今回お話を伺ったのは料理研究家・牛尾理恵さん。仕事柄、調理道具などがたくさんあると思いきや、多くのモノを持たない暮らしを実践しています。その中で見えてきた、暮らしの取捨選択とは。

HOUSTO 編集部

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モノと向き合う暮らしは幼少期から。掃除も大好きです

牛尾さんが一番大切にしていることは、心地よさ。モノ選びや整理整頓は、「心地いい」と感じる空間をつくるための重要な構成要素です。

「実用性はもちろんですが、見た目にもかなりこだわっています。だから、家に迎え入れるのは自分が毎日見て触れて、使いたくなるモノだけ。極端な話、洗濯バサミひとつでも妥協しません。『古いものが壊れたけど、ちょうどスーパーに手頃な洗濯バサミがあったからこれでいいや』なんて買い方は絶対にしない、ということです」

厳選して持つから、家にあるのは最低限かつお気に入りばかり。どこを見渡しても心地よい空間です。好きなモノは変わらず、長く使い続けています。

「骨董屋で見つけ、一目惚れした李朝の家具。家をリフォームするときも、この家具を軸に床材を選びました」

思い返せば、物心つく前からこの考え方を持っていたという牛尾さん。欲しいおもちゃがあっても「増えたらおもちゃ箱がいっぱいになって処分しなければならない」「すぐ飽きるかもしれない」などと考えていたそうです。

掃除や片づけなど、家事全般も昔から大好き

「学生時代から革靴を磨き、制服のシャツのアイロンをかける日々でした。今も変わらず掃除には力を入れていて、毎朝の掃除機とモップがけは欠かせません。ロボット掃除機に惹かれたこともあったけれど、私はやっぱり掃除機派。かけながら家のあちこちを自分で見てまわると、補修や念入りなお手入れが必要な箇所に気づきやすいからです」

牛尾さんにとって、家は最強のパワースポット。

「手入れが行き届いていて最低限のモノしか置いておらず、いつでも人を呼べる。そんな、寺社仏閣と同じような家を目指しています。家がすっきり整っていると、脳もすっきりする気がするんです。視界がクリアになると、思考も明快になります」

筋トレに出合ってから、不要なモノがさらに削ぎ落とされました

幼少期から変わらない暮らしですが、ここ10年の間に大きな変化が2つありました。まずは筋トレを始めたこと。

「以前はダイエット目的でジムに通っていて、10kgほど減量に成功。でももう少しハードに取り組みたくて筋トレを始めました。トレーニングは自分と向き合う時間。どの筋肉が反応しているか、体がどう変化しているかを感じ取るために、高い集中力を要します。その濃い時間が終わると、自分自身がリセットされたような感覚になれるのです」

自分の心や体と対話すると、今の自分に何が必要か、何が必要でないかが見えてくると牛尾さんは言います。

「食事内容はもちろん、周囲とどういう人間関係を築きたいか。自由時間をどのように過ごすか。そういったことまで深く考えるようになりましたね。仕事をしながらも、ジムで数時間トレーニングするゆとりをつくるのは大変です。だらだらとテレビやSNSを見たり、ぶらぶらウィンドウショッピングすることは以前よりさらに減りました」

かつてはジム仲間と飲みに行ったり、モチベーションを上げるために新しいウェアを買ったりすることも。しかし今は、以前にも増してお金と時間の使い道にシビアになったと振り返ります。

愛犬と接していると、大きな気づきがあります

牛尾さんにとって大切なのは、もはや“モノ”ではないようです。例えば洋服。クローゼットに収まっているのは、アウターや小物も合わせてわずか50アイテムほど。

「若い頃はいろいろなファッションを楽しみたい、憧れの人に近づきたいという思いもありました。50代に入りずいぶん落ち着いた気がします。形あるモノはいつか壊れる。ある陶芸家の方の言葉です。思い出の品もかなり処分したし、旅に出ても記念に何か買うのではなく、経験や食事にお金を使っています」

今の暮らしで大きな割合を占めているのは、愛犬と過ごす時間。

「一緒に住んでいる愛犬は、ミニチュアブルテリアの『福ちゃん』。以前飼っていた犬を見送って1年ほど経ったころに犬を飼う夢を見ました。夢の中で呼んでいた名前が、福ちゃん。いろいろな偶然が重なり、家族の一員になりました」

「福ちゃんは感情表現が豊かで、どんな人・犬とも仲良くなれる優しい子。周囲を幸せな気持ちにしてくれます。福ちゃんが来てから、家に『ありがとう』という言葉が飛び交うことが増えたし、前向きな気持ちがどんどん高まっています。福ちゃんから日々学ぶことはとても多いと感じています」

いつか家を建てたい。理想の暮らしを立体化しました

将来目指しているのは、さらにコンパクトで小さな暮らし。具体的な計画はまだありませんが、こんな家に住みたい、という理想のミニチュアハウスを手づくりしました。

「まとまった時間があったコロナ禍に、ダンボールで制作。コンパクトな平屋です。気持ちのいい吹き抜けやバルコニーがあり、お気に入りの李朝の家具もきちんと置いてあります。実現するかは未知数だけれど、そのときが来れば自然と事が動き出す気がしています」

働き方に関しては、求められる仕事から提案型の仕事も少しずつ増やしていきたいという思いが。

「お題を与えられて取り組む仕事が多く、要望に応えることでやりがいを感じてきました。今後は少しずつ、自分から提案して発信する機会を増やしていけるといいなと思っています。そのために、まずは健康でいること。食事や筋トレで体を整えていく暮らしは今後も変わりません」

牛尾さんの暮らしの工夫

ものは眠らせない。用途を限定せず使っています

用途を固定せず、使いまわすことで、多くを持たない暮らしを実現。大きなスーツケースは海外に行く機会が減り、壊れたのを機に小さなタイプに買い替えましたが、ただしまっておくのはもったいない。普段は洗面所に置き、クリーニングに出す衣類を入れる収納として活用しています。

収納スペースは埋めない。余白は心のゆとり

掃除道具を収納している棚は、1段丸ごとフリースペースとして空けてあります。生活用品のストックも最小限。余白があると、仕事で使う調理道具や急に届いた宅配便を出しっぱなしにすることなくしまっておけます。リビングにある吊り戸棚も、ほとんど空っぽです。

スパイスは瓶を逆さにして見やすく、選びやすく

仕事柄たくさん持っているスパイス類。キッチンカウンターの引き出しに収納しています。びんに移し替えていますが、逆さにして中身を判別しやすくしています。何が入っているか一目瞭然なので、ラベリングも不要。

今回教えてもらったのは……

  • 牛尾理恵さん
    料理研究家、栄養士。筋トレを始め、改めて食事の大切さに気づき、自らの経験をフィードバックしながら健康的でおいしいレシピを提案している。

    https://www.instagram.com/rieushio/

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