HOUSTO編集部が「今、気になる本」をシェアするストレージレビュー。今回取り上げるのは、話題の「ジジイ」シリーズ記念すべき1冊目、『ジジイの片づけ』です。

HOUSTO 編集部

HOUSTO 編集部

HOUSTO公式アカウントです。当サイト独自の目線で、毎日の暮らしがちょっと豊かになる情報を定期的にお届け中です!

https://www.instagram.com/ouchinoshunou/

美しく整えるのではない。まずは片づける! それが整理収納の始まり

暮らし系の取材が多い仕事柄、私はこれまで数々の片づけ本を手に取ってきました。その中でも異彩を放つ存在なのが、この『ジジイの片づけ』です。本書は片づけのテクニックや収納術を教えてくれる本ではありません。しかし、「まずはやってみようかな」と思わせてくれる、そんな力が詰まった1冊です。

著者はイラストレーター・エッセイスト・絵本作家の沢野ひとしさん。本書は身の回りを整理し続ける沢野さんがこれまでの人生を振り返りつつ、片づけや愛着のあるモノについての思いを綴るイラストエッセイです。

毎朝10分、リビングや机の上を片づける習慣。引き出しは一番上を空っぽにしておき、一時的なモノの避難場所として使う。山登りに持参するザックの中身は最小限に、必要なアイテムを取り出しやすくしておく…。風通しよく、すっきりと暮らすための沢野さんの工夫がぎゅっと詰まっています。

中でも印象的だったのは、「整理整頓」と「片づけ」の違いに関する考え方でした。片づけるのではなく、ただ整理整頓が好きな人は目当てのものがなかなか見つからない。きちんと分類されて一見便利そうでも、結局中身をひっくり返すことになるものだと、沢野さんは薬箱を引き合いに出して説明しています。隙間なくきっちり分類するよりも、まずは薬が入っていた箱や期限切れの古い薬を捨てること。これが、沢野さんの考える「片づけ」です。隙間を多くとり、欲しいモノがすぐに見つかるようにしておくことが大事なのです。

こうした「人の生活とともに必要なものが動き、生きた状態にすること」が、片づけである。

美しく収納することよりも、まずモノを減らして片づける。沢野さんのこの言葉に、片づけの核心が詰まっている気がします。

「旅行に何を持っていくか」。それは「家で何を持つか」とほぼ同じ

どうしてもモノが減らせないと悩む人は、旅行に持って行く荷物を減らすことから始めてみればいいのではないでしょうか。沢野さんも、本書収録のエッセイ「旅行鞄とその中身は、自分の部屋の小型版」でこの話題に触れています。

旅行アイテムは、まさに「あったら便利かも」の宝庫です。荷物を圧縮する衣類袋、安眠クッション、洗面道具を吊り下げるケース、スーツケースにバッグを留めるベルト。こうしたものはたいていお手頃な価格で手に入るので、買うかどうかを決める心理的なハードルも低い。あれば確かに快適かもしれません。でも持っていなくても、実はそれほど旅自体に支障をきたすことはないはずです。

このレビューを書いている筆者自身の話になりますが、今年は親子留学のためニュージーランドに約3ヵ月間滞在。持ち物は最小限で、親子3人でトランクは大サイズを2つ、機内持ち込みサイズをひとつだけに抑えました。少ない荷物でも滞在中はまったく困らなかったため、「日本の家に置いてきたモノは生活必需品ではないのだ」と痛感。結局、一部の思い出の品を除き「あったら素敵(でもなくてもいい)」「ただなんとなく持っている」「不要だと分かっているのに捨てられていない」モノばかりだったということに改めて気づかされました。

トランク自体も、小さいほうが断然いいのです。

トランクも部屋と似ていて、広ければ広いほど役に立たない物を入れてしまう傾向にかたむく。

沢野さんのトランクは年を重ねた今、中型のシンプルなタイプに落ち着いているそうです。旅は往々にして非日常ですが、実は日常の暮らし方を的確に映し出す体験だと言えるかもしれません。

ジジイの生き方は、モノ選びにも反映されている

『ジジイの片づけ』は片づけ指南本ではなく、あくまでエッセイ。さらりと軽快に読み進められるのに、今すぐに家の片づけがしたくなる不思議な魅力があります。続刊の『ジジイの台所』『ジジイの文房具』も手にとることとなったのは当然の流れ。

台所には本当に必要なモノだけを置きたいと思いながらも、妻が衝動的に買ってくるキッチン家電には何も言わず、ジジイはじっと耐える。口をつぐむ沢野さんの姿を想像してクスッとしながら『ジジイの台所』を読み進めました。

いっぽうで『ジジイの文房具』は、「モノは少ないほどいい」「使わないなら捨てるべき」といった考えからは遠くかけ離れ、数々のペンやノートが登場します。著者の文房具愛がひしひしと伝わってくる内容です。

沢野さんにとっての文房具は、私にとって何だろう? どうしても手放したくないモノ、手放すことなんて想像もできないモノは、きっと誰にでもある。すっきり暮らすほうが快適だけれど、その聖域は無理に越えなくてもいいですよね。

人生は、そんな複雑な思いが交錯するもの。沢野さんの3冊を読んで、深く実感したのでした。

書籍情報

ジジイの片づけ
沢野ひとし 著
集英社クリエイティブ
https://www.shueisha-cr.co.jp/book/4598/

あわせて読みたい