新しいのに、どこか懐かしい…。木の質感を愛する建築家が実験的にリノベーションをした自邸のマンションを取材しました。イメージは、「昭和の住宅」。肩肘張らずくつろいだ気持ちにさせる、温かなインテリアが印象的です。そこには、使い勝手と見た目の美しさを兼ね備えたオリジナルデザインの造作収納が随所に設えてありました。
石黒隆康さん
「BUILTLOGIC」代表
障子、畳、ラワン材。昭和の和洋折衷住宅をイメージした個性的なリノベーション
建築家の石黒隆康さんは、木造住宅のスペシャリスト。素材はもちろん、デザインとしても木を活かした一戸建て・リノベーションを、これまで数多く手がけてきました。
そんな石黒さんが奥様と2人で暮らしているのは、都内で2年前に購入した築35年の中古マンション(57㎡)。もともとリフォーム済みの2LDKでしたが、フルリノベーションを行い、現在は1LDK+クローゼット+書斎という間取りです。
「自分の家なので、実験的にやりたいことをやってみよう、と考えました。完全に和のテイストでまとめるというよりは、昭和の住宅を思わせるような和洋折衷がイメージ。建具には障子を、リビングには畳を取り入れ、全体の材質としては懐かしさを感じるラワン材を多く用いています」(石黒さん、以下同)。
「床に座る暮らしは落ち着く」とリビングに導入したこたつテーブルは、石黒さんデザインのオリジナル。テレビ台は、奥様のご実家から運んだという古い家具です。新旧アイテムのミックス感にミニマルなディスプレイが、どこか懐かしく、かつスタイリッシュな独特のインテリアを実現させています。
信頼する家具職人につくってもらったオリジナルデザイン収納の数々
石黒さんの家にある家具は、ソファとアンティーク以外、ほとんどがオリジナル。石黒さん自身が家具のデザインを手がけ、素材も決めてオーダーしたものです。
「信頼している家具職人の方と打ち合わせをしながらつくってもらった家具には、愛着があります。何をどこに、どうしまうか。また、持っている家具をどう組み込むか。収納計画とインテリアのバランスを兼ねたオーダー家具は、やはり使い勝手がいいものです。コストはかかりますが、その分満足感は高いと思いますよ」。
メインの収納は、2人暮らしにぴったりサイズのウォーク・スルー・クローゼット
石黒家のメイン収納は、玄関前から寝室へつながっているウォーク・スルー・クローゼット。ハンガーパイプの足下には、『無印良品』のプラケースがきっちり4つ入るように設計したそう。2人分の衣類と布団類などがコンパクトに整理されていました。
「はじめは寝室側からだけ入れるウォーク・イン・クローゼットとして図面を書いていたのですが、妻が『玄関からも出入りできた方が便利では?』と提案してくれて。玄関側は横歩きで通るほどの狭い出入り口ですが、あまり人目にもつかず、回遊性が出て、とても使いやすくなりました」。
捨てる人、捨てられない人。家族の数だけ収納のパターンがある
家中がスッキリと片づき、所有するモノも選抜されている印象。「ご夫婦ともに、『モノが捨てられる人』なのですか?」と伺うと、石黒さんは笑って答えました。
「私は何でもすぐに捨てる派なんですが、妻はそうでもないんです。どちらかというと彼女は何でも取って置きたがるタイプなんですよね。モノへの考え方や、片づけ方は、人によってさまざまです。家の中があちこち散らからないためには、どんな家庭にもある程度、核になるような収納のスペースがあると便利なんじゃないかな、と思います。うちでいうと、ウォーク・スルー・クローゼットがそれに当たります。片づけるべきモノはすべてそこへ運び、そこでより分けるという習慣があれば、毎日の片づけに苦労しなくなります」。
メイン収納スペースで整理整頓、こだわりの造作家具で生活の彩りを楽しむ。
間取りの工夫とシンプルな収納のルールで、毎日美しい空間を維持しているこの家は、大人の2人暮らしのお手本のようでした。