建築・プロダクトからアートまで、ジャンルに囚われない活動を行う「GENETO Architects Office」の京都事務所を訪ねました。個性的なオフィス空間に併設されていたのは、なんとダイニングキッチン。そこは、建築家と家具デザイナーたちの実験的なスペースでした。
山下麻子さん
「GENETO Architects Office」
オフィスにダイニングキッチンをつくった理由とは?
「GENETO Architects Office」は、京都と東京に拠点を置く設計事務所。建築だけでなく、家具デザイン&制作も手がけるユニークなプロ集団です。東京事務所の山中悠嗣さんにも、過去この「建築家に学ぶ収納の美学」の連載に登場していただきました。
GENETOの京都事務所は、もともと呉服関係の工場だったという古いビルの3階。オフィスにも関わらず、1階で靴を脱ぎ、絨毯敷きの階段を上るというアプローチがなんとも京都っぽく、入り口からワクワク。
100㎡の広々ワンフロアはモダンにリノベーションされ、エントランス、オフィス、ダイニングキッチンの3スペースに分けて使用されていました。
今回、取材に応じてくれたのは、この事務所の改装設計を担当した、家具デザイナーの山下麻子さん。
なぜ設計事務所にダイニングキッチンを設けたのでしょうか。
「ここは、お客様との打ち合わせスペース兼、スタッフの食堂なんです。スタッフが持ち回りで料理をし、昼も夜もみんなで食べるんですよ」(山下さん、以下同)。
ええっ、職場で料理!? なんて楽しそう……!
「住宅の中でキッチンはとても重要な場所ですよね。自分たちが使うキッチンを1からつくることで、住宅を設計する時のケーススタディとなるような実験的なスペースとして使っているんです」。
共有のダイニングキッチンを毎日使うことで見えてくる、キッチン設計と収納アイデア
週に1〜2度、近所のスーパーで一気に買い出し。料理当番のスタッフは冷蔵庫とパントリーの中を見て、その日のメニューを決めているそう。まさに、日常の主婦感覚です。
「毎日このキッチンを実際に使うことで、さまざまな気づきがあります。作業はしやすいか、適材適所に収納が設けられているか。アイデアをブラッシュアップして、今後の設計活動に活かすことができたら、と考えています」。
そんなGENETOのキッチンには、参考にしたい収納テクニックが満載でした。
必見!ソーシャルディスタンスを保てる、オリジナルのオフィス家具
こちらは、ダイニングスペースとは別室のオフィス。
白のパーテーションが組み込まれたオリジナルデスクが並んでいる様が雪山の尾根を思わせ、なんともアートな雰囲気。これらはすべて、山下さんの設計によるオリジナルのオフィス家具です。
「設計の仕事は、大判の図面を引いたり、模型をつくったりと、どうしてもスペースが必要になるため、リモートワークが難しいんです。これはコロナ流行以前から使っていますが、パーテーションを設け、パーソナルスペースを保ちやすい形になっているので、結果的に良かったと思っています」。
デスクはワイド1400mmと大きめのデザイン。パーテーションの山形は、一つひとつ高さを変えてあります。足元は三角形の抜け穴をつくり、配線処理にも気遣いが。
家具づくりで大切なのは「ノンストレスなサイズ感」を見極めること
山下さんはスウェーデンに留学し、デザインを学びました。建築設計と家具デザインの両輪で確かな作品をつくり続けるGENETOにおいて、なくてはならない存在です。
そんな山下さんが、家具をデザインする上で一番大切にしていることは、「細やかなサイズ感」。いかにノンストレスで使うことができるかを常に考えているそう。
「あと2センチ大きかったら……など、些細なサイズによる日常のストレスって、積み重なると大きいんですよね。そこを事前に汲み取って、毎日をストレスフリーに過ごせる家具をつくることが、私の仕事だと思っています」。
本棚も山下さんデザインのオリジナル造作。高さのある建築関係の書籍がきれいに収まるモジュールでつくられています。
サイズ感がぴったりと決まった収納は、想像するだけで気分もスッキリします。細部にまでこだわる収納設計が、大きなゆとりをもたらしてくれるのですね。
日ごろからケーススタディを繰り返すことで「痒いところに手が届く家具収納」のスキルを積み上げている山下さん。彼女のアイデアが散りばめられた事務所は、とても快適な空間でした。
GENETOのエントランスはアートな空間。山下さんがデザインしたシェルフや、模型が飾られています。