ラジオパーソナリティとしても活躍中の「RAG FAIR」土屋礼央さん。マニアックな視点と軽快なトークが人気ですが、家族関係についてのユニークな発想も話題です。かつては「仕事の邪魔になるものはすべて省く」という極端な考えを持っていたという土屋さんが、どのように居心地のよい家庭を作ることができたのか。中学生の息子さんとの関係や、パートナーとの仕組みづくり、そして多くの夫婦が直面する「パートナーへのイライラ」を解消する独自のメソッドをじっくりと伺いました。

HOUSTO 編集部

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土屋礼央 プロフィール

1976年9月1日生まれ、東京都国分寺市出身のシンガーソングライター、ラジオパーソナリティ。2001年にアカペラグループRAG FAIRのリードボーカルとしてデビューし、紅白歌合戦出場などアカペラブームを牽引。現在はソロプロジェクト「TTRE」やラジオ、YouTube、鉄道・企業努力好きとして幅広く活動中。 著書は『ボクは食器洗いをやっていただけで、家事をやっていなかった』(KADOKAWA)、『捉え方を変えてみたら、大抵の事が楽しくなった僕の話』(主婦の友社)など多数。

「同居人」として刺激し合う、息子との心地よい距離感

現在、土屋礼央さんの一人息子は中学生。思春期に差しかかる難しい時期かと思いきや、土屋さんは「どこに出しても恥ずかしくない人になっている」と全幅の信頼を寄せています。

「うちの子は、もう息子という感覚を超えて、一人の立派な『同居人』。お互いに刺激し合っているし、学ぶことも多い。本当に優しくて、気配りもできて……。正直、僕よりもよっぽど立派。家族の中で一番優しいのは間違いなく彼ですよ。特に妻への対応なんて、見ていてものすごく参考になります。ありがとうの言葉を欠かさないし、どうすれば母親が機嫌よくいられるかのノウハウを、僕を反面教師にしながら誰よりも持っているんじゃないかな(笑)」

土屋さんは、息子さんを「家の中で一番の売れっ子」と位置づけています。塾やサッカーに忙しく、スケジュールが詰まっている息子さんを、家族全員でサポートする。そのスタンスが、自然と家庭内の風通しを良くするそう。

「昔は『仕事と家庭の両立』なんて考えていましたけど、妻に何度も言われたんです。『家庭があってこその仕事だ』って。仕事は代わりがきくこともあるけれど、家族の代わりは誰にもできない。すべては家庭ありきであって、だからこそ仕事ができるんだということを教えられました。今は、家庭がすべてのベース。一番忙しい息子をサポートし、妻をリスペクトする。そのスタンスが明確になってから、僕自身の生き方も楽になりました」

妻にワンオペを強いた、今思うと「ゾッとする」過去

今でこそ家族第一のイメージが強い土屋さんですが、それまでには大きな価値観の転換がありました。

「独身時代の僕は、恋愛も含め、仕事に支障が出るものはすべて排除したいと考えていました。ひどい男だったと思いますよ。結婚してこどもが生まれた後も、しばらくはその感覚が抜けなかった。土日はライブで埋まり、空いた時間には応援番組の仕事だと言い訳して、一人で韓国までサッカーを観に行ったり。妻が一人で育児を担う『ワンオペ』の大変さに、まったく想像力が働いていなかったんです」

当時の奥様は、不満を口にする余裕すらないほど追い詰められていたと言います。

「今思うとゾッとしますね。あのままの生活が続いていたら、間違いなく終わっていた。妻の中では、気持ちが切れる寸前だったようです。そこで修羅場を迎えて、ようやく目が覚めたんです。自分が変わったほうが揉めごとは早く終わるし、将来的に絶対に楽しいはずだ。そう考えて、自分自身のOSをアップデートする決意をしたんです」

家庭は「ラジオの生放送」。オンとオフをなくす合理的な選択

土屋さんは、家を「オフの場」とせず、むしろ「仕事と同じ緊張感と楽しさを持つオンの場」だと言います。

「僕はなるべく、オンとオフをなくしたい。家では、妻と息子を『僕のラジオ番組に来てくれたゲスト』だと思って接しています。ゲストに気持ちよく過ごしてもらいたいと思うのは、プロとして当然。どんな質問をすれば盛り上がるか、どうすればこの空間が心地よくなるか。それを考えるのは苦じゃないし、むしろ仕事のスキルが活かせる場です。家でオフになってダラダラして、家族に甘えてイライラをぶつけるより、ずっと合理的で疲れない方法なんですよ」

