よりきめ細やかなケアとサービスを目指し、オープンな造りだったデンタルクリニックを個室型にリノベーション。院長が改修設計を依頼したのは、患者として当院に通う建築家でした。作業動線を綿密に打ち合わせて設計された収納は、女性ならではの工夫が随所に凝らされています。
太田陽貴さん
「ヒダマリデザイン設計室」代表
キッズ、美容歯科、高齢者…多様化するニーズに応えるためにリノベーションしたデンタルクリニック
今回取材で訪れたのは、埼玉県所沢市の『エンジェル歯科クリニック』(院長:青木かなえさん)。13年前に開業し、“こどもとママのための歯科”として地元で親しまれてきましたが、今年の夏のリノベーションを経て、患者層が広がりました。オープンな造りだったクリニック内は、3つの個室として緩やかに区切られ、奥にはリラクゼーションルームも備わっています。
「こどもだけでなく、高齢の患者さんも増え、地域のニーズが変わってきたと感じたのが改修の大きな理由です。またこの機会に、長く勉強を続けてきた美容歯科にも力を入れようと考えました。私をはじめ、スタッフも女性ばかりなので、改修設計には、女性ならではの視点を取り入れたいと、患者さんだった太田陽貴さんにお願いしたんです」(青木院長)。
スタッフ全員からのヒアリングで、動線と収納の問題点を徹底的に洗い出し
こどもだけでなく、大人もゆったりと落ち着いて治療が受けられるクリニックへ。コンセプトをシフトしつつも、こどもが安心できる場所という長所は大切にしたい。かつ、スタッフが働きやすい環境をつくってほしい…。依頼を受けた太田さんがまず行ったのは、スタッフ全員へのヒアリングでした。どこが使いづらかったのか、また、良かった部分も、以前のレイアウトに付箋を貼ってもらい、具体的な意見を集めていったのです。
「最初は、保育園のようにオープンなクリニックだったので、必要なものをその都度離れた場所に取りに行くことになり、動線上、あちこちに無理が生じていました。そこで、こども・大人・審美美容を3つの柱として個室を分け、各パートに適した収納をつくること、共有する用具を収める場所に回遊性を持たせることで、使いやすく、動きやすい院内を目指しました」(太田さん)。
「オープンから個室スタイルにしたら、患者さんとのコミュニケーションも密になりました。ムダな動きもなくなり、より効率的に治療に専念することができます」(青木院長)。
収めるものすべてのサイズを測ったパーフェクトな収納棚に、ぐるぐる巡れる回遊性をプラス
「収納についての打ち合わせは、かなりしっかりと重ねました。院長から動画が送られてきて、『こういう流れがあるから、ここに収納が欲しい』など、要望も非常に具体的だったので、プランニングもしやすかったですね」(太田さん)。
カルテや医療用品、技巧コーナーなどは、廊下に沿ってIライン上にまとめ、ぐるぐると回遊できる仕組みに。メインの収納棚は両面から使える上、開口部が設けられているので、器具をパスし合うこともできます。
「マスクを入れる箱、ティッシュボックスなど、ここへ来ると、太田さんはいつもどこかしら測っていましたね(笑)。おかげで器具、機材は1cmのズレもなく収まり、本当に素晴らしい収納が生まれたんです」(青木院長)。
院長の夢だったリラクゼーションルームも併設。ほかにはないスペシャルなクリニックへ
今回のリノベーションで新たに加わったのが、奥に造られたリラクゼーションルーム。通常はスタッフルームですが、クリニックの休診日には顎関節のマッサージなど、デンタルエステのサービスを提供しています。
「以前のレイアウトでは、ここに技巧コーナーとダイニングテーブルが置いてありました。動線の悪さを解消したらスペースが生まれ、リラクゼーションルームをつくることができました。歯の治療だけでなく、デンタルエステで別のアプローチからケアをすることで、より健康的で美しい体を目指す。これは、私がずっと思い描いてきたこと。患者さんからも好評なんですよ」(青木院長)。
住宅はもちろん、店舗やクリニックも、回遊動線を大切に収納プランニング
太田さんは、このクリニックの改修を、「住宅をつくっているようなイメージで進めた」そう。スタッフは、家族。家族個人がどんな動きをするかを考えれば、収納の置き方がわかってくる、と太田さん。
「動線と収納は、連動しています。ただそこに、何かを入れる空間があるだけではダメなんですよね。どういう動きをしている中で、何を納めたいのか。クリニックも住宅も、同じです。動線上に、適した収納があること。私の収納設計は、とにかく動線を考えることからはじまります。図面の中を歩き回りながら、収納を考えていくという感じですね(笑)」。
院長・スタッフの動きを把握し、必要なモノをすべて確認した上でつくられたクリニックの収納。そこには、家族一人ひとりを思いやるような太田さんの目線が、しっかりと反映されていました。