この夏、静岡市で竣工したばかりの注文住宅。パープルの螺旋階段を取り巻くように造作された、オリジナルのタワーシェルフに注目! 存在感があるのに圧迫感はない、デザイン収納の好例を取材しました。

HOUSTO 編集部

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戸川賢木さん

「一級建築士事務所SAKAKI Atelier」代表

大好きな「カルディ」の商品棚を住宅デザインに応用

静岡県静岡市。この夏竣工した新築住宅に移り住んだばかりの施主、Iさんは、元気な3歳の男の子を育てる3人家族。もうすぐ、第二子も誕生予定です。

狭小地の3階建てで、各フロアの面積は10坪ずつというコンパクトなつくりですが、中に入ってみると、どのフロアも驚くほど開放感がありました。各所にオリジナル収納が造作されており、生活動線もスムーズ。中でも目を引くのが、この家のアイコンでもあるオリジナル収納「タワーシェルフ」です。

ヒントは、Iさんが好きだという輸入食品店「カルディコーヒーファーム」(以下カルディ)の商品棚にありました。
「カルディみたいな柱の棚があったら…」というIさんの要望を受け、建築士の戸川賢木さんが行ったのは、市内に複数店あるのカルディを内装をリサーチすること。あらゆる棚を見て回り、収納プランを練ったそうです。

「カルディは、狭さの中に商品がぎっしりある雰囲気が魅力。イメージそのままに、家中に棚を回らせるプランも考えたんですが、圧迫感が出てしまうんですよね。一般住宅に応用するにはどうしたらいいだろう……と、あれこれ試行錯誤しました」(戸川さん、以下同)。

そこで戸川さんが発想したのは、螺旋階段を取り巻くように、2階から3階の天井まで続くタワーシェルフです。マホガニー風に着色したラワン製のボックスを積み上げてつくられたこのオリジナルシェルフは、存在感抜群。棚の背板を抜いてデザインは抜けがあるので、圧迫感を感じさせないのがポイントです。

「ブックシェルフはもちろん、ディスプレイコーナーとしての役割も果たします。収納グッズを活用して、普段使いのモノを納めてもいいですね。これから家族が増えるIさんがどんなふうに使ってくれるか、楽しみです」。

セカンドリビングとして利用されている3階。天井まで続いているタワーシェルフがスタイリッシュに空間を引き締めます。

モノはあえて集合させず、各階に収めるのがスッキリ暮らすためのルール

「収納が階をまたぐと動線が自然と長くなり、手間が増えてしまいます。3階建のIさん邸ではなるべく各階でモノの動きが完結するように、適材適所に収納を備えたいと考えました」。

1階は約半分のスペースが土間玄関。自転車やベビーカー、アウトドア用品などをそのまま持ち込むことができる便利なスペースです。客間として活躍している和室の前には、見た目のノイズになりやすい雨具やDIY用品をしまうことができる扉つきの収納がありました。

雨の日は、帰宅したら土間でそのまま傘を広げ、乾いたら扉つき収納へ。コンパクトな和室には、窓際に小物などをディスプレイ収納できるカウンターが造作されています。

パープルの螺旋階段が目を引く玄関。土間に姿見を置けば、靴を履いたトータルコーディネートを外出前にチェックすることができます。

2階のダイニングとリビングにも、随所にこだわり収納が。
キッチン周りはもちろん、リビングには奥行きのあるベンチシートが備わり、その下に取り付けられた容量たっぷりの引き出し式収納がナイスアイデア!
ニッチ部分にはスマホやタブレットを置くこともできます。

「クライアントにヒアリングをしていると、キッチンには収納を求めるけれど、リビングまではあまり考えないという人が多いように思います。実際は、リビングっていろんなものが散乱してしまう場所。スペースが限られているならばなおさら、そこにはきっちりと収納をつくっておく。そうすれば生活自体がラクになるというのが、私の考え方です。季節のディスプレイ用品やお子さんのリビング学習アイテムなど、リビングで使うものはリビングに収めると、出し入れスムーズな暮らしになります」。

コンクリートと木の質感が印象的なキッチン。見せる収納と見せない収納のメリハリが効いています。

食器類は、扉つき収納棚の中に100均のカゴを使って上手に収納されていました。扉を閉めれば、生活感もなくスッキリ。

構想期間はなんと2年!ノートに書きためてイメージを積み上げれば、理想の暮らしが近くなる

もともとは大手のハウスメーカーに依頼しようと考えていたIさん夫妻。縁あって戸川さんの自宅を訪れた際、そのセンスのよさに一目惚れしたそうです。
戸川さんとの家づくりを決めたIさん夫妻は、暮らしのイメージや間取りなど、家づくりのさまざまな要素をノートに書きためていき、綿密な打ち合わせを繰り返しました。構想は約2年。時間をかけたからこそ、細かな部分まで要望を叶えた家を完成させることができた、と満足そうなIさん。

戸川さんは、Iさん夫妻がつくったノートはとても参考になった、と話します。
「建築士が独りよがりで考えたプランだけでは、実際の暮らしには合わない。お客様のイメージをいかにカタチにしていくかが大切だと考えています。収納に関しては特に、事前の暮らし方、持ち物などはすべて見せていただいた上で、クライアントの要望と、私からの客観的な提案とをすり合わせていくことが多いですね。カルディの棚もそうですが、あの喫茶店のインテリアがいいとか、イメージを具体的に教えてもらえるほど、設計のヒントになるんです」。

そのノートには家と収納づくりの過程だけではなく、暮らしを楽しもうと前向きに取り組んだ夫婦の記録としても価値があるものに見えました。

間取りや要望、イメージなどを書きためたノートと、それを元に戸川さんがCGでつくったイメージ図。I邸の大切な記録です。