HOUSTO編集部が「今、気になる本」をシェアするストレージレビュー。今回は堀井和子さんによるエッセイをご紹介します。
毎朝のていねいな食事。でも「ていねい」は目的じゃない、やりたいからやる気持ちが大切

料理スタイリスト、粉料理研究家である堀井和子さんが手がけた『早起きのブレックファースト』。朝食が好きだと語る堀井さんの、パンとミルクティーへのこだわり、愛用している日用品への思い、旅先での出来事が軽やかに綴られているエッセイです。
この本、初版発行はなんと1998年。もう27年も前になるのに、タイムスリップ感をほとんど匂わせないことに驚かされました(気になったのは、いちごが1パック200円だったという記述。今は1,000円することもあるのでインフレを実感します…)。
堀井さんの朝はパンと決まっています。たくさんつくって冷凍しておいた自家製の丸パンや食パン。ミルクたっぷりの紅茶。朝食の準備は毎日繰り返されますが、パンの解凍方法ひとつとっても強いこだわりを持ち、ていねいに行っていることが伝わってきます。
そう書かれると身構えてしまうかもしれませんが、この丁寧さは肩の力が抜けた心地よいもの。決して押しつけがましくなく、「そうやりたいからやる」という思いにあふれているのです。
「面白いからやる。楽しいからやる。おいしいものが食べたいから料理する。つまり私がやりたいから、夢中でやるのが大事だと思う」。
これは部屋の片づけに関するエッセイで書かれていた言葉ですが、きっと堀井さんの暮らしすべてに通ずることでしょう。「ていねい」は目的ではなく、やりたいからやる。その考え方にホッとさせられます。
写真がほとんどないからこそ、想像力をかき立てられる
堀井さんの本は、写真やイラストもすべて自身で手がけられているのがおもしろいところ。本書にもいくつか掲載されていますが、エッセイ本なのでそれほどアートワークは多くありません。お気に入りのカップやお盆がどんなふうか、お気に入りの擂り胡麻パンのつくりかた、家を建てるとしたらこんな感じがいい……などなど、多くはビジュアルに頼らず堀井さんの言葉で説明されています。
読み進め、堀井さんの描写を頭の中で組み立てるうち、それらは「堀井さんの情報」から「私自身が欲する情報」に少しずつ変化していくことに気づきました。「あれと同じモノがほしい」「これをそのまま真似したい」ではなく「私ならどうするか、どうしたいか?」と想像力がかき立てられるのです。
今の時代、ライフスタイル本やインスタグラムなど視覚情報が入り口となるケースはとても多いはず。有益な情報源としてもちろん今後も活用していきたいですが、暮らしの方向性に迷いがある場合は、一度シャットダウンするのも手です。しばらく使っていなかった自分自身の想像力に喝を入れる。そんな言葉がしっくり来ます。
堀井さんの視点を、自分自身の暮らしに落とし込むと?
『早起きのブレックファースト』は、何気ない日常に幸せを見つける視点を教えてくれます。そして私に暮らしに必要なモノはなんなのか、考えるきっかけも提供してくれています。
暮らしを大枠でとらえすぎると、「私には大したこだわりがない」「センスがない」などと考えて落ち込むこともあるかもしれません。でも、暮らしは小さなこだわりの集合体だと私は思います。「私はこの器が好き」「わが家の朝ごはんはご飯とわかめの味噌汁があればいい」…。ちょっとした好みやこだわりが積み重なり、日々を豊かにしてくれるはずです。
そんなことを考えていたら、私自身の小さなこだわりを誰かに話したくなりました。
さて、あなたの「好き」はなんですか?
書籍情報

早起きのブレックファースト
堀井和子 著
河出書房新社
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309421629/