そんな土屋家の、ある日の朝は……。

「僕はだいたい夜1時くらいに寝て、朝7時に起きます。妻が作ってくれた朝食を食べたら、食器洗いとゴミ出しが僕の担当な事が多い。それ以外は全て妻がやってくれている朝です。その後、息子を送り出した後に『紅茶とスイーツを夫婦で楽しむ時間』があります。フリーランスという不安定な仕事だからこそ、意識的にコミュニケーションの時間を投資する。『夫婦の仲悪くなったら人生がもったいない』という打算的な入り口から始まった習慣ですが、今では僕にとって欠かせない時間です」

「イライラ」は期待の裏返し。相手を「投資対象」と考える

インタビューが進む中、話は多くの家庭が抱える「パートナーへのイライラ」という切実な悩みへ……。土屋さんは、自身の経験を交えながら、アドバイスをしてくれました。

「相手にイライラするのは、相手に『こうしてほしい』と期待しているからですよね?相手に期待しないようにしましょう、と言われても、じゃあそれってどうやるの?と思いますよね。僕が実践しているのは、家族にイライラしそうになったら『あ、今自分のレベルが低いんだな』と思うようにすること。もっと自分が懐が深くて色々カバーできれば、イライラせずに『これ、僕がやっておくよ』って言えると思うから」

「家事をやっている側からすれば、何もやらないパートナーって腹立たしい。でも、そこで感情的になっても、未来は明るくないですよね。僕は、パートナーを『10年後にリターンをくれる資産』とも捉えるようにしています。今、僕ががんばって食器を洗い、シンクをピカピカにして、妻が喜ぶ顔を見る。それは10年後、20年後に夫婦で笑って過ごすための『先行投資』。疲れた、ダラダラしたい…などの目先の損得ではなく、夫婦の将来という長期的な運用益を考える。そう思えば、排水口のネットを替えるのだって、楽しい投資行為になりますよ」

鏡としての夫婦関係。「嘘」から始まる円満があってもいい

「夫婦は鏡。相手を憎いと思うとき、実は自分も相手からそう思われているかもしれない。不毛な否定合戦みたいなもので、相手の至らなさを突くだけでは何も生まれません。だったら、まずは自分から歩み寄る。これが一番即効性があります。相手が変わるのを待つより、自分が変わるほうがずっと早いんです」

さらに土屋さんは、「入り口は嘘でもいい」という驚きのメソッドを提案。

「本当は心の中で『なんで自分がやらなきゃいけないんだ』と思っていてもいいんです。でも、形だけは『ありがとう』『今日も素敵だね』『いつもがんばっているね』と言ってみる。極論、入口は嘘でもいいから相手を褒め、心地良い空間を作る。そうすると、不思議なことに相手も変わってくるんですよ。人間、3回くらい良いアプローチをされないと心は動かないもの。本を1冊読んだからってすぐには変われません。じっくりと時間をかけて、関係を良い方向へ少しづつ調整する…これが僕がやってきたことです。

究極の理想は「籍で縛らない、自立した関係」

「僕の理想は、なんなら結婚していなくても、この状態で一緒にいたいと思える関係です。籍というルールで縛るのではなく、お互いの魅力に惹かれ合って、この人といるのが一番楽しいから一緒にいる、それが究極ですよね。もし仮に妻が浮気をしたとしたら、僕は『自分に魅力がなかったんだ、申し訳ない』と本気で思える。それくらいの覚悟を持って、日々、妻という一人の女性をリスペクトし続けたい」

パートナーや家族との関係に悩める人へ。土屋さんは最後に、温かいメッセージを伝えてくれました。

「自分から変わるのは、たしかにエネルギーがいります。でも、今日が人生で一番若い日。10年後の自分たちが笑っているために、まずは今日、自分がおいしいと思うスイーツを買ってきて、一緒に紅茶を飲むところからはじめてみませんか? はじめは相手もプンとしているかもしれないけど、相手が寄ってくるまで、自分が楽しそうにおいしいものを食べ続ける。『食べてみたいな』って言われたら、しめたもの。じゃあ、一緒に食べよう、って。そんな小さな『きっかけ』から、家族の形はいくらでもつくり直せるはずですから」

ここまで読んで、土屋さんの暮らしは「疲れそう」と思いましたか? 土屋さんに問うてみると「全然疲れないですよ!」と笑顔。決して無理な自己犠牲ではないそうです。家族はチーム。どうすればお互いが気持ちよく過ごせるかをじっくり考え、自分から動いてみる。それは、結局のところ、自分が一番楽しく過ごすための、もっとも賢いやり方なのかもしれません。

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