ともに一級建築士の資格を持つ夫妻が一代で築いた、新進の工務店。その評判を聞きつけ、愛知県へ向かいました。2人が提案するのは、建築に家具デザインを組み合わせ、暮らす人それぞれにフィットした収納。細部にまでこだわったオリジナルの収納家具はまさにスタイリッシュ&ユースフルでした。

HOUSTO 編集部

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石原真さん・智葉さん

「ishihara style 株式会社イシハラスタイル」

庭を挟んで隣り合う二世帯住宅。子世帯の施主が魅了された、北欧家具の奥深さ

今回編集部が訪れたのは、愛知県三河地方。石原真さんと智葉さんが夫婦で立ち上げた工務店、イシハラスタイルは西尾市にあります。「収納の取材なら」と2人が案内してくれたのは、隣接する碧南市に3年前に建てられたO邸。

O邸は、当初ひとつの二世帯住宅の予定でしたが、石原さんの提案で、広い土地を生かし、中庭を挟んで親世帯と子世帯をそれぞれ独立させたユニークな形態です。取材したのは、2階建の子世帯の家。開口部からはお互いの家が見渡せます。暮らすほどに、つかず離れずのこの距離がちょうどよく感じる、と施主のOさん。

Oさんは、育ち盛りの3人のお子さんを持つ5人家族。もともとは、さほどインテリアに興味がなかったそうですが、石原夫妻との出会い、そして自邸の建築をきっかけに、すっかりインテリアと家具の大ファンになったそう。

「打ち合わせで話をしているうちに、Oさんは北欧家具が好きになるだろうな、と直感ししたんです。それで、インテリアの参考にと、一冊の北欧家具の本をお渡ししました。すると、みごとにハマってくれて(笑)。今ではOさんも立派な北欧家具マニアですよ」(石原真さん、以下『真』)。

「建てられた家にマッチする家具を後から考えるのは、実際にはとても難しいということを石原さんに教えてもらいました。今では北欧家具の魅力にどっぷりハマり、家具ショップ廻りが楽しみのひとつになりました」(Oさん)。

「もちろんお客様のタイプにもよりますが、私たちがよく提案しているのは、『家具を先に考えましょう』ということです。どんな家具が好きなのかがわかると、インテリアの方向性も決まります。皆さんのライフスタイルを考えずに、後から適当な家具を見つけて置いてください、という家づくりはできない性分なんですよね。好きな家具があれば、それを生かす空間をつくりたいんです」(石原智葉さん、以下『智』)。

Oさんが買い集めるのは、北欧の名作家具。名古屋市内のヴィンテージショップなどに通って、少しずつ集めたそう。

家を建てている途中で購入した北欧家具のソファ(写真右手)。工事中は石原さんに頼んで、一時保管してもらったそうです。

建築家が家具デザイナーとともに挑む“究極の造作家具づくり”

現在、石原さんが熱心に取り組んでいるのは、家具デザイナーと協力した新しい家づくりのプロジェクト。家具と建築の接点を探りながら、使いやすく、デザイン性にも優れた家具を建築とともにつくり上げるこの試みが、注目を集めています。

「現場でつくる造作家具というのは、本物の家具にはどうしてもクオリティが敵わないんです。とはいえ、暮らしに合い、デザインにも納得できる家具に巡り合うのも、なかなか難しいこと。一番の理想は、痒いところに手が届く、究極の造作家具。既存の家具のクオリティを、建築の中に活かしてつくることです。志を同じくした家具デザイナーの村澤一晃さんと出会ったことで、実現できました」(真)。

O邸のオープンタイプのキッチンは、まさにこのプロジェクト下でつくられました。管理栄養士である奥様が列挙したキッチンへの要望をすべて叶えた、究極の造作キッチンです。どこに何があるか、一目瞭然。使いやすいサイズ感、ディテールの工夫。マニッシュな骨組みに、優しい風合いのブラックチェリーを組み合わせ、独特の雰囲気があります。

「造作ですが、完全に取り外しができないわけではありません。置き家具の延長なんですよ。直したい時には外すこともでき、メンテナンスのしやすさも自慢です」(真)。

「お子さんと一緒に料理がしたいというご要望からつくった作業台の天板は、厚みを活かして、引き出しをつけています。見ていても楽しくなるキッチンになりました」(智)。

パン生地などをバンバン叩きつけてもびくともしない、タフな作業台。質感も魅力です。

作業台の引き出しには、カトラリー類などが整理されています。

ステンレスの質感と木目のコントラストが美しい造作キッチン。脚部分のバーにはスプレー類を引っ掛けるアイデアも。

キッチンの引き出しには、包丁が入っています。端材に斜めの切り込みを入れて、サイズの異なる包丁がしまえる工夫も、石原さんならでは。

ハウスメーカーにはない、地元工務店だから寄り添える暮らしと収納のこと

オープンスタイルのキッチンを、究極の造作家具づくりで完成させたO邸。とはいえ、すべてのお客様にこのスタイルが合うわけではない、と石原さんは言います。

「オープンスタイルが好きなので、おすすめすることも多いですが、好みと異なる場合は、見せない収納を組み入れたキッチンもつくります。家は私たちの作品ではなく、暮らす人のためのもの。メンテナンスを含めて、長いお付き合いをするために、どんな暮らしがしたいのかをお客様から引き出して、一緒に理想に近づいていく、というんでしょうか。あくまでも、地元工務店として寄り添いたいんです」(真)。

どんな家がその人に合うのか。趣味嗜好と持ち物、暮らしについての考え方をじっくりとインタビューしてから練り上げていくのが2人のスタイルです。

「お客様には、家を建てる前に、『何が必要か、何が好きなのか』を、ゆっくりと考えていただくようにしています。便利そうだからと、細かなツールが満載のシステムキッチンにパッと飛びつくと、修理費用はとても高かったり…。現代は、本当に大切なことが、便利さの後ろに隠れてしまっているような気がしますね。簡単に“便利”って、なんだか信用ができなくて(笑)。時間をかけてでも、必要なものを取捨選択して、自分ができることを見つけられる暮らしが理想ですよね。家づくりを通して、そのお手伝いができたらと思っています」(智)。

石原夫妻が目指すのは、便利アイテムに振り回されることなく、本当に好きなものだけに

囲まれて暮らすことができる家。「置き家具は人につき、造作家具は建築につく」…双方の利点を活かした、本物のオーダーメイドでした。

シンプルなO邸のサニタリー。既存のカゴを利用して、オープン収納もスッキリと見せています。

季節ものを収納できるロフトスペースも完備。お気に入りの布で目隠しを。

第3子が生まれたばかりのOさん夫妻。家づくりを通して、インテリアと整理収納に目覚めたそう。