住宅を注文するということは、生涯に渡ってその家に暮らし続けることが高いですよね。
でも、人生を過ごす上ではメンバーや持ち物、暮らし方がどんどん変化していくもの。
新たに住まいを持つ家で、皆さんが一番悩まれるのがこの「暮らし方の変化と家の関係」だと思うのです。
今日はそんなお悩みを取り上げてみたいと思います。

東沙織

東沙織

1988年生まれ、兵庫県相生市出身。有限会社ひまわり工房取締役 暮らしの設計士。 設計思想は、『家事シェアできる家』・『らくちん動線の家』。適材適所の収納計画も定評あり。毎朝アイデア発信するインスタグラマー。

人生の中で変わりゆく家族のかたち、どんなものがある?

家族のかたちというのは、自分では予測しきれないのもまた事実。
下記に、「わが家のかたち」の事例をいくつか挙げてみました。

例えば……
・夫婦二人の暮らし
・夫婦+こどものいる暮らし
・夫婦+ペットのいる暮らし
・二世帯や三世帯の暮らし
・二世帯+独身家族共同の暮らし
・叔母と甥っ子共同の暮らし
・夫婦二人(こどもは独立)の暮らし
・一人暮らし
などなど。
挙げればきりがないですが、「家族のかたち」の多様化がいっそう深まっているのを実感します。

家族のかたちが変わると、暮らし方も変化する

「暮らし方」というのは、年を重ねるたびに変わりゆくものですよね。

例えば。
暮らしはじめは夫婦二人暮らしでぴったりサイズの2DKアパート空間だったとしても、こどもが2人誕生して家族に加わると持ち物が増えて収納が足らず、手狭な空間になり「狭さ」がデメリットを感じるかもしれません。
そうすると、3LDKのマンションや収納空間が豊富にあるマイホームへの住み替えを期待されるかもしれません。

ただしその時、瞬間的なデメリット(狭さ・収納容量不足)解放のためだけに住み替えをするのは、少々もったいないな、とわたしは思うのです。
なぜなら、家族は成長してゆくものだから。
老いも若きも心身ともに成長し、いずれ家族構成や家族のかたちが変わることだってあります。いつかこどもが増えたとしても巣立ち、またいつか夫婦二人暮らしになり、遠い将来、一人暮らしになることも想定できます。持ち物の内容や量も変化していきます。
だからこそ、わたしは注文住宅の設計相談をいただく時に、ご依頼者さんへ次のような質問を投げかけています。

子育て・老後の二人暮らし……いつの時代に軸足を置いた家をつくる?

「では、いつの時代を中心にした暮らしを 希望されますか?」
このように聴いてみたところ、下記のような話題が挙がります。(ほんの一例です)

・今は結婚したばかり。今後、家族が2人増える想定で、子育て時代中心の暮らしを希望。
・こどもが高校を卒業するまでを中心にした暮らしを希望。
・こどもが家を巣立った後、柔軟にリフォームしやすいような老後中心の暮らしを希望。
・体への負担に配慮された、老後中心の暮らしを希望。
・介護が必要な高齢の母と三人暮らし。在宅介護に向きあいやすい暮らしを希望。
・店舗併用住宅として使いやすいように、この先約30年を中心にした暮らしを希望。
・今は夫婦二人暮らし。遠い将来、一人暮らしになった時にも暮らしやすいことを希望。

上記の回答から、概ね3つの時間軸に分かれることがわかりました。
1.子育て時間中心の暮らし
2.子育てが終わったあと・老後中心の暮らし

もちろん、これら2つの時間軸以外にも家族には家族の大切な判断軸があるものですが、今回は、例として上記3つの時間軸ごとの特徴(メリットやデメリット)を少しまとめてみした。

子育て時間中心の暮らしの特徴

こどもが誕生してから家を巣立つまでの期間を約20年と想定します。
その期間は、家で暮らす人数に対して一人当たりの空間に余裕が欲しくなるものです。
たとえ掃除をする空間が多くなったとしても、動線がよくなったり収納空間が増えたりするなど「広さが確保できること」は、心のゆとりにつながることでしょう。

とはいえ、子育てがおわって夫婦二人暮らしになる頃、例えば「こども部屋」という空間は空室になることも多いです。
設計士であるわたしの場合、お客さま宅のこども部屋だった空間を夫婦各々の個室へリフォームするというご依頼も受けたことはあります。
ですが、やはり現実としては「空室=物置部屋」になっていることが多いのを実感します。
それが5帖の比較的小さな子ども部屋だったとしても、8~10帖の比較的広いこども部屋であったとしても、同様に物置部屋になっているお宅を何軒も拝見してきました。
さらには、雨漏点検や床沈みの修繕をするために、まずは「持ち物の片づけ」からお手伝いを行ったこともあります。
「空室=物置部屋』になってしまうことは、実は誰にでも起こりうることなのだと思います。

大きな家に住み替える選択だけではなく、小さな家で収納部分を増やすなどのリフォームだって可能です。また、収納にお悩みなら、プロの整理収納アドバイザーなどに依頼して持ち物を点検・整理することによって、本当に必要な床面積がわかる可能性もあります。
『可変性のあるオリジナルの造作収納』を計画することで、部屋の用途が変わってもムダなく空間を利用することができますよね。

子ども時代はベッドとして。将来は物置に用途を変えられる造作収納。 4.5帖程度の部屋であっても こうして立体的に有効利用できますね。

子育てが終わったあと・老後中心の暮らし

つぎに、この事例について。
基本的に、老後を見据えた上で計画する場合は、階段などアップダウンのある暮らしはできる限り避けて「平屋」や「ほぼ平屋」に近い計画になりやすいです。
また、孫世代が誕生した場合も、盆や正月などに一時的に迎え入れる対応ができるように、2階に1フロアだけ用意しておくなど設計計画に事前配慮もできますね。
こうやって事前に配慮された空間が計画できることで、空室が不必要に残らず、モノも不必要に残留しにくくなるというのも特徴ですね。

老後を見据えた家を当初から計画しても、子育て中は、子ども自身も自室がほしくなる時期があります。
そのような場合に私がご提案したのは、子育て中は最低限の間仕切りを計画し、布団や生活用品を自室で管理できるようにすること。

こどもたちが家を巣立った後は、夫婦がまた使い勝手がいいように壁を取り払ってワンルームへとリノベーションをした、という例もあります。ひとりになりたい時もあるので、パーテーションで簡単に仕切れるような仕掛けもあり、今もうまく機能しているようです。
同時に、年齢を重ねて増えた持ち物を機能的に収納する場所もリフォームで新たに確保。 将来に渡って1階メインでモノを管理できるようになるので、住まい手のご家族も可変性がある空間の使い方に満足いただきました。

老後を見据えたリフォーム BEFORE

老後を見据えたリフォーム AFTER

今回のエッセイコラムはいかがでしたでしょうか?
これから新しい暮らしや住み替えを考えている方にとって、ぜひ「いつの時代を中心とした暮らしをしたいのか?」という点も意識してみてください。
そうすると、よりじぶんたちの「暮らし価値観」や「持ちモノ」にフィットした暮らしにつながると思います。

人は老い、変化していくもの。
変わりゆく「家族のかたち」に対して、わたしも柔軟に建築側で寄り添っていけるように大切にしていきたいな、と思っています。

「もっとほかにもたくさんのアイデアが知りたい!」という方がいましたら…
今回のような暮らしづくり&家づくりのアイデアは主にInstagram(@himawari_kobo)やブログ(azumasaori.com)に掲載しています。
手前味噌ですが、今や全国で共感の嵐が湧き、2020年4月現在は4万人を超えるファンの皆さんに関連するSNSをフォローして見守っていただけるまでになりました。
よろしければ、そちらも合わせてご覧いただければ幸いです。

3回目のアイデアはここまで。
お届けいたしましたのは、暮らしの設計士「あず」こと東沙織でした。
ではまた、次のエッセイコラムでもお会いしましょう。