散らかった部屋をゼロからリセットしたい! そんなふうに思ったことは、誰でも一度はあるのではないでしょうか? 失恋をきっかけに、そんな発想を実際に行動に移してしまった若者の1年を追った映画『365日のシンプルライフ』は、モノと人生の関係について考えさせるドキュメンタリーです。

HOUSTO 編集部

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洋服1枚も許さない!モノ好きが挑戦する、部屋に「モノ0」、1年がかりの大実験

©Unikino 2013

「”モノ”とは何なのか」

空っぽの部屋で、そう自分に問いかけることから始まるこの映画は、2013年制作のフィンランドのドキュメンタリー。

監督・脚本・主演のペトリ・ルーッカイネンは、モノが大好き。部屋は洋服や釣り道具、オーディオセット、外国の楽器など、たくさんのモノであふれています。しかしある日、自分がモノに支配されている気がしたペトリは、生活をリセットする”実験”を始めました。

実験のルールは4つ。

1.持ちモノ全てを倉庫に預ける
2.1日に1個だけ倉庫から持って来る
2.1年間、続ける
4.1年間、何も買わない

ルールを徹底したペトリは初日は服もなく、裸で雪の降る町を倉庫までダッシュ! そして取り出したモノとは…?

生活の必需品が1個ずつ増えて行く様子は、都会の真ん中でありながら、ヒトが文明を持つ過程を見るよう。生きるために本当に必要なモノを倉庫から1つずつ見極めることで、自分が持っているモノの存在価値をペトリは実感していきます。

洋服を身につける心地よさ。愛に包まれるようなベッドの寝心地。1つ持ち帰るたびに幸せに浸り”モノ祭り”だと喜ぶペトリの感動を、この映画では追体験できます。そして、私たちの暮らしにあるモノも必要があって買った大切なモノだと、思い出せるような気がしてきます。

冷蔵庫がなければ窓辺で冷やせばいい!何もないからこそ気がつく、モノの汎用性

©Unikino 2013

また、「何も買わない」ルールは工夫を生みます。冷蔵庫がないので食料は寒い窓の外に置いたり、お気に入りのカバンが壊れたら直したりと、ないものは工夫し、壊れたら直すという暮らしには、消費社会のありかたを考えさせられます。

モノとの付き合い方を見極めていくと、意外といらないものが多いことに気付くペトリ。シンプルな服を着回し、携帯電話も持たず、「モノはなくても生活できる」と実験で証明してみせます。

ムダが削ぎ落とされた生活感のない部屋は、一度は住んでみたい憧れの部屋。でもそこに暮らすペトリの顔からは、どこか喜怒哀楽まで削ぎ落とされてしまったよう。これは果たして幸せな状態と言えるのでしょうか?

生活必需品と生活を潤わせるモノ、その兼ね合いこそがシンプルライフの難しさ

©Unikino 2013

そんな表情の乏しいペトリの顔に生気が蘇る出来事が起こります。それは、ある女の子の登場。そう、新しい恋が始まったのです。

初デートに向けて倉庫から服を選んだり、少ない持ち物の中から工夫して頼れるところをアピールしたり、アウトドア好きの彼女のためにデートプランを考えたりと、いつしか実験の軸は「楽しむために必要なモノ」を探すことに変わります。そしてデートを重ねるたび、修行僧のようにストイックだったペトリの表情は、明るさを増していきます。

生きていくために必要なモノと、喜びを与えてくれるモノは、やっぱり違うみたいです。モノとの付き合い方を考えることは、人生で大事なものを考える作業なのかもしれませんね。

モノと人生を見つめ直す金言の数々。北欧でミニマリズム実験が大旋風!

©Unikino 2013

さて、この映画に登場するのはすべて”ホンモノ”で、リアルな北欧ライフが垣間見られるのも楽しみのひとつ。ひげ剃りを持たない息子の顔を見て爆笑する母。携帯を持たないペトリにイラつきつつ家具を修理してくれる友人たち。仲良しの弟は、冷蔵庫を持たない兄に差し入れを届けてくれるだけでなく、「目覚まし時計がないから起こしに来て」という無茶な頼みも笑って受け入れてくれます。

中でも、困ったらいつも相談に乗ってくれる優しいおばあちゃんとの会話シーンは必見。戦争経験者ならではのモノへの考え方が語られるほか、モノとの付き合い方における金言の数々は、メモを用意して耳を傾けたいところ。暮らしのなかのモノの役割について考えさせられます。

加えて、背景のインテリアにも注目。スッキリと片付いていながらも、家族の写真や思い出深い食器など厳選したモノが並び、部屋づくりの原点に立ち帰れるような素敵なお部屋です。

実験を通してペトリは、自分を幸せにするモノ、人生で大切なモノを見出していきます。この映画が公開された2013年はミニマリストという言葉が生まれる前ですが、フィンランドでは多数の“実験”フォロワーが生まれ、若者の間で一大ムーブメントとなったそう。

フィンランドは幸福度ランキングでは世界でも常に上位で、自分でモノを作るDIYや、リサイクル・リユースの文化も根付いています。ペトリが実践するフィンランドらしい「シンプルライフ」は、私たちの暮らしをシンプルに、かつ豊かにするヒントがたくさん含まれているかもしれません。

映画&DVD情報

  • 365日のシンプルライフ(2013年/フィンランド/フィンランド語/カラー/80分)
  • 監督・脚本・主演 ペトリ・ルーッカイネン
  • DVDリリース 2015年5月23日
  • 提供・配給 パンドラ+kinologue ©Unikino 2013
  • http://www.365simple.net/