鎌倉駅からほど近い御成通りにある建築設計事務所。二階建て、それぞれ9畳ほどのコンパクトなスペースで快適に仕事をするために製作した、独創的な収納アイテムの数々を見せていただきました。

HOUSTO 編集部

HOUSTO 編集部

HOUSTO公式アカウントです。当サイト独自の目線で、毎日の暮らしがちょっと豊かになる情報を定期的にお届け中です!

https://www.instagram.com/ouchinoshunou/

田邉雄之さん

「YAA/Yuji And Architects 株式会社田邉雄之建築設計事務所」

設計事務所に学ぶ、大量の本や紙類をしまうためのテクニック

鎌倉生まれの田邉雄之さんは、大学は仏文科に進みましたが、実家のリノベーションをきっかけに興味をもち、建築の道へ進んだという異色の経歴の持ち主です。住宅だけでなく、レストランや工場など、さまざまな施設の設計も手がけています。

鎌倉駅の西側にあるのどかな商店街、御成通り。八百屋さんの向かいにある小さな2階建てが、田邉さんの仕事場です。1階ではもともと田邉さんの奥様が雑貨屋さんを営んでいたという場所。上下階ともにそれぞれ約9畳という、決して広くはない空間ですが、1階を打ち合わせスペース、2階はオフィスとして、広々と使用されるようになりました。

「設計の仕事は、資料、本といった紙類、模型、さらに模型の材料など、場所を取るものが多くて、しまう場所にはみんな苦労するんですよね。この建物も、ご覧の通りかなり狭いので、私とスタッフが居心地よく仕事をするためには、収納の工夫が欠かせなかったのです」(田邉さん、以下同)。

そこで、田邉さんが取り組んだのは、事務所内の収納づくり。ほとんどの収納アイテムは、田邉さんデザインのオリジナルです。

打ち合わせ用テーブルも、細長いスペースに収まるサイズでデザイン。脚部分は、壁のオブジェの製作者でもある現代アーティストの岡田健太郎さんに依頼したそうです。

アンティークデスクのモジュールから展開した収納アイテム

田邉さんがモジュールの基本としたのは、長く愛用しているアンティークのデスクでした(写真奥)。

「知り合いの塗装屋さんからいただいたアンティークのデスクが使いやすくて、以前自宅でSOHOをしていた時から使用しているんですが、このモジュールが600×900なんです。これを基準にしてほかのアイテムもつくっていけば、レイアウトがどう変わってもうまくはまるな、と思って。図面を書いて、スチールのフレームなどをオーダーし、オリジナルの収納家具を組み立てていきました」。

アンティークデスクに並んでいるのは、ガラス天板でつくったオリジナルデスク(写真手前)。プリンタなどを置いている作業台も、同じモジュールです。視線上にガタつきがないため、狭い空間もスッキリと広く見えます。

「ツインズ 」と名付けられた白いチェアも、田邉さんのデザインです。ぴったりとスタッキングすることができ、2つでも1つでも使える便利なアイテム。

見せる・隠す、収納の両方を兼ね備えたオリジナル棚

壁面に設えたのは、A4の書類がぴったりと収まる収納棚。2列に並べて、その間もディスプレイコーナーとして使用できる優れものです。隠したいアイテムは、ステンレスの扉つきの棚へ。このステンレス扉、3つともステンレスの仕上げが異なっており、サンプルとしても活用されています。さらにその下には、移動式の収納ボックスが。こちらもすべてサイズが揃っているので見た目も美しく、整理整頓がはかどります。

「移動式収納は、書棚タイプと、ボックスタイプの2種類をつくりました。模型材料は大きいものが多く、使っていくうちにサイズもバラバラになっていくので、まとめてしまえて、蓋ができるボックスタイプは重宝しています」。

ステンレスの扉を開けると、この通り。下の移動棚にぶつからない、絶妙のサイズ感。

蓋つきのボックスタイプ。すべての移動式収納は、間仕切りとしても使えそうです。

好きなものを収納に活用。気に入るものがなければ、つくればいいという発想

オリジナル収納に囲まれた事務所の中で、田邉さんの小物使いにもセンスが光ります。模型製作によく使用するアイテムは、古いアルミ箱に整理されていました。

「このアルミ箱、いいでしょう? たぶん、フランスの軍用のモノだと思うんですよね。細かなアイテムをしまうのにちょうど良くて、ガラス天板の下に設けた棚に収まるサイズで便利です。毎日、できるだけ気分良く使えるものに囲まれていたい、という気持ちはありますね。そういう意味では、手づくりしたゴミ箱は、我ながら気に入っているんですよ」。

ゴミの分別が厳しい鎌倉市。ちょうどいいゴミ箱が見つからなかったので手づくりしたというゴミ箱は、スタイリッシュで、とても軽い優れものでした。

ないものは、ひとまずつくってみる、というのが、田邉さんのやり方。自分でつくれば、色味や素材感など、好きなテイストを思い通りに得ることができると話します。

事務所の天井にも張り巡らしたステンレスのメッシュ素材を活用してつくったゴミ箱。布のようなしなやかな素材感で、見た目も美しく、インテリアにも溶け込んでいます。

暮らしながら、使いながら。少しずつ手を加えて、最適なオリジナル収納をつくる

子どもの頃から、DIYをすることが好きだった、と田邉さん。住宅の設計を手がけるときも、なるべく収納はつくりこまないようにしているそうです。

「事務所も、自宅もそうなんですが、使いながらじゃないと、わからない部分というのは、けっこう多いですよね。収納って、暮らしそのもの。だから、日用品のようなものを収める部分というのは、その人がカスタマイズしていくことが、一番快適だと思うんです。昨日も、この撮影があるからと整理していたら、『こうした方が使いやすそうだな』とか、『こっちへ移動させたら作業が楽だな』とか、この狭い事務所の中でも、新たな発見があるんですよね。家は、もっとそうだと思う。収納は、どうしたらより使いやすく、作業が効率化できるかという視点で、進化させていくことができるものだと思います」。

収納は、いつでも変えていけるもの。ありがちな収納の概念にとらわれず、「こうしてみたらどうだろう?」という柔軟な発想で日々カスタマイズしていくことが暮らしを楽にするコツなのだと、田邉さんは教えてくれました。

長野県で田邉さんが手がけた『ペッタンコハウス2』という住宅。収納はあまりつくり込まず、植栽家・ランドスケープデザイナーの施主が自由にカスタムして暮らしを楽しんでいるとか。ペッタンコハウス3は、現在ミシガン州で計画されているそう。