オーナーが同じ場所で2度リノベーションをした、こだわりの一軒家を取材しました。これまでの生活経験を生かして練り上げられた収納設計と家事動線は、まさにパーフェクトでした。
吉原健一さん
「光風舎 一級建築士事務所」代表
住宅からカフェへ。そして再び住宅へとリノベーション
品川区で設計事務所を営む、吉原健一さん。敷地環境を最大限に生かし、光と風を効率よく取り入れた心地よい住宅づくりには定評があります。目指しているのは、街に個性に調和し、風景にしっくりとなじむ住まい。今回取材したS邸も、古都・鎌倉の静かな住宅街に佇む美しい一軒家でした。
「新築に見えますが、実はリノベーション。施主のSさんは、まず2001年に住宅を建てて、いったん1階部分をカフェにリノベーションしました。10年間カフェ経営をされた後、ふたたび住宅に戻したいということで、依頼を受けたのです。基礎、柱梁などの骨組みを残して減築し、2階の面積は約半分ほどにしました」(吉原さん、以下同)。
施主のSさんは、夫婦2人暮らし。カフェをやめて、日々の暮らしにフォーカスしたとき、それまでのスペースは広すぎると感じていたそうです。適度な広さにして、生活動線を整えたいというリクエストから、吉原さんの収納設計がスタートしました。
ウォークインクローゼット内のホコリを解決するアイデア
ウォークインクローゼットは、寝室の近くに設けてあることが多いもの。S邸も寝室に隣接していますが、そこにはSさんの要望を汲み取った、ある工夫が施されていました。
「ウォークインクローゼットというと、左右にバーが振り分けてある一つの空間という造りが一般的です。実は入口の扉を閉めても、どうしてもホコリがたまりやすいんですよ。寝室の隣であれば、なおさらです。『ホコリが気にならないウォークインクローゼットを』という要望から採用したのが、内側の折れ戸です。少し贅沢な造りにはなりますが、家具を購入するよりはコストもかからずにすみます。見た目のスッキリさはもちろん、掃除が格段にラクになると思います」。
家事動線にこだわった、キッチン周りの収納
S邸の2度目のリノベーションのテーマは、生活の場を1階に集約すること。そこで吉原さんが一番重要視したのが、キッチン周りの家事動線でした。
「生活の中心になるのがL D K。そのすぐ近くで、ほとんどの家事が完結できれば、リラックスする時間も増えるわけですね。キッチンと家事コーナーを回遊できるようにして、一連の動きが淀みなく行えるように設計しました」。
リビングを見渡しながら料理ができる広々としたキッチン。壁を隔てた隣には、洗濯やアイロンがけなどができる家事スペースがあり、戸外へ出られる扉へも、ぐるりと繋がっています。Sさんのお気に入りは、ゴミ箱を隠せるように設計されたコーナー。室内で分別できるスペースが生まれ、ストレスが激減したそうです。
持ち物の量を把握していたからこそ実現したパーフェクト収納
「家は3回建てないと…(本当に納得する家にはならない)」、とは、よく耳にする言葉。
S邸は、まさしく3度目の家で、思い通りの収納をつくることに成功しました。
「Sさんは『次はこうしたい』という思いが、とても具体的だったんですね。その場所で暮らしているから、何を持っているか、これから何が必要で、何が不要になるのかまで、よくわかっている。新築では、ここまで収納がピタリと決まるのはなかなか難しいと思います。とはいえ、実際は、3度も家を建てられる(2度も大規模リノベーションできる)人は稀ですよね。同じようにはできなくても、こうしたSさんの暮らし方、収納のつくり方は、これから家を建てるという人、リノベーションをするという人の大きなヒントになると思います」。
何をどれくらい持っているのか。それらを適材適所に置いたとき、どれくらいのスペースが必要か。隠したいか、それともディスプレイをしたいか。収納計画は、ウォークインクローゼットやキッチン、家事スペースなど、それぞれの場所に照らし合わせながら、具体的に考えていくことが大切だと吉原さんは言います。
「なんとなく大きな収納スペースをつくっておこう、というのは、不要なモノを増やす原因になります。少し手間はかかりますが、事前のしっかりとした収納計画が、後々のスッキリした暮らしを助けてくれると思いますよ」。
S夫妻が積み重ねた暮らしの知恵と、吉原さんの創意工夫が融合したパーフェクト収納。そこには、これからの家づくりの参考にしたいポイントがたくさんありました。