少年たちがDIYした「動く小屋」は、全てが詰まった夢の空間
モノを持たないシンプルな暮らしが注目を集める中、「小屋」が静かなブームになっています。「無印良品の小屋」などおしゃれな小屋も製品化されているほか、比較的ローコストで建てられるとあり、YouTubeには「◯万円で小屋を作ってみた」とDIYの模様を追った動画がたくさん上がっています。
手の届くところにすべてを収納するミニマムな空間は、子どもの頃の夢が詰まった空間。憧れている人も多いのではないでしょうか。
さて、この映画にも憧れの小屋が登場します。その小屋は、なんと車輪付き! エンジン搭載で自走できてしまう小屋なのです。その「動く小屋」ができた経緯は、二人の少年の出会いに始まります。
主人公のダニエルは女の子に間違われるほどあどけない顔の少年で、クラスメイトからミクロ(チビ)とバカにされ、周囲からも浮きがち。そのダニエルのクラスに、変わり者の転校生・テオがやってきます。目立ちたがり屋で、でもどこか知的な面も持つテオ。二人はすぐに意気投合し、親友になっていきます。
その二人の繋がりをさらに強くしたのが一緒に取り組んだDIY。スクラップ屋で見つけた壊れたエンジンを修理した二人は、そのエンジンで車を作り、夏休みに一緒に旅に出る計画を立てたのです。
町を駆け回って廃品をかき集め、見事に車を完成させた二人。しかし、手作りの車に道路を走行する許可が降りるはずもなく、旅の計画に暗雲が…。しかし、ダニエルが素敵なアイデアを思いつきます。
それは、車ではなく車輪付きの「家」にしてしまうこと。かくして車DIY計画は「動く小屋」DIY計画に姿を変えていきます。
小屋というミニマムな空間で成長する少年の心
子どもの頃には、自分だけの空間に憧れるもの。それを友達と作れたら、なお嬉しいですよね。でも現実は思い通りにはいかず、ダニエルの部屋も弟との共有。母親は愛情ゆえに過干渉で、家族との距離感に悩んでいます。
そこでダニエルたちがDIYする小屋は、親にも兄弟にもジャマされない自分たちだけの空間。捨てられていたソファを置き、船のような丸い窓を取り付け、あるもので工夫しながら作る理想の空間は、まるで秘密基地。お金がなくても知恵を絞って実現する14歳の情熱には、昔を思い出す人も多いはず。
また、親から離れて自分の場所を作ることは、自立への第一歩。両親から独立した時のワクワク感や不安などを、懐かしく思い出す人もいるかも。一人暮らしをこれから始める人なら、きっと共感できる心情です。
自分たちでDIYした小屋で、ダニエルとテオはときにぶつかり合いながらも、何かを乗り越えていきます。フランスの森の小径を走る小屋の中で、二人の少年が成長していく様子にも注目です。
フランスの日常生活を垣間見られる美しい映像にも注目!
ミシェル・ゴンドリーは、ビョークをはじめダフト・パンク、レディオヘッド、ベックなど数々の大物ミュージシャンのミュージックビデオを数多く手掛けてきた監督。ユーモアのある美しい映像も、この映画の魅力です。
フランスの色鮮やかな街並みだけでなくインテリアも必見! ダニエルの家のシックな内装は、巻き戻して確認したくなるディテール満載。男兄弟の子供部屋すらおしゃれです。ベッドにアンニュイな様子で座り、両手でカフェオレボウルを包み込むように持つ母親役のオドレイ・トトゥは、オリーブ少女時代に憧れたフランスの素敵な女性そのもの。
一方で、古道具屋を営み裕福とは言えないテオの家も、どこか好奇心を掻き立てられる不思議な空間。売れるとは思えないガラクタが詰まった雑多な空間は、これもまた憧れの蚤の市を思わせるからでしょうか。
実はゴンドリー監督、若い頃にインテリア専門学校に通っていたのだとか。作品中のお部屋が素敵なのも納得! 小屋に限らず、フランスのインテリアや生活風景も楽しめる作品です。
「小屋」という小さな空間は、日本の茶室にも通じるように、己と向き合い心を整頓する場所でもあります。ある意味、日常と非日常が交錯する場所。14歳の多感さゆえに悩む少年が「小屋を作る」ことを思いついたのも、自分の心と向き合いたかったからかも。
少年の心の成長を追いつつ、もう一度「自分の理想の家」と向き合いたくなる映画です。
映画&DVD情報
- グッバイ、サマー(2015年/フランス/フランス語/カラー/104分)
- 監督・脚本 ミシェル・ゴンドリー
- DVD&BD発売中 DVD:3,900円(+税) BD:4,800円(+税)(発売・販売元 株式会社ハピネット)
- 提供 シネマライズ+トランスフォーマー、配給 トランスフォーマー、宣伝 ミラクヴォイス
- http://www.transformer.co.jp/m/goodbyesummer/