「旅」と「暮らし」をテーマにした数多くの著書で知られるエッセイストの柳沢小実さん。世界各国へ旅をし、かわいいものや居心地のいい場所を現地で見つける「旅の達人」としても知られています。今はコロナ禍の影響で海外旅行の計画も難しい状況ですが、「おウチで旅気分」を工夫することで、毎日の暮らしはとても充実しているそう。旅先で集めたお気に入りのアイテムを見せていただきながら、お話を伺いました。
外出自粛期間は料理でシルクロードを旅行。 柳沢さん流のおウチでの過ごし方
旅を愛するエッセイスト、柳沢小実さん。今回伺ったのは、柳沢さんが3年前から暮らす一戸建ての注文住宅。おウチでのおこもり期間中は、どんな生活をされていたのでしょうか。
「旅と同じくらい、家にいる時間も好きなんですよ。旅は帰る家があるからこそ楽しめる、と考えています。今回のことは、家での時間、暮らしの大切さを見つめ直すきっかけになりました。ストレスも、ほとんどなかったですね」。
朝8時から12時まで、デスクワーク。テレワークで自宅にいるご主人と一緒に昼食をとり、13時から18時まで再び仕事をし、そのあとはふたりで晩ご飯をつくったり、たまに散歩に出たり。「このルーティーンが、意外としっくりときて、楽しかったです」と柳沢さん。
「それまでのトレンドは『時短』でしたが、今後は、丁寧で、手間がかかることが見直されるようになると思います。私も、じっくりと料理をしたり、収納を少しずつカスタマイズするなど、家に手をかけることができました」。
また、ご主人と「料理でシルクロードを旅する」というテーマを掲げ、シルクロード上の国々の料理をつくって楽しんでいたそう。
「中国からイタリアまでの13か国で、現在、シリアまできました(笑)。料理での旅、楽しいですよ。大好きな台湾料理もそれまでは『現地で食べるから』と手を出していなかったですが、よくつくるようになりましたね。もちろん、旅にはいつでも出たいです。でも、こうして食で気分を味わったり、家中にある旅のカケラ…旅先で出会ったたくさんのものを使っているだけでも、旅心は感じられるものだな、と実感しました」。
旅先のお買いものでやみくもにモノを増やさない! 柳沢さん流の「購入基準」とは?
旅好きな柳沢さん家のリビングには、さぞかしモノがたくさんなのでは……。そう思って訪れた取材スタッフは、意外にもそのシンプルさに驚きました。
実はインテリア用品はあまり買わず、実用性のあるものを選んで購入
「私、インテリアやスタイリングがそんなに得意じゃないんです(笑)。だから、飾るだけのモノは、ほとんど買わないですね。下手に飾ったら、家の中が散らかってしまいそうで。家は職場でもありますから、ホドホドに片づきやすい空間を目指しています。モノが多いと、掃除がしにくいですし」。
柳沢さんが旅先で買う基準は、「飾るだけではなく、実用があること」。キッチン用品や道具類、器が中心です。
「置き場所と、持っているものの量を把握した上で、買う買わないを判断しています。器と茶器は、増やしてもOK、とか。そんなに爆買いすることはありませんが、例えば、アジアのデッドストックやアンティークのうつわは、一期一会。もう二度と出会えないというものが多いから、気に入れば買う。でも、どうにも置き場所がないものには手を出しません」。
世界中から色々なアイテムが集まっても、テイストがバラつかない理由
また、アイテムの色調についても、独自のルールがありました。
「自分の中で、ある程度の色、質感を決めています。そうすると、いろんな国から集めたさまざまなアイテムも、全体的にまとまるんですよね。小さいものは派手な色でもよくて、大きいものは、悪目立ちしない色にすると、バランスが取りやすくなります」。
旅先から大切なアイテムを持ち帰るための用具とパッキングのコツ
限られたスーツケースで、旅のお土産を持ち帰るには、コツがあるといいます。
旅支度に精通した柳沢さんならではの工夫を伺いました。
「割れ物、器はいつも買うので、旅先には梱包材を必ず持っていきます。おすすめは、超強力保冷バッグ。本体が厚手でクッション性が高いので、器を入れて手荷物で持ち帰っても安心です。あとは、お土産といえば、食品ですよね。水分やにおいが漏れないように、タッパーやジップ袋があると安心です」。
このところあまり大きなものは買わず、なるべく小さなものを買うようにしている、という柳沢さん。集めている小皿は、スーツケースで洋服の間に挟んで持ち帰っているそうです。
旅先で出会ったアイテムを収納に活かして、暮らしの中にも旅の香りを
食卓用ディッシュは、アクセサリートレイとして使用
旅先での目利きには定評がある柳沢さんですが、まれにアイテムの使い道に悩むこともあるそう。それは例えば、気に入って買ったフランス製アスティエ・ド・ヴィラットのお皿でした。
「アイテムとしてはとても気に入っているんですが、食卓ではほかのお皿と合わなかった。でも手放したくない、と思ってアクセサリーを入れることにしたんです。失敗を失敗として認めたくなかったかもしれませんが(笑)、こちらの方がしっくりきました。旅アイテムにも、こういうミスマッチがままあると思います。思い出は手放せないけれど、ほかのものと合わなかったり、収納しづらかったり。手放す前に、本来の使い方ではない用途を探してみるのも手です」。
旅に出られない時間は暮らし心地を整えて、おウチでの時間を徹底的に楽しむ
整理収納アドバイザーの資格を持つ柳沢さんは、自称「動線オタク」。実践に基づいた収納理論を持ち、出しやすく、しまいやすい収納のシステムを完成させています。
「お皿の数、置き場所も、動線が大切。アクション数からムダを削って行けば、いろんなことがスムーズになりますし、収納の見直しは、自己分析にもなります。家の中を整えること、ものの置き場所と用途を考えることは、生活の充実感を上げてくれるんですね」。
家は、手をかけるほど、満足度が上がる。そうすると、仕事のモチベーションも上がる。衣食住のバランスが、幸せ度につながる…柳沢さんは、そう教えてくれました。
「今回のおウチ期間は、どう暮らすことが幸せなのか、じっくりと考える機会になりました。どこをどう変えたらより使いやすくなるかなど、改善点を見つけることもできたと思います。しばらくは、おウチで旅への想いを膨らませながら、快適に暮らしていきたいですね」。
今後は様子を見つつ、旅行業界を応援するためにも、まずは国内旅行を計画したい、と柳沢さん。「安心して海外に出られるようになったら、台湾、ベトナム、マレーシアなど、大好きな国々へも飛んでいきます!」と笑顔で話す姿がとても印象的でした。
今回教えてくれたのは…
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柳沢小実(やなぎさわ・このみ)
エッセイスト。
衣・食・住の暮らしや台湾・北欧などの旅にまつわる著書や雑誌への連載など多数。整理収納アドバイザー1級の資格も保有。著書は『これからの暮らし計画』(大和書房)、『わたしのすきな台北案内』『大人の旅じたく』(ともにマイナビ出版)など30冊以上に及ぶ。10月に読売新聞の連載をまとめた新刊が大和書房より発売予定。