ののどかな住宅街に並び建つ古いビルを繋ぎ合わせて増築したという、一風変わったスペース。アトリエ内はかなり奥行きがあることに驚かされます。天井にはカラフルなネットが張り巡らされ、照明と、ガラスのフラワーベースに入った植物がところどころから吊り下げられていました。
「ここはもともと、印刷工場でした。増築を重ねた不思議な造りになっていて、10年くらい放置されていたようなんですが、仕事場を探していたときに巡り合って、ああ、ここはおもしろい、と思ったんです。大家さんの了解も得て、自分たちで手を入れることにしました。壁を取り払い、電気工事もして、家具も木工でつくって…。前の借り主が置いていったオフセット印刷用のシートを床材として使ったり、かなり自由にさせてもらいましたね」(新田さん、以下同)。
天井のネットは、新田さんの実姉である繊維造形作家の新田恭子さんによる「網針(あばり)あみ」のアート作品。吊り下げた涼やかなハンギンググリーンは、はじめは雨漏り対策だったとか。構造を現しにした無骨な天井も、こうした工夫により、空間全体がインスタレーション・アートのように見えます。
1枚の板から造られたオリジナルシェルフは、エコでスタイリッシュな収納ツール
壁に沿ってシンプルなシェルフがずらりと並べられ、資料から備品の収納、表彰楯や小物などのディスプレイに活用されています。これが、このアトリエの主要な収納ツール。すべて新田さんが手づくりしたものです。
「模型を見ていただくとわかりやすいんですが、このシェルフは1枚の板をカットしてできています。三角形にカットした4枚が支柱となり、長方形にカットした4枚が棚板です。端材も出ませんし、構造の強度もあります」。
このシェルフのように、何でも“1枚”からつくり上げることが、新田さんが基本とするデザインコンセプト。家具のようなプロダクトデザインはもちろん、建築空間についても、新田さんは1枚の紙を用いて考えはじめます。
「最初から、試行錯誤する段階も含めて、1枚の紙さえあれば、デザインが工作に表れてきます。これも、ひとつの収納のスタイルと言えるかもしれません。その感覚を、子どもから大人まで、皆さんに伝えたい。このアトリエを使って、1枚から特注の家具をつくるワークショップをすることも構想しています」。
建築もおにぎりも1枚の紙から考える。注目のデザイン折り紙「オリニギリ」とは
新田さんが建築家としてだけでなく、アーティストとしても注目されるきっかけとなったのが、デザイン折り紙「オリニギリ」の発案でした。折り紙として遊べるだけでなく、実際にお米を入れてさまざまな形のおにぎりをつくることができるペーパープロダクトです。東北復興イベントのフードプロジェクトで配布したり、子どもたちとのワークショップを続けることで徐々に広まっていった「オリニギリ」は、2016年にグッドデザイン賞を受賞。現在は「LOFT」やウェブサイトで販売されています。
「オリニギリは、国際コンペのために中国の複合施設を考えているとき、偶然生まれたものでした。紙をあちこち折り曲げていたら、おにぎりのような形が現れて、ここにご飯を入れたらおにぎりになるんじゃないか?と。やってみたら、おもしろいほどさまざまな形のおにぎりができて。すべては、1枚の紙から始まったんです。今では、海外からも興味を持っていただいて、この秋には中国へ建築とオリニギリについての講演に赴く予定です」。
日本人が大切にしてきた食材と、伝承遊びとを組み合わせた「オリニギリ」で、日本の素晴らしさを再発見してもらえたら…と新田さんは話します。
建築+DIY収納で、より愛着がわく空間をつくりたい
大規模な空間設計を手がけることが多い新田さんですが、公共施設も個人住宅も、設計ロジックには共通点があるといいます。
「設計者が決めてしまうだけでなく、“使う人自身が手を入れる”ことが、その場所を大切にするキーワード。公共施設であれば、さまざまな人の行為によって空間が浮かび上がるようにしたい。たとえば、最近手がけた静岡県浜松市の文化センターでは、ワークショップ形式で収納ボックスをみんなにつくってもらおうというプロジェクトを考えました。竣工後も何かしら関わることができれば、誰もがその場所に愛着を持って、大切にできると思うんですね」。
10年経ってはじめて、愛される建築かどうかがわかってくる、と新田さん。高価な工法・素材でつくられた建物も、粗雑に扱ってしまえばすぐに壊されることもある。一方、ローコストでつくられた建物でも、長年手をかければ、経年変化の美しい建物になることがあるといいます。
「個人住宅であれば、最後に手づくりを加えることに意味があると思います。家具や収納部分をDIYで行うこと。簡単な工法やデザインを考え、一緒につくれば、愛する対象が生まれます」。
「オリニギリ」を生んだ建築家が大切にするのは、DIYの精神。オリジナル収納と個性的なディスプレイに囲まれたアトリエは、尽きないアイデアの発信地でした。