間口の狭さと奥行きの深さから、うなぎの寝床と呼ばれる京都独特の建築「京町家」。なかでも特に間口が狭い町家を建て替えた一戸建て住宅を訪ねました。限られた条件の下、「収納はあえてつくりこまなかった」という建築家の狙いとは?

HOUSTO 編集部

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大脇淳一さん

「OJAR 一級建築士事務所」代表

京町家の狭小跡地を、若夫婦の3階建て住宅へ建て替え

京都の伝統的な建築方法、京町家をご存知ですか?
現存する京町家は、通りに面した側に店舗用スペース、奥側に居住スペースを設けて、玄関から通り庭と呼ばれる土間が続いているのが一般的な構造。光と風を通すため、家の中央や奥に「坪庭」がつくられるのも特徴。その細長いつくりから、うなぎの寝床という愛称で知られています。

京都市内中心部に建つK邸も、祖母から受け継いだという京町家があった場所に建て替えた一軒家。細長い土地ならではの設計の難しさをクリアした住宅は、どんな収納計画になっているのでしょうか。

間口は2.45m!階段周りに収納を集め居住空間を増やす設計テク

敷地面積は38.22㎡。土地の細長い形状でも、居住空間を増やすため3階建てのプランで進みました。各階の床面積は1F:27.5㎡、2F:27.5㎡、3F:25㎡、延床面積80㎡ありますが、建物自体の間口は、なんと 2.45m!

各階は、1階にLDK。2階は主寝室とサニタリー。3階にはこども部屋、趣味部屋に書斎スペースが。屋根裏収納もあるという充実ぶりです。

「なんといっても間口が狭い。居室それぞれに収納を用意していては、動けるスペースがなくなってしまいます。まずはいかに居室を確保するかを考えました。手前、中央、奥と、“うなぎの寝床”を3分割して考え、中央を廊下に見立ててゾーニング。主な収納は階段周りに集約しました」(大脇さん、以下同)。

2階の主寝室。階段を上がってすぐの両壁に、ワードローブを設置し、ウォークスルークローゼットに。手前にはサニタリーがあり、洗濯動線もバッチリ。

玄関から、1階のLDKを見たところ。モルタル敷きの床は、京町家の土間をイメージしています。玄関のワードローブは、階段横スペースを活用。

オープン収納は、狭小住宅の省スペース処方箋

施主のKさんの奥様は大のファッション好き。アイテム数もかなり多く「なるべくクローゼットは広く、隠せる方がいい」とオーダーしていたそう。

「隠す収納にすると扉をつくることでスペースが取られ、圧迫感も出てしまいます。蓋をして隠すのではなく、見せて収納しましょう、と提案しました。お二人のセンスなら、きっとできると思っていましたし。結果、とてもカッコよくオープン収納がキマっていますよね」。

オープン収納にしたことで、「モノがぎっしり」よりも、見ていて楽しくなる収納を心がけるようになったというKさん。棚の上のディスプレイも素敵です。

3階、階段の踊り場部分にもワードローブを設置。まだまだ余裕あり。

洗面所もオープン棚に。収納アイテムもセンスが抜群。

3階の趣味部屋は、本好きなご主人のリラックススペース。オープンタイプの本棚を造作。

暮らす人自身が、暮らしの変化に合わせて収納DIYを楽しめるつくりに

「基本的にこの家では、収納のつくりこみをしたくなかったんです。つくりこむことで、限られたスペースの自由度が下がると思いました。細長い建物を柱の幅を大きくして頑丈につくる構造なので、ニッチ(壁のくぼみ)がたくさんできます。いくつか棚は用意しましたが、そのほかはご自身で生活をしながら、欲しい部分に収納を付け足していったらどうかという提案をしました。ライフステージの変化でモノの増減もあると思いますし、その時々に合った収納を見つけていただけたら嬉しいですね」。

大脇さんの提案通り、Kさん夫妻は「無印良品」などの収納用品を使った収納DIYを楽しんでいるそう。

「好きなものを取捨選択することは、狭小であろうとなかろうと、スペースを有効活用しつつ、暮らしを楽しむテクニックだと思います」と大脇さん。

オープン収納になったことでモノの量を見直し、ディスプレイにもこだわったK邸。そこには、間口の狭さを感じさせないほど広々とした空間が広がっていました。