デビューから30年以上、波乱万丈の日々を送ってきた漫画家の西原理恵子さん。現在のペットは、18歳の高齢猫「文治さん」「菊美さん」の2匹。そこへ毎日、アシスタント愛さんの飼い犬、柴ミックス「駒ちゃん」10歳が出勤してきます。8年前には保護犬の「ぽんさん」を、また4ヶ月前には、17歳の猫「こぶちゃん」を見送ったばかり。ライフステージの変化に寄り添うペットたちとの日々、そして片付けや収納についての考えまで、仕事場でインタビューしました。

ライター・山野井

ライター・山野井

思春期まっただ中の10代男子と、天然な夫との3人家族。鎌倉の小さな家で、インコとワンコと共に暮らしています。趣味は旅と料理、マイペースでフランス語を勉強中。

西原理恵子 プロフィール

1964年高知県生まれ。マンガ家。武蔵野美術大学卒。1988年、週刊ヤングサンデー『ちくろ幼稚園』でデビュー。1997年に『ぼくんち』で文藝春秋漫画賞、2004年『毎日かあさんカニ母編』で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、2005年には『上京ものがたり』、『毎日かあさん』で手塚治虫文化賞短編賞、2011年に『毎日かあさん』で日本漫画家協会賞参議院議長賞を受賞。著書に『この世でいちばん大事な「カネ」の話』『パーマネント野ばら』『ダーリンは81歳』『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』『りえさん手帖』など。最新作は『ねこいぬ漫画かき1』(新潮社)。

最新作『ねこいぬ漫画かき1』(新潮社)

笑いあり、癒しあり、せつなさありのサイバラ流センチメンタルコミック! アメショーの「文治さん」「菊美さん」「こぶちゃん」の愛猫3匹に加え、新たにやってきた保護犬のゴールデンレトリバー「ぽんさん」。怖がりで外が嫌いだけど、90代で超毒舌の母・淑子すらも思わず慈しむかわいさで、かけがえのない日々が始まる……。
『ねこいぬ漫画かき1』(新潮社)

カラーボックスに埋もれた整わない家で育った。ゴミに家賃は払わないぞ!という決意が生まれた

「最近、猫に話しかけてる老人の気持ちがやっとわかりましたね。最終的には植物にも話しかけるでしょ、『よく咲いたね』なんて。どんどん私もそんな気持ちになってきちゃって」
自然光がたっぷりと入る明るい仕事場で、西原理恵子さんは「営業部長」こと18歳の老猫、文治さんを抱き、やさしく微笑んでいました。足元には、毎日通勤してくる柴ミックスの駒ちゃんが気持ちよさそうに寝そべっています。

長年、漫画の締め切りと格闘。アルコール依存症の夫を見送り、2人のこどもを育て上げ、さらには認知症の90代のお母さんを自宅で介護する……目まぐるしい日々を送ってきた西原さんですが、お母さんが施設に入ってからは、ずいぶん気持ちも落ち着いたといいます。
「施設入居を機に、母の荷物を処分したんですが、これがかなり大変でした。小さめのトラック6台分。よく家の中に収まってたな〜という感じです。どれもこれも、ときめかないモノばっかり(笑)。引き出物の鍋セットとか、一度も袖を通したことのない着物とか。母は『着物は財産やき』ってよく言ってましたけど、全部安物でしたね。それらがテトリスみたいに、ギチギチに収めてあったんです」

「捨てられない」お母様とは真逆で、西原さん自身は「絶対に溜めたくない」タイプ。現在のご自宅と仕事場は、収納にこだわって設計されたそうですが、そこには過去からの反動もありました。
「色もサイズも違う安いカラーボックスを並べて、挙句にみかん箱にモノを押し込んで収める……みたいな、整わない家で育ちました。上京してから住んだ貧乏アパートにも、収納がほとんどなかったから、なかなかモノが収められなかった。そこに無職の彼氏が転がり込んだら、さらにモノが溢れかえるわけですよ。無職は家で掃除一つしませんから。片付けても、片付けても、追いつかない。もう本当に、そういう自分が嫌でしたね。そこに捨て猫を拾ってきちゃって、病気の猫のために病院代を稼ぐ、家は散らかる、の堂々めぐり。ゴミ屋敷ですよ、まさに。そのうち、私はずっとこんなゴミのために家賃を払ってるのか、と思ったんです。そこに気づいてからは、もう引っ越しのたびに『ゴミには家賃を払わないぞ!』と、捨てて捨てて、捨てまくりました」

現在の家には、各部屋に造り付けの収納を設置。家具もなるべく買わないようにしていると話します。
「何か新しいモノを買うというのは、いつも躊躇しますね。買うくらいなら、今まであるモノでいいやと思っちゃう。何もなくてガランとしているところが好きなので。その方が、動物たちとも暮らしやすいですし」

老猫との暮らしは、24時間ケア体制

「動物はいいですよ、やっぱり。今は休日も好きなだけ寝ていられるんですけど、動物がいると『ご飯、ご飯』って起きて、あれしなきゃこれしなきゃって、生活サイクルを整えてもらえる。だからダラダラしなくて済む。これが、ちょうどいいんです。うっかりネットを見たりして、悪い心になるのも防いでくれる(笑)」
老猫との暮らしは、「数時間おきに叩き起こされる日々」。
「今いる猫は2匹とも18歳。かなりの老齢なので、24時間、気まぐれに起きるんです。バシバシ叩いて起こしにきて、挙句にゲロを吐く。今はそれを片付けるのが、私の主な仕事になってます。だからなるべく数時間おきに、少しずつの餌を与えるようにして。まあ、こちらも眠りが浅いし、夜中にしょっちゅうトイレへ行くから、もう気にならなくて。トイレのたびに餌をあげて、また吐かれ……一日中、ゲロ掃除ですよ。むしろ仕事の合間はそれが息抜きになっているほど(笑)。」

『ねこいぬ漫画かき1』(西原理恵子/新潮社)より

4ヶ月前には、17歳の猫こぶちゃんを見送りました。
「こぶちゃんの介護は、長かったですね。ところ構わず便を垂れ流すタイプだったからこちらも大変。消毒液でずっと床を拭き続けてました。その作業からは解放されて、体は楽になったというのが本音ですね。亡くなったときは、いままでよく頑張ったよね、と言いました。お疲れ、母さんも疲れたよ、ってね」

一緒に暮らしてトイレができる。ペットはそれだけで満点

西原さんの動物たちとの付き合い方は、とてもフラット。過度な期待も、愛情の押し付けもありません。
「ペットは裏切らないっていいますけど、そうかなあ、と思う。毎日裏切られてるかも(笑)。実際、何を考えているかわからない。そこまで飼い主のことを好きでもないのかもしれない。動物に忠誠心を求めるみたいな気持ちには、違和感がありますね。従わせるというより、『まあ、うちでゆっくりしててよ』っていう感じ。だって、晩年のこぶちゃんは別ですけど、みんなちゃんとトイレを覚えて、そこでするんですよ。決めた場所で。もう、それで十分ですよ。それ以上のことは求めない」

『ねこいぬ漫画かき1』(西原理恵子/新潮社)より

出会いも、できるだけ縁まかせ。拾ってくるか、保護犬・猫

「うちの場合は、購入っていう選択肢はなかったですね。困っている子がいるなら、そういう子を連れて帰りたいと思う。飼っていた子を亡くすと、ペットロスにもなりますけど、思い出に浸っている時間があったら、早く次の困ってる子を迎えたい、と思うんです」
かつての愛犬・ぽんさんは、西原さんにとって「犬の概念を覆した存在」だったといいます。ぽんさんは出会った当時推定4〜5歳のゴールデンレトリバー。保護センターから保護団体を通してやってきた保護犬でした。

写真提供/西原理恵子

「私はそれまで犬を飼ったことがなかったんですよ。ぽんさん、本当にいい子で、これまで付き合ったどの男よりも頭が良かった(笑)。だいたい、犬ってこんなに賢いんだって知らなかったから。こどものころは、地元(高知県)で、誰にでも吠える昭和の外犬しか見たことがなかった。ちゃんと座ってずっと待ってるとか、びっくりしましたよ。ぽんさんとの日々は、感動の連続でした」

うちにいる間はのんびりして。そんな気持ちで過ごした犬時間

西原家に引き取られた当時は、ガリガリで、歯もすり減っていたというぽんさん。ガレージのようなところに放置されていたのでは、と推測されています。トラウマから、散歩も大の苦手だったそう。
「賢い犬種なので、外に出るっていうと『どこか、また怖いところへ連れてかれる』と思っていたんでしょうね。無理に散歩させて、気の毒だったな、と今は思うんです。よその犬にも、すごく怯えてましたね。『私は家の中でおやつをもらいながら撫でてもらうのが一番なんです』という感じでした。一緒にいた期間は短かったですが、うちにいる間は、のんびりできたんじゃないかなあ」
Googleストリートビューには、西原さんとポンさんが散歩する姿が今でも残っているそう。
「ときどき、その写真を眺めています。あの子が生きていた証。私にとって、宝物のような写真です」

『ねこいぬ漫画かき1』(西原理恵子/新潮社)より

後編では、西原さんが60歳を過ぎてたどりついた、これからの人生「黄金の15年」の過ごし方。そして、その時間をすこやかに生きるための「三種の神器」について伺います。

アシスタント・愛さんが飼っている通勤犬、「駒ちゃん」

あわせて読みたい