家の中心に庭を擁するコートハウス形式で建てられた、ユニークな二世帯住宅。回遊性の高い室内には、しまうものに合わせて完璧に整えられたキッチン収納や、趣味をとことん満喫できる屋根裏収納など、使いやすい造作収納がありとあらゆるところに設えられていました。

HOUSTO 編集部

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杉浦充さん

「JYU ARCHITECT 充総合計画一級建築士事務所」代表

ピクニック気分も楽しめる中庭の周りをぐるぐると回遊! 光と風が通る二世帯住宅

狭小地・傾斜地などの難しい土地条件にも、柔軟な発想で居心地のよい住宅を造ることで定評のある、建築家の杉浦充さん。個人住宅だけでも100軒以上の実績があるそうです。そのなかでも、特に収納に力を入れたという一軒へと案内してくれました。

多摩地域の住宅街に佇むS邸は、制震構造を持つ完全分離型の二世帯住宅。上下階合わせて200㎡以上の述床面積があります。構造は室内に中庭を設けたコートハウス形式で、光と風通しのよい空間を実現しています。

今回取材したのは、子世帯が暮らす2階部分。中庭では、3歳の娘さんがテントを開いてピクニックごっこの真っ最中でした。

「コートハウス形式は、表からはほとんど室内が見えませんが、中に入ると明るくて通風も十分。回遊性の高い室内は用途ごとに床レベルに差をつけ、空間に変化を持たせているので、狭さも感じないと思います。プライバシーも確保しながら、のびのびと過ごすことができるんですよ」(杉浦さん、以下同)。

リビングから中庭を通して廊下を見たところ。風通しのよさを活かすべく、廊下には室内干し用のハンガーパイプが設えてあります。

玄関から2階へ上がる途中に設けられた和室はゲストルームとして活用されています。三角形に切り取られた赤色のニッチ棚が印象的。

余計な家具は不要! 機能性の高い壁面収納を張り巡らした圧巻の造作キッチン

ステンレスの台形アイランドが目を引くS邸のキッチンは、ダイニングテーブルも含めてすべてが造作されたオーダーメイド。壁面に沿ってカウンター下収納を張り巡らし、視覚的にノイズになりがちなキッチン家電もすべてこの中に収まっています。

「Sさんからは『生活感があるものは全部隠したい』というオーダーがありました。でも、単に隠すだけでは芸がない。いかに取り出しやすく、機能的であるかという点にこだわって、収納も造り込んでいきました」。

トースターや炊飯器の熱・湯気を逃がせるように、引き出しやキャスターつきのボックスを造作。ゴミは外に出せるようにと、カウンターの下に鍵つきの扉まで設えてあるのは驚きでした。

カウンター収納の内部を引き出したところです。壁面に組み込んだオーブンの下には、引き出して使えるトースターコーナーを。炊飯器や重い食器などはキャスターつきのボックスごと移動させることができます。中央に見えているのが、表に繋がっているゴミ専用の扉です。

リビング側から眺めたところ。室内の構造に沿って造られたキッチンは、ムダなものがなく、スッキリ。一部ブルーに塗られた収納扉もスタイリッシュです。

屋根裏は、お籠もりできる漫画専用の収納庫! 階段下収納にもひと工夫

キッチンにある小さな階段を上ると、そこに表れたのは、漫画ルーム! 漫画が大好きというSさんご夫妻のために、屋根裏の壁面には漫画専用の書棚を設け、くつろげる畳敷きに仕上げてありました。

「エアコンもあるので、快適に過ごせると思います。あぐらをかいたり、ゴロンと横になりながら漫画を読みふける専用ルームが自宅にあるのは、贅沢ですよね」。

この屋根裏に続く階段下の三角スペースにも、収納が設けてありました。デッドスペースなく整えられた空間は、LDKで散らかりがちな小物や、生活感のある掃除道具などをコンパクトにしまうことができます。

階段は子どもが上がって行かないように、突っ張り棒で遮ってありました。好みの布を使って応用したいアイデアです。収納の白い扉は、子どもが簡単に開くことができないようにと簡易フックでクローズ。

引き出しの中には、薬や工具など、家庭の必需品がきれいに整理されていました。その脇には、掃除機をはじめ掃除道具が。適材適所の好例です。

暮らす人たちの趣味・嗜好、生活パターンに合わせて収納を造りたい

寝室に設けられたウォークインクローゼットの壁面には、フックを利用して帽子がずらり! この見た目も楽しいディスプレイ式の収納アイデアも、杉浦さんによるものです。

「私は、暮らす人の趣味・嗜好を活かし、生活パターンをよりスムーズにする、それこそが家の収納だと考えています。この帽子フックのアイデアも、そんな発想から生まれました。Sさんの奥様はとてもお洒落で、特に帽子がお好きなんですよね。打ち合わせでそんなお話も伺って、クローゼットの中にはぜひ取り入れようと考えました」。

収納は、生活を助けるもの。モノを隠すのではなく、最適な場所に置くことで、より使いやすくするのが収納の基本だと杉浦さんは言います。

「家の収納を整えたことで、いっさい家事をしなかったご主人が、コーヒーのドリップをしてくれるようになった…というオーナーからの声もあって、収納設計の大切さを実感しています。最近は、掃除機ロボットの基地を組み込んで設計をすることも多いですね。生活がしやすい収納があることで、家族はよりハッピーになれるんじゃないでしょうか」。

収納にこだわって家の中をきれいに使う家族ほど、関係が良好だと思う、と杉浦さん。今回取材をしたSさん家族も、笑顔が絶えないハッピーファミリー。杉浦さんの言葉には、説得力がありました。

家族が増えたら区切ることもできるようにと設計された多目的ルーム。あえて収納は造り込まず、可変性のある空間を残しています。

壁面には低めのカウンター下収納を設えたリビング。収納扉には取っ手をつけず、出っ張りなく仕上げているのも杉浦さんのこだわりです